陸上・駅伝

特集:New Leaders2023

駒澤大学・鈴木芽吹 学生最後の1年、主将としての覚悟「駅伝だけは外せない」

「2年連続三冠」を狙う主将としての鈴木の思いを聞いた(撮影・藤井みさ)

22年度、大学史上初の学生3大駅伝三冠を達成した駒澤大学。鈴木芽吹(4年、佐久長聖)が新主将となり、史上初の「2年連続学生駅伝三冠」を目指してチームは始動している。「チームのために最後の1年やりきりたい」という鈴木。ラストイヤーへの意気込みをじっくりと聞いた。

駒澤になにか残したいと主将に立候補

これまで駒澤大では、箱根駅伝後に新チームが始動する際、大八木弘明監督(現・総監督)が主将を指名してきた。しかし今回大八木総監督は、学生たちに自ら主将を決めるように伝え、鈴木が主将に立候補して決まった。

主将に立候補した理由をたずねると「いろいろあるんですけど……まずひとつは、田澤(廉、現・トヨタ自動車)さんや山野(力、現・九電工)さんがキャプテンとして、競技面だけでないリーダーシップを取ることを経験されていて。人間的なところで成長されて、競技面も向上していったのを見ていて、同じように成長していきたいと思いました」と話す。

続けて2年生の箱根駅伝で苦しい走りとなり、8区区間18位となったことに触れ「その時の借りを返すつもりで、今回はしっかり走れました(4区区間3位)。でも、それだけじゃ足りないなと。まだまだ駒澤に対して何かを残せていないなと思ったんです。それで、キャプテンとして2年連続三冠を目指したいな、という思いになりました」と話す。

「借りを返す」とずっと言い続けてきた鈴木。今年の箱根駅伝4区はトップでの襷リレーで優勝への弾みをつけた(撮影・北川直樹)

2年時は9月に右大腿骨(だいたいこつ)の疲労骨折を経験し、箱根駅伝の直後には左大腿骨の疲労骨折が判明するなど、苦しい思いもしてきた鈴木。その時の経験が負い目のようになっているのですか? とあえて聞いてみると、「あの失敗があったことによって、より『なにか残していきたい』という思いがより強くなりました。モチベーションというか、もっとやらなきゃいけないという気持ちになっています」と、苦しんだ経験も前向きに捉えていることがうかがえた。

3年時にも学年リーダーをやっていたこともあり、立候補した際に同級生の理解はすぐに得られたという。佐久長聖高校時代にもキャプテンを務めていたが、その時はどちらかというと「自分のことは割とちゃんとやってきて、周りにも言えるから」という理由で選ばれたと鈴木。「今回も多少そういうところもありますが、高校の時よりも『キャプテンをやりたい』という思いの強さ、具体的な目的がありました」とはっきり言う。

自分だけではなく「人のために」を意識して

鈴木は2月下旬、田澤、篠原倖太朗(3年、富里)とともにアメリカ・アルバカーキで合宿を行った。帰りのフライトで大八木総監督と席が隣になり、そのときにいろいろな話をしてくれたという。一人の選手として成長するために、リーダーシップが必要なこと。そして「人のために動こう」という言葉が心に残った。

「『一流の選手は人のためにやるよ』と言われたんです。学生として最後の1年だから、ラスト1年は意識してやりきりたいな、と改めて思いました」

そしてそれは、改めて他の4年生にも伝えた。最終学年になるので、自分のことだけではなく周りのことも考えて、人のために行動してほしい。最上級生だから、自分のことだけ考えているだけではいけないと。

「人のために行動するのって、簡単ではないと思います。正直に言うと面倒くさかったり、しんどいときもあると思います。でもそれを積み重ねていけば結果として自分たちに返ってくると思います」

けがから復活し、出雲駅伝のアンカーで快走。力強くゴールテープを切った(撮影・藤井みさ)

そして全体ミーティングでは、下級生に対してもしっかりと言葉を伝えた。1年生に対しては、まずは夏までに練習や生活に慣れてほしいと気遣い、メンバーに入るか入らないかは夏合宿にかかっているので、夏合宿からしっかりやってほしいと激励。2年生に対しては、後輩もできたのだから、今までのように自分のことだけでいっぱいにならず、後輩にお手本を見せてほしいと促した。

3年生には、上級生になってくると一人ひとりの行動が自分だけの問題ではなくなるから、自覚して行動を正してほしい、と発破をかけた。「やっぱり4年生だけじゃどうにもならないことも多いので、3年生の力も必要になってくると考えてます」と上級生の責任と自覚を期待する。

もっと、チームをひとつに

鈴木は箱根駅伝直後の囲み取材で、「まだまだチームが一つになっていないところもあった」と口にしていた。少しドキリとするこの言葉の真意をたずねると、強い先輩についていけず、下のチームで練習をしている選手や駅伝メンバー選考に絡めない選手が「自分は関係ない」と思ってしまっているのが気になっていたのだ、と話す。実力は関係なく、チームの一員である以上は、誰一人「関係ない選手」はいない。それをどれだけ意識してもらえるかを考えているという。

全員が関係していると思ってもらう取り組みの一つが、去年から継続していることだがチームの5000m平均タイムを13分台にすることだ。昨年は達成できたが、1つ上の代が抜けたことにより現在の平均は14分台になった。

「13分台に乗るためには、上の選手が記録を伸ばすだけでは難しいです。今タイムを出せていない、練習がうまくできていない選手がしっかりやって大幅にタイムを伸ばせれば、平均も一気に上がります。そういうことがチームに貢献することにつながっていくと思います。みんなに関わることなので、しっかりと声がけしていきたいなと思います」

4月から大八木監督が総監督に、藤田敦史ヘッドコーチが監督になったが、「あんまり変化は感じないですね」と笑う鈴木。特に篠原、佐藤圭汰(2年、洛南)らとともにトップチームで練習する鈴木は大八木総監督に練習を見てもらっており、練習メニューも総監督が立てている。

藤田新監督からは「自身も監督になったばかりでわからないこともあるから、今まで以上に選手に負担がかかることもあるかもしれないが、補い合って助け合って頑張っていこう」と言葉をもらった。チーム運営に関してはもともと学生主体のチームであるため、監督が変わったからといって不安になっている選手はいないという。自分たちは自分たちのやるべきことを、しっかりとやっていくだけだ。

学生最後の1年、今しかできない挑戦を

新チームのスローガンは「原点と縁〜史上最高への挑戦」。「縁」には、去年以上に一人ひとりの結束力を高めていきたい思い、人のつながりという意味。そして三冠をしたことによって、祝賀会や報告会などを通して本当にたくさんの人に応援してもらっていることを目に見える形で感じた。陸上、駅伝の活動を通じてそうした縁を大切にしていきたいという思いを込めた。

個人の目標をたずねると、「目標はいろいろありますが、こんなに駅伝に対して一生懸命になってやるのは学生のうちだけだと思います。その最後の1年、キャプテンにもなったので、『駅伝だけは外せない』という思いでいます。出雲駅伝は6区、全日本大学駅伝は7区、箱根駅伝では2区を走って、全部優勝したいです」とはっきり言い切った。

希望区間に関しては、チーム状況として違う区間にいけと言われたら行くと添えつつも理由を教えてくれた。出雲駅伝ではアンカーを務めて、またゴールテープを切りたい。全日本大学駅伝では、昨年田澤が樹立した区間記録、49分38秒に挑戦したい。そして箱根駅伝の2区は、1年の時から走りたかったのもあるが、一番はチームのためだ。「篠原、(佐藤)圭汰もいて、彼らが1区や3区、4区を走って自分が2区を走ったら、絶対に勝てると思います。チームとして勝つために2区を走りたいです」

またみんなで喜びを分かち合うために。学生最後の1年、やるべきことをやりきる(撮影・藤井みさ)

今年の夏にはハンガリー・ブダペストで世界陸上が開催されるが、そこへの出場は狙わないのだろうか。「正直自分はそのレベルに達していないと思います。冷静に考えて世界陸上を目指すよりも、5000m、10000mで自己ベストを出して、夏合宿を経て駅伝で頑張りたいです。学生最後の1年で、今後こういうことはないので、集中していきたいです」と、あくまで学生としてやりきることを改めて強調した。

鈴木は選手たちに「三冠したチームのプライドを持つこと」「絶対負けないという気持ちを持つこと」をお願いしているというが、実際に三冠をしたことが選手たちの自信にもつながっていると感じている。箱根駅伝後、篠原が2月の丸亀ハーフマラソンで日本人学生最高記録を更新し、学生ハーフでも優勝し勢いを見せた。

さらに今月に入って、副将の金子伊吹(4年、藤沢翔陵)が2日の焼津ハーフマラソンで、赤津勇進(4年、日立工業)がかすみがうらマラソンの10マイルでそれぞれ優勝。唐澤拓海(4年、花咲徳栄)も8日の世田谷記録会5000mで13分50秒56と、復調の兆しを見せている。

「4年生にいい流れが来ていて、その活躍が自分の結果のようにうれしいです」と笑顔を見せる鈴木。自らのシーズン初戦は23日のNITTAIDAI Challenge Games5000mで、学生トップの13分46秒12をマークした。覚悟と決意を持ち、2年連続三冠という誰も見たことのない高みを目指す戦いはすでに始まっている。

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