陸上・駅伝

特集:パリオリンピック・パラリンピック

順天堂大学・三浦龍司×村竹ラシッド対談(下)世界との戦いも、チームのための走りも

世界への思いと大学ラストイヤーに向けた意気込みを語り合った(撮影・瀬戸口翼)

順天堂大学の駅伝主将を務める三浦龍司(4年、洛南)と陸上競技部の副主将を務める村竹ラシッド(4年、松戸国際)。ともに昨年のアメリカ・オレゴン世界陸上に出場するなど日本トップレベルの実力を持ち、世界と戦っています。同期2人の対談の後編は、世界の舞台への思い、そしてラストイヤーの目標についてです。

【前編】順天堂大学・三浦龍司×村竹ラシッド対談(上)走りでチームを引っ張るラストイヤー

世界との戦いを経験して

――三浦選手は2021年の東京オリンピックに出場されましたが、村竹選手は参加標準記録を切っていながら、選考となる日本選手権の決勝で不正スタートで失格となってしまいました。あの時はどのようなお気持ちでしたか。

村竹ラシッド(以下、村竹):当時はすごく悔しかったです。でもあの頃は腰が痛すぎてまともに走れない時間が続いてしまっていたので、仮に出場が決まったとしてもちゃんと走れたかは少し怪しいなというところはありました。ただ、あの悔しさがあったからこそ今こうして頑張れている、という部分はあるので。なんというか、強くなるために必要な出来事だったのかなとは思います。

龍司のレースはテレビで見ましたが、同期とは思えない活躍ぶりで、自分のことのように誇らしかったです。あの舞台で緊張はしなかったの?

三浦龍司(以下、三浦):当時はコロナ禍で国際大会もなくて、いきなりオリンピックで……そこに「飛び込んだ」っていう感じだったかも。最初だからこそ恐れ知らずの状態で突っ走っていったなという感じがします。

逆に、去年の世界陸上の予選はすごく緊張しました。当たり前ですけど環境も国も違って、調整の仕方も全部違っていて「ああ、これが世界大会なのか」と肌で感じながら挑んでいた大会でしたね。

昨年の世界陸上は、東京オリンピックのときより緊張したという三浦(代表撮影)

村竹:僕は去年の世界陸上がシニアの世界大会初出場でしたけど、結果としては13秒73(+0.2)、組6着で予選敗退と全然ダメでした。でもまず出場できたことが、自分にとっては何物にも代えがたい経験だったとは思いますし、今年の世界陸上にまた出場して、さらに上に行きたい理由にもなりました。こういう経験をしないと強くなれないのかな、と改めて認識させられた感じですね。

――お二人は今年のブダペスト世界陸上の参加標準記録を突破しています。今年出場できたらどのように走りたいと考えていますか。

三浦:僕は去年の世界陸上が終わった段階で「もっとブラッシュアップしないと」と思って取り組んできて、その結果がダイヤモンドリーグに結びついたかなと思っています。それなりに自信も得て、走力を上げられた感覚もあるので、もっとそれを生かしていきたいです。

今年はやっぱり決勝に残って勝負したいと思っているので、まずそれが叶(かな)えられるように。確実に去年より良い結果と手応えを持って帰りたいなと思います。

村竹:僕も、確実に去年よりは戦える体になってきている自信があります。今年はもし出場できたらまずは準決勝進出を最低ラインにして走れればいいなと思っています。

村竹にとって初の世界陸上は、課題が残るレースとなった(代表撮影)

――参加標準記録を突破したのが、3月11日のオーストラリアでの試合でしたけど、調子が上がってきている感触ですか。

村竹:正直あの時はそれまでの合宿の疲れもあったので、13秒40〜50ぐらいが出たら上出来かなと思ってました。それが13秒25の自己ベストで……「走れてしまった」という感じですね。海外でマークしたタイムということで、とても大きな自信になりました。でも、ちょっと予想外でした。

三浦:僕も東京オリンピックの予選で自己ベスト(日本記録、8分09秒92)を更新した時は、「出てしまった」という感じでした。予選をどう戦って決勝に進むかを考えていて、タイムのことは全く考えてなかったです。もしかしたらタイムに集中しすぎないほうがいいのかもしれない。

村竹:そうかもしれない(笑)。

三浦:とはいえ、8分15秒以下じゃないと世界と戦うには難しいなと思っています。去年のシーズンベスト(8分12秒65)あたりを安定して出せるようになれば、決勝に残ることも可能になってくるのかなと思います。あとは、7分台は目標として追いかけたいですね。

村竹:僕は今年は13秒10台は絶対に出したいと思っています。そしてそれをコンスタントに出せるようにならないと、世界陸上やその先のオリンピックで戦えないと思います。まずは13秒10台を出して継続すること。それができたら、13秒0台、あわよくば12秒台も狙って、それを何回も連発できるようになれば、世界で十分戦える選手になれるんじゃないかなと思います。

休みの日、何してる?

――この機会なので、お互いがお互いに聞いてみたいことはありますか?

三浦:なんだろう。普段、フラットに話すことはあるけど。

村竹:いざ考えると難しいな……。そうそう、休みの日はなにしてる?

三浦:うーん、シーズンになってくると、本当に休める「自分の時間」というのがなかなか取れないので、時間ができたら寮の自分の部屋でゆっくりするか、寝るかな……。ほとんど外に出なくなっちゃうかも。ラシッドは?

村竹:僕もシーズン中の休みはほぼ寝てるかも。普段動いてる分、何もしない時間がほしいって思う。ひたすらベッドにこもって寝てるかも。

三浦:めっちゃわかる。今は友達と一緒にゲームしたりしてるけど、シーズンになったら休日は冬眠(笑)。

村竹:僕も今は友達や同期、後輩の家で一緒に集まってゲームしたり、ゲームセンターに行くこともありますね。あとは夜中に銭湯に行って、露天風呂でリラックスしてそのままずっと寝てるとかですかね。

普段動いている分、シーズン中の休みは「ベッドにこもって寝てるかも」(撮影・瀬戸口翼)

三浦:110mHのスタートって、0コンマ何秒を争うすごい世界だと思うんだけど、スタート前の集中の入り方ってどうしてるのかなって思って。

村竹:集中の入り方か……。僕は「集中しよう」って思って集中できないんだよね。アップの時とか他の選手の動きを見て「うわ、めっちゃ速いやん」とかいろいろ考えちゃう。ずーっとそんな感じで、「On your marks」がかかった瞬間に、ようやく集中できる感じ。ふって入って、何も気にしなくなって、あとは音を聞くだけ、って体がなってるかな。

三浦:なるほど。長距離だとスタート時にグッて集中するというよりは、周回を重ねているうちに、レース中に集中に入るって感じが強いかも。あ、あともう1つ質問ありました。モチベーションの保ち方というか、どうやって上げているのか。

村竹:うーん、モチベか〜。

三浦:シーズン迎えるまでのなにもない時とか、例えばあんまり結果が残らなかったりとか、そういう時。どうしても落ち込んだり、モチベーションを維持できない時が多いと思うので、どうやっているのかなって。

村竹:ずっとモチベーション高いまま競技に取り組む、というのがまず無理かなと思ってて。落ちる時は無理に上げようとせずに、落ちるところまで落ちて、自然に上がってくるのを任せる、という感じかも。

三浦:大事な大会の前でも落ちたりする?

村竹:しょっちゅう(笑)。試合の前になると特にナーバスになって、「走るの嫌だな」と思ったりもするし。そういう時は「もう、やるしかないんだ」みたいな感じで、自分で自分のことを追い込んで無理矢理上げていくこともある。そうしないとやっていけないと思ってる。練習や休みの日、試合がない期間だったら、心に任せるというか、その時の気分で乗り切ってるかも。

三浦:自然に任せる、っていうのはめちゃめちゃわかる。僕も試合前になると感覚が過敏になって、モチベーションの維持が本当に難しいなって思ってて。僕がよくやるのは、自分が走ったレースの動画を見ることもあるけど、陸上に限らず、感情が揺さぶられるようなスポーツのシーンの動画を見ることもあるかな。この前のWBCとか。そういうのを見ると一時的に気持ちが上がるのはあるかも。

僕自身が「走りで魅せられるアスリート」になりたいとずっと思っているので、それが体現できているスポーツのシーンを見るとすごく魅力的に感じるし、自分も鳥肌が立ったりして……感情がわーって湧いてくる感じがある。

「感情が揺さぶられるようなスポーツシーンを見ると、気持ちが上がる」(撮影・瀬戸口翼)

村竹:僕もたまにそういう動画を見たりすることもあるので、すごく気持ちはわかります。

ちなみに、こういう取材があるときって「陸上以外で得意なこと」とか聞かれない? なんて答えてる?

三浦:「映画鑑賞」で通してきてるかな(笑)。実際にめちゃめちゃ見るし。最近はNETFLIXで韓国映画の「キル・ボクスン」という映画を見ました。アクション系が好きなんですよね。最近楽しみにしてる映画は、「ワイルド・スピード」の最新作です。めっちゃ待ってます。

村竹:いいね〜、「ワイルド・スピード」好き。あと「トップガン」も最高でした。

三浦:それでラシッドは、得意なこととか好きなことって聞かれたらなんて答えるの?

村竹:そんなに突出して得意なものがないんだよね。好きなことでいうと、最近すごい競馬のレースを見るのにハマってるんです。賭けないで、本当に見るだけなんですけど。人間と馬という違いはあるけど「走ってる」ということに共通点を感じることもあって。すごいかっこいいなと思いながら見てる。去年は友達とも、一人でも競馬場に見に行ったんだけど、迫力がテレビで見るのとは段違いで、「何回でも見に行きたい」って思わせてくれるコンテンツだと思う。

三浦:競馬が好きとは知ってたけど、その話を聞くと実際に見に行ってみたくなるなあ。

お互いの存在が安心感と刺激を与えてくれる

――改めてお二人は、同期としてどういう存在ですか。

三浦:やっぱり競技は違えど、同じように世界を目指す存在として、「ラシッドに言ってもらえるからすんなり心に入ってくる」というのはあると思います。大会で気を張っているときも、「ラシッドに言ってもらえるんだったら大丈夫かな」と思うこともあって。他の人に言われるのとは感覚が違いますね。存在が安心感を与えてくれる感じです。

村竹:グランプリや、去年の世界陸上もそうですけど、出場する大会も結構かぶっていることが多くて。自分が戦っている舞台に同期がいるのはすごく心強いですし、やっぱり龍司の存在はなくてはならないのかなと思っています。

世界で戦う者同士、お互いの存在が刺激にも安心感にもつながる(撮影・瀬戸口翼)

――最後に、順大での最後の1年の目標をお願いします。

三浦:僕はまず主将でもあるので、このトラックシーズンに僕の走りを起点として、まずは関東インカレでの総合優勝に貢献するために得点を取っていきたいと思いますし、走る姿を見せていきたいです。チームという点では箱根駅伝まで団結力をもって続けていきたいと思います。

個人としては世界大会への再挑戦が一つの大きな目標です。去年はダイヤモンドリーグのファイナルに出場できたのは偶然や運が良かったことが重なったところもあるんですが、今年はしっかり実力で勝負して、結果をつかんでいけるようにしたいと思います。

村竹:まずは対校戦、日本インカレと関東インカレで自分が取れる限りの最高の点数を取って総合優勝に貢献したいというのもありますし、競技をしている姿をみんなに見てもらって、チームの士気を上げていきたいと思っています。

個人では日本選手権で世界陸上の内定を決めるのはまず一番の目標ですし、タイムでは13秒10台を絶対出したいと思っています。他にもアジア選手権や他の国際大会にも出場した上で、世界陸上で去年のリベンジを果たせたらなと思っています。

――今後も楽しみにしています。今日はありがとうございました!

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