陸上・駅伝

特集:第102回関東学生陸上競技対校選手権

青山学院大・ヒリアー紗璃苗 復活の大学初タイトル「やっとスタート地点に立てた」

女子1部800mを制した青山学院大のヒリアー紗璃苗(すべて撮影・井上翔太)

第102回関東学生陸上競技対校選手権 女子1部800m決勝

5月14日@相模原ギオンスタジアム(神奈川)

1位 ヒリアー紗璃苗(青山学院大4年)2分07秒84
2位 新田望(早稲田大2年)2分08秒60
3位 鈴木美呼(日本体育大3年)2分09秒42
4位 仲子綾乃(慶應義塾大3年)2分09秒52
5位 田中希歩(城西大1年)2分09秒55
6位 勝くるみ(筑波大1年)2分09秒59
7位 野村いちご(順天堂大2年)2分10秒02
8位 土岐優花(順天堂大3年)2分14秒26

高校3年のときに全国高校総体を制し、同じ年の日本選手権では2分4秒73の自己ベストをマークした青山学院大学のヒリアー紗璃苗(4年、明星)。その後はケガに苦しみ、大学ではタイトルを獲得できないでいた。今年の関東インカレ女子1部800mで優勝し、ついに復活を遂げた。

予選・準決勝・決勝と自分でレースを引っ張った

5月13日に行われた予選と準決勝、翌14日の決勝と計3本のレースで、ヒリアーが意識し続けたことがある。「この大会は『自分のペースで走る』ということを目標にしていました。予選・準決勝・決勝と自分で引っ張るレースをしたのは、初めてのことだったかもしれません」

予選は2分12秒60、準決勝は2分10秒49といずれも組1着で勝ち進んだ。決勝もスタート直後から先頭で集団を引っ張り、最初の400mを62秒で通過。「今回のレースはタイムのことを考えすぎずに、優勝を取りにいきました」。体がぶれない力強い走りで、早稲田大学の新田望(2年、法政二)とのスパート勝負も制し、2分7秒84で優勝を飾った。はたから見れば完勝だったが、本人は「大学生活では優勝から遠のいていたので、不安の中で挑んで、最後にゴールするまで余裕はなかったです」。フィニッシュ後、ようやく安堵(あんど)の表情を見せた。

計3本のレースすべてで自分のペースを刻んだ

学生個人で競り負け「これで悔しさをラストに」

大学に入ってから思うような成績を残せなかったのは、高校3年の頃から舟状骨に痛みがあり、それを引きずっていたからだった。「でも、走れてしまうので……。『1回休もう』となったのが大学3年生のときでした」。昨年は走らない分、バイクトレーニングで心肺機能と脚力を鍛えた。「もう意識が飛ぶんじゃないかというぐらい。走るのもきついですけど、バイクトレーニングも限られた中で自分を追い込まなきゃ行けないので、毎日無意識に泣いてました」

ぎりぎりの状態から「何とか大きな大会に間に合わせた」つもりで出場したのが、昨年の関東インカレだった。決勝には残ったものの、結果は8位。「(練習も十分にできず)いきなり走り始めたことで運動誘発生ぜんそくになってしまって……。レース後は過呼吸のような状態になってしまったんです」。無理がたたり、その後は我慢の1年間を過ごすことになった。

今年は、我慢を強いられた昨年の分も取り返す

完治し、万全の状態で迎えた今年4月の学生個人選手権は、失いかけた自信を取り戻すための舞台だった。しかし京都教育大学の長谷川麻央(2年、京都文教)にかわされ、2位に終わった。このときは「弱いなぁって思います。優勝しか見ていなかったので。練習もちゃんとできているので、これで悔しさをラストにして、次の大会からもっと強くなります」と語っていた。

次の目標は「自分に勝つ」

学生個人で味わった悔しさを力に変えるために――。その後は、静岡国際陸上にも出場したため「練習というよりは、調整」と言う日々が続いたが、調整する中でも「頭の中でレースのことを想像して走る」ことを意識した。たとえば600mから800mにかけての調整だったら、体が最もきつい最後の200mで「ここから上げていく」と想像力を働かせた。レース中に応援してくれる仲間の姿も、頭の片隅に置いた。「本番のレースと、『もうあの思いはしたくない』という悔しさも頭に入れてました」

高校生の頃は、「自分が速くなるために」だけを考えて試行錯誤しながら練習に励んでいたという。しかしケガを経験したことで、練習をただ単にこなすだけでなく「ケガをしないギリギリ瀬戸際のところで、いかに力を出せるか」に思いをめぐらせるようになった。「ちょっとずつ陸上選手に近づいてこられているのかな。気持ちの面でも、練習の取り組み方であっても」

金メダルを取るべく、決勝は色が近いネイルとリボンを付けて臨んだ

中学まではテニス部に所属し、明星高校時代はテニス部と陸上部を「兼部」していた。いまは陸上部一本となり「練習がきつくて、朝ご飯を食べながら『何でこんなことしてるんだろう』って思う毎日なんですけど、結局楽しいんだろうなって思います」。優勝した事実は、そのしんどさを和らげてくれる。遠ざかっていた期間が長ければ長いほど、感慨深さも増すだろう。「やっとスタート地点に立てたかなという感じです。ただこれが第一の目標ではないので。ここからもう一段階、二段階と上に行けるように頑張りたいですね。これを一歩目として」

ひとまず目指すは、高校3年のときにマークした自己記録の更新。関東インカレでの優勝を起点に、次は「自分に勝つ」。

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