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特集:東京オリンピック・パラリンピック

順大・泉谷駿介 追い風参考で13秒05、五輪につながる日本選手権で勝ちたい

決勝で追い風参考ながら13秒05という世界最高峰の記録をマークした(撮影・全て藤井みさ)

第100回関東学生陸上競技対校選手権 2日目

5月21日@相模原ギオンスタジアム
男子1部110mH決勝(追い風5.2m)
1位 泉谷駿介(順天堂大4年)13秒05
2位 村竹ラシッド(順天堂大2年)13秒20
3位 横地大雅(法政大3年)13秒43

関東インカレ初日の5月20日、泉谷駿介(順天堂大4年、武相)は男子110mハードル(H)の予選でいきなり13秒30(追い風0.8m)の日本学生新記録を樹立し、五輪参加標準記録を突破。翌21日の決勝では追い風参考記録ではあるが、日本記録を0秒11上回る13秒05(追い風5.2m)で勝ちきり、にやり。「タイムを見た時は、ビックリというか安心。サブトラックでハードルにぶつけちゃったり、転びそうになっていたから。風が強くて対処できなくて、不安で仕方がなかったんです。無事にゴールできてよかった」。弱音も口にする泉谷だが、今はただまっすぐ、東京オリンピックへと闘志を燃やしている。

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「自分だったら絶対、後半勝てる」

関東インカレで泉谷が目指していたのは、五輪参加標準記録を突破することと勝ちきること。ただ、準決勝と決勝が行われる5月21日は雨予報だった。予選を前にして、「今日はいい風が吹いているし、明日どうなるか分からない」と考え、記録を狙った。13秒30と思い通りのタイムが出たが、走りには満足していない。「中盤以降、(ハードル間の)インターバルが詰まってしまって、思い通りの動きはできなかったんですけど、それでも最後まで諦めることなく走れたのはよかったなと思っています」。しっかりインターバルを刻んで、遠くから踏み切る。そのイメージをもって、翌日のレースに備えた。

翌21日、予想通りの雨に加え、強い風が吹いていた。レース前も足が合わず不安が募ったが、「スタートでいき過ぎず、周りに合わせる。けがをしないように、安全に」をイメージし、準決勝は13秒36(追い風5.9m)で1着。迎えた決勝には、いつも一緒に走っている後輩の村竹ラシッド(2年、松戸国際)の姿もあった。スタートで村竹が頭ひとつ抜ける。それでも「自分だったら絶対、後半勝てる」と構え、3台目のハードルで先頭に立つと、インターバルを刻み、トップでフィニッシュ。13秒05の記録が表示された瞬間、会場からはどよめきが起きた。

村竹(左)も「楽しかった!」と決勝を振り返る

13秒05はちょうど、リオデジャネイロオリンピックでの優勝記録。追い風参考ながら世界トップレベルのタイムを経験し、「実感が湧かない」というのが率直な気持ち。そんな記録をコンスタントにマークしているトップ選手たちのすごさを改めて感じた。

日本記録保持者・金井の強さ

泉谷は2019年の日本選手権で13秒36と当時の日本タイ記録をマークし、1000分の2秒差で高山峻野(ゼンリン)に敗れての2位となり、同年10月の世界陸上(ドーハ)にも出場する予定だった。しかしけがのため、現地で棄権を決意。翌20年はけがと向き合いながらのシーズンになったが、今振り返ると「そういう時期もあった方がいいのかな」と言う。出力を出し過ぎるとけがにつながることを身をもって知り、周りでどんな記録を出されても、落ち着いて自分の走りをすることに意識を向けるようになった。

今年4月29日の織田記念では、決勝で競った金井大旺(ミズノ)が13秒16(追い風1.7m)の日本記録を樹立。その動画は何度も見返したが、「あの動きは自分にはできない」と泉谷は言う。「きれいにハードリングをして、きれいにインターバルで走っていく。バランスを崩さず。僕とはタイプが全く違うんですが、すごいなって」

2019年には100mで10秒37(追い風0.7m)をマーク。今の力を試したいという思いもある

その一方で泉谷は自分の強みも理解している。跳躍競技で鍛えた踏み切りと、スプリント能力。特に冬季練習では、ハードルの技術練習よりもスプリントを高めるメニューと跳躍練習に取り組み、基礎体力を高めた。体重は71kgと3kg増量。その積み重ねが今、成果に出ている。このところ試合が続いたため、体重は69kgまで減ってしまったが、「もっと筋肉がないといけないので、71kgをキープしたい」と言う。

日本選手権では13秒1台と言わず、13秒2台で

6月24日、東京オリンピックがかかった日本選手権が開幕する。日本記録保持者・金井と前日本記録保持者・高山との勝負が待っている。「絶対3番には入る。手強い先輩なので、それにしっかりついていけるように」と泉谷は言うが、本音としてはやっぱり負けたくない。2人には同じレースで日本記録を出されている。男女ともに記録更新が続く今、ひとりの選手として競い合えるのは素直にうれしいという。日本選手権で目指す記録は13秒1台と言わず、13秒2台。スタートで遅れをとったとしても、焦ることなく自分の走りに集中し、勝ちたい。

高校時代に八種競技と三段跳びをしていた泉谷は、陸上を心から楽しんできた

2年前の関東インカレでは、泉谷は110mHだけでなく走り幅跳びと三段跳びにも出場し、特に110mH決勝と走り幅跳び決勝は時間が重なっていたため、あっちへこっちへと大忙しだった。しかし今回は110mHのみ。スプリント能力が確実に上がり、100mで自分の力を試してみたいという思いもあるが、東京オリンピックが迫った今は110mHに集中。「100mも、色々と落ち着いたら走りたいです。落ち着いたら跳躍も。いろんな種目に出て楽しみたい」と泉谷。

その2年前の関東インカレで好きな種目をたずねた時、「陸上全体が好きなので、好きな種目は『陸上競技』ですかね」と返した泉谷の、あの喜々とした姿をまた見たい。

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