陸上・駅伝

特集:うちの大学、ここに注目 2023

駒澤大学・金子伊吹「箱根駅伝5区を走らないと意味がない」副将で迎えるラストイヤー

金子(287番)はラストイヤーで箱根駅伝5区の再出走をめざす(撮影・藤井みさ)

今年度、駒澤大学陸上競技部の副主将を務める金子伊吹(4年、藤沢翔陵)は前年度に3大駅伝三冠を成し遂げた裏で、正直な気持ちを明かした。「走りたいというのが選手としては一番なので、悔しいという思いがあった。全然うれしさはなかった」。大学ラストイヤーとなるこの1年は、箱根駅伝5区の再出走に意欲を燃やす。

今年の箱根駅伝は5区・山川拓馬の付き添いに

今年の4年生は1年生の頃から3大駅伝に出走する選手が多く、個人としても輝かしい成績を残していることから「華の世代」とも呼ばれる。日本選手権10000mで3位に入賞した経験がある鈴木芽吹(佐久長聖)やハーフマラソンで安定した強さを見せる花尾恭輔(鎮西学院)、10000mの復帰レースでいきなり27分台を出し、自己ベストを更新した唐澤拓海(花咲徳栄)らが注目される中、金子はそこまで目立った選手ではない。

入学したときの同期は15人。その中で5000mの自己ベストは11番目だった。「元々は中島隆太先輩(23年卒、藤沢翔陵)が行っているというのもあって行きたいと思った。高校の時すごい仲良くさせてもらっていたので。このタイムでは通用しないと思っていたが、高校の先生の勧めで」と自身の実力では厳しい戦いになることを分かったうえで、陸上競技部に入部した。

地道な練習が実を結び、2年時にはかねてから目標としていた箱根駅伝5区を走った。区間4位の好走。「初めてで、ある程度の結果を残せたのでよかった」と振り返る一方、「来年は勝てるようにしていかないといけないと思った」とより高い目標を掲げ、翌年も出走することを目標にしていた。しかし、今年の箱根駅伝は当初エントリーされていたものの、当日変更で山川拓馬(2年、上伊那農業)が出走。金子は山川の付き添いとなった。

駒澤大学・山川拓馬 中学時代から山に囲まれた競技生活、次の「山の神」になるために
2年のときに山登りを経験し区間4位の好走(撮影・佐伯航平)

金子は昨年、夏合宿後の9月下旬から10月の上旬にかけて約2週間のケガを負った。大学に入ってから初めての故障。十分に練習が積めなかったことから、出走には至らなかった。当時の心境を「走りたいというのが選手としては1番なので、悔しいという思いがあった。でもサポートするからには、去年経験もしているので、しっかり選手が一番いい状況で(走れるように)、サポートするというのはもちろんだった。結果的に往路優勝、復路優勝、総合優勝、三冠はしたが、全然うれしさはなかった」と当時の素直な気持ちを語った。

役割を理解し、短所を補い、支え合う

新チームの主将は鈴木、金子は副主将に決まった。「元々主将は芽吹で決まっていて、大八木弘明総監督から副主将は自分か花尾と言われた。自分たちの学年のミーティングの中で、芽吹は走りの結果で引っ張っていくスタイルで、自分はどちらかというと、後輩とコミュニケーションを取るタイプ。自分でもコミュニケーションを取るのはうまいと思っているので。走り以外のサポートという点で、自分が副主将になった」と話す。

金子が見る、鈴木の主将としての姿は「細かいところまで考えている。自分の言葉で表現するのは、少し苦手なのかなと思う事もあるが、一人ひとりの個人のレベルを見て、話をしてくれる。速い選手だけを見るのではなく、チーム全体をしっかり見て、全体ミーティングで発言をしている。全員が気持ちを切らさずにできるので、そういうのを引き出すのがうまいと思う」。お互いが自分の役割を理解して、短所を補い、支え合っている。チームとしての理想形がそこにはあった。

駒澤大学・鈴木芽吹 学生最後の1年、主将としての覚悟「駅伝だけは外せない」
オンライン取材で並木主務(左)とツーショット

では、金子はどのような人物なのか。たまたまその場にいた並木大介主務(3年、大多喜)に聞いた。2人は当部が昨年12月に行った「陸上部なんでもランキング」という企画の「仲の良い先輩・後輩」の項目で、金子自身が「自分と並木」と挙げるほどの仲。プライベートで一緒に過ごすことも多いという。並木は金子を目の前に、照れながらも「神です(笑)。最高の先輩です。僕だけじゃなくて、後輩の面倒見も良くて、慕われてて、いいなぁって。すごいなぁって」と話し、後輩からも信頼が厚いことがうかがえた。

学生ハーフで自己ベストを更新

金子は今年3月に行われた日本学生ハーフマラソン選手権大会で、1時間3分34秒をマークし自己ベストを更新。4月には焼津みなとマラソンでハーフマラソンを1時間4分31秒で走り、個人1位となった。結果を残せている要因として「1年目から、ずっと練習を継続してできていて、地道にやってきたのが、少しずつ表れているのかな。あとは若干、ジョグの距離を伸ばしている。今はもちろん駅伝を走ることがメインなので、そこを目指してはいるが、その後の自分にプラスになるように、長い距離で勝負できるようにというのは考えている」と分析する。

学生ハーフのゴール後、自身のタイムを確認する金子(撮影・中西真雪)

ラストイヤーとなる今年度。自身の注目してほしいところを尋ねると、悩みながらも「どんな試合でも、最低限自分が出せる力はしっかり出すというところ。きつくなったところで、簡単に諦めるのではなくて、粘って走るというところを見てほしいと思う」と答えてくれた。

チームの目標は、まだどの大学も成し遂げたことがない「2年連続3冠」。部員全員が同じ目標を共有できているという。「個人としては箱根駅伝5区を走らないと意味がないと思っているので、5区は絶対に走りたい。あとは5000m13分台、10000m28分台の自己ベストを出したい。出雲駅伝(の出走)は少し厳しいと思うので、全日本大学駅伝からは、エントリーメンバーに絡んで、チームの主力と呼ばれるようになりたい」。激しい部内競争を勝ち抜き、箱根駅伝5区出走を勝ち取る熱い気持ちを語った。

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