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日本体育大・大森尊之、21年ぶりの関東大学選手権優勝を支えた熱い「シックスマン」

日本体育大の優勝の立役者は「シックスマン」と呼ばれる大森だった(すべて撮影・井上翔太)

第72回関東大学バスケットボール選手権(スプリングトーナメント)を21年ぶりに制した日本体育大学は、明るく、すがすがしく、エナジーにあふれたチームだった。5回戦の筑波大学戦(75-71)、準々決勝の大東文化大学戦(76-71)、準決勝の専修大学戦(61-58)、決勝の白鷗大学戦(75-58)と、いずれも簡単な試合ではなかったが、選手たちは緊迫した勝負を楽しみ、互いを思いやり、いろいろな場所で笑顔を咲かせていた。

開花した「シックスマン」が躍動

「大森が作ってるんだよね。明るくて、非常に前向き。これまでとはチームの雰囲気が違う」

表彰式の後、チームの雰囲気について尋ねられた日体大の藤田将弘監督は、その中心にいる選手として大森尊之(たかゆき、3年、小林)の名前を挙げた。

大森は、今大会で生まれたニューヒーローだ。役割は途中出場から試合の流れを変える「シックスマン」。藤田監督は「後ろに大森がいるから大丈夫」と彼に全幅の信頼を寄せてきた。そして、コートに立った大森は準決勝、決勝と2試合連続で試合の流れをひっくり返し、優勝の立役者になった。

藤田将弘監督は今大会の中心選手に大森の名をあげた

マークの外れきっていないレイアップシュートや3ポイントシュートを何本もねじ込み、会場を大きく湧かせた大森は、プレー以外でも観客の関心を引き付けた。決勝のエスコートキッズを務めた小学生に優しく話しかけ、フラストレーションを溜めそうなコネ ボウゴウジィ ディット ハメード(1年、帝京長岡)を丁寧に声をかけ、ビッグプレーが決まれば全身で喜びを表現し、叫んだ。

決勝の白鷗大戦では、高校時代に一度も勝てなかった森下瞬真(24、3年、延岡学園)との対決が実現した

そんな魅力的な選手は、昨年までほとんど試合に出ていないどころか、昨年の新人戦までBチーム(いわゆる”二軍”)に所属する選手だった。

大森は元々高いポテンシャルを備えた選手で、中学時代には日本バスケットボール協会が主催するエリートキャンプの最終16人に残っている。しかし、高校時代に全国大会に出られなかった悔しさを胸に進学した日体大でも、なかなか芽が出なかった。

再び花咲くきっかけを与えたのは、昨年のキャプテンを務めた古橋正義だという。大森は言う。

「去年のインカレでまったく試合に出られなくて悔しくて、正義さんと話をしていたら、試合に出ている人は体育館にいる時間が全然違うって気づいたんです。まずはそこから意識を変えていこうと思って、毎朝、練習をするようになりました」

チームを変えたオフコートでの熱量

練習開始は早朝6時。学生コーチの今泉陽雲(2年、桐生第一)の主導で、ピックアンドロールからのプレーや3ポイントシュートの精度を高め、課題を克服するメニューに約1時間半取り組んできた。夕方のチーム練習後も1時間ほどシューティングで汗を流した。

「毎日毎日朝練をしていた尊之さんがやっと活躍できて本当にうれしいです」と話す今泉は、大森の朝練がチームに新たな文化をもたらしたと証言する。

「朝練は各自自由なんですけど、尊之さんがやるようになってから、月岡(熙、2年、昌平)とか浅原さん(紳介、3年、仙台大附属明成)とかも来るようになって、今はコートがいっぱいになるくらいみんなが朝練をやってるいんです」

今泉いわく、大森が今大会で見せた豊かな感情表現は、練習時やオフコートでもさほど変わりなく見られるものだという。大森のナチュラルで大きな熱量がチーム全体に伝播し、冒頭で藤田監督が話したような雰囲気が醸成された結果、チームに21年ぶりの偉業がもたらされた。

ボールを運ぶ日本体育大の大森⑨

「大きな舞台でやるのが初めてだったこともあって(決勝の)前半は空回りしたけれど、後半は今までやってきたことを信じて、いつも通りの自分を出せた。それが結果につながっているのかなと思って、けっこううれしいです」

大森はそう言って、笑った。

かなえた「ブレイク」 見据える先は

チームに貢献することを第1優先としつつも、「今大会でブレイクしたい」「印象に残る選手になりたい」という思いも持っていた。3ポイントを決めたときのポーズ(ニューヨーク・ニックスのジェイレン・ブランソンから拝借したもの)も、今大会に合わせて用意してきた。

「優勝」というチームの目標に貢献し、観客にも鮮烈な印象を与えた。今大会、自らが思い描いた結末をしっかりと手に入れた大森だが、慢心や過信はない。「今回はちょこっと活躍しただけ。学生コーチにも『まだまだ』と言葉をもらいました」と、あくまで地に足をつけて先を見ている。

「もっとチームを勝たせられるプレーヤーに」と誓った

「今年の目標の『5冠』(トーナメント、新人戦、新人インカレ、リーグ戦、インカレでの優勝)を達成するためにも、もっとチームを勝たせられるプレーヤーになりたいです。アウトサイドのシュートの距離をもっと広げられたら、自分の強みのドライブやフィニッシュをもっと生かせるようになると思うので、もっと意識してがんばっていきたいです」

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