駒澤大・篠原倖太朗が学生ハーフ優勝 地力つけ、刺激を受けた田澤廉とのアメリカ合宿
第26回日本学生ハーフマラソン選手権大会兼FISUワールドユニバーシティゲームズ(成都)日本代表選手選考競技会
3月13日@陸上自衛隊立川駐屯地滑走路、国営昭和記念公園内及びその周辺道路
1位 篠原倖太朗(駒澤大2年)1時間2分16秒
2位 吉田礼志(中央学院大2年)1時間2分29秒
3位 松永伶(法政大3年)1時間2分43秒
4位 並木寧音(東京農業大3年)1時間2分48秒
5位 小暮栄輝(創価大2年)1時間2分55秒
6位 武田和馬(法政大2年)1時間2分57秒
7位 野沢悠真(創価大1年)1時間2分58秒
8位 村松敬哲(東京国際大3年)1時間2分59秒
3月12日に日本学生ハーフマラソン選手権大会が開催され、駒澤大学の篠原倖太朗(2年、富里)が1時間2分16秒で優勝。7月下旬から中国・成都で開催されるFISUワールドユニバーシティゲームズの代表に内定した。「狙い通りでした」と言いながらも、「自分はまだまだ」と謙虚な姿勢を崩さないあたりに、王者・駒澤大の次期エースとしての可能性を感じさせる。
雄たけびを上げながらフィニッシュ
2月5日の丸亀ハーフマラソンで日本歴代4位、日本人学生歴代最高記録の1時間0分11秒をマークしていた篠原が警戒したのは、同レースを日本歴代9位の1時間0分31秒で走破した中央学院大学の吉田礼志(2年、拓大紅陵)と前回大会を制した國學院大學の平林清澄(2年、美方)だった。ただ細かなレースプランも設定タイムもなかったという。強いて言うなら「臨機応変に」レースを進め、勝つことだけを考えていた。
「周りからマークされるのはわかっていたので、隠れて隠れて、仕掛けられるところで仕掛けようと思っていました。最高の形は圧倒的な優勝で、最悪でもぎりぎりで優勝する。順位しか見ていませんでした」
最初の1kmは2分56秒、5km通過は14分46秒と、前半の入りは想定より遅かったが「そこはアップのつもりで」冷静にレースを進めた。篠原が勝負をかけたのは、15km手前の給水地点だった。多くの有力選手が給水を取りに行ったのを見計らい、「ここで行っちゃおう」と自身は給水を取らずにギアチェンジ。「自分は暑さに強い。暑くなればなるほど自分に有利になる」と、この頃は気温が15度前後まで上がっていたコンディションをものともしなかった。
5kmごとのラップは、15kmから20kmが最速の14分29秒。後続を振り切った後は独走状態を築き、最後は雄たけびを上げながらフィニッシュエリアを駆け抜けた。丸亀ハーフを含めた好調ぶりに、「これが普通ぐらいになってきている。(学生の中では)勝って当たり前の立場になってきて、今日もレース前にしっかり勝つように言われていたので、有言実行ができて良かった」と胸を張りつつ、「もっと調子を上げようと思えば上げられるので、まだまだです」と好結果にも決して満足していない。
田澤が100なら「今の篠原は60~70」
レース後、チームの待機場所へ戻る篠原を遠くから呼び止める声があった。今年度限りでの退任が決まっている大八木弘明監督だった。その声に気づいた篠原は、ハーフマラソンを終えた直後とは思えない軽やかさで走り寄り、満面の笑みを浮かべた。
大八木監督は「自信はあったもんな」と優しいまなざしで篠原をたたえると、「あとは田澤(廉、4年、青森山田)にちょっとでも近づけるように努力しましょう」と言って報道陣を笑わせた。
「この日本学生ハーフを目標にしていた」という篠原は、丸亀ハーフ後、田澤や鈴木芽吹(3年、佐久長聖)とともにアメリカ・ニューメキシコ州のアルバカーキに渡り、大八木監督のもとで約1カ月間に及ぶ強化合宿を行った。「ハーフはバランスが重要なので、スピードもスタミナもバランス良く、スピード練習も距離走もやりました」と練習内容と目的を明かす。
標高約1600mのアルバカーキでの高地トレーニングは、「トラックを2周回ると足に来てしまうぐらいきつかった」と振り返る。
「田澤さんの設定タイムで一緒にやった400mや1000m、1600mなどのスピード練習だと、自分は全部ラストで離されて、消化率がゼロ。悔しかったし、このままだとヤバいなと思ったんですが、ただ、あの人が強いだけでした(笑)。日本代表でもある田澤さんとの練習は良い経験になりましたし、とても意識が高い方なので、一緒にいるだけで刺激をもらえます」
ハーフの日本人学生記録保持者になっても、チームには田澤をはじめ、強い選手がたくさんいる。それがわかっているからこそ、おごることなく、自身を向上させるための努力を継続できる。篠原の姿勢を「テングにならず、自分でもっと強くなろうという心構えが成長している」と高く評価する大八木監督によれば、田澤の力を100とすると、「篠原は今はまだ60~70ぐらい。鈴木はその上にいる」という。
大学3、4年目で篠原がどの域まで達するのか、今から楽しみは尽きない。
チームの真のエースになるために
昨年のこの時期、大学初年度を終えた篠原は、次のような抱負を述べていた。
「大学4年間では田澤さんのように、レースで外さない、安定感のある強い選手を目指しています。10000mでは田澤さんの27分23秒44、ハーフマラソンでは山野力さん(4年、宇部鴻城)の1時間0分40秒を上回るような日本人学生最高記録をどこかで出せたらいいなと思っています」
2022年度の篠原は、4月の日本学生個人選手権5000mを制し、全日本大学駅伝は5区、箱根駅伝は3区でともに区間2位。ハーフマラソンでも2月から2戦連続で快走し、まさに「レースで外さない、安定感のある」強さを披露してきた。
次なるターゲットは自己記録が28分41秒13の10000mだ。トラックシーズンはまず、4月8日の金栗記念選抜中長距離で「コンディションや出場選手にもよりますが、27分台は狙いたい」と意気込み、6月の日本選手権5000mにつなげるつもりでいる。さらに駅伝との兼ね合い次第で、12月の日本選手権10000m出場も視野に入れており、篠原は「田澤さんに勝ちたいです」と力を込める。
その間には今大会でハーフマラソン代表の座をつかんだユニバーシティゲームズがあり、駅伝シーズンは3大駅伝を前回王者として迎えることになる。しかも駅伝では今まで頼ってきた田澤がいない。
「世界と戦うユニバは、日本学生界のロードの強さを自分が証明できるように頑張りたい。駅伝では今までは裏で支えるような感じだったので、今度は大目立ちしたいです」
駒澤大のエースたちが受け継いできた強者のメンタリティー。その系譜に名を連ねつつある篠原は、真のエースになるべく2023年シーズンの一歩を踏み出す。