バスケ

特集:第73回全日本大学バスケ選手権

専修大・キング開、攻撃型のポイントガードが華麗に魅せる“大学ラストダンス”

キングのプレーからは、「バスケが大好き」という気持ちが伝わってくる(撮影・全て小沼克年)

専修大学のキング開(4年、アレセイア湘南)には試合で勝つことと同じくらい、「バスケットを通して人を楽しませたい」という想(おも)いがある。そのきっかけを作ってくれたのは幼い頃にテレビで見た、とある人物だった。

「自分がバスケを始めたきっかけがデリック・ローズ選手(当時シカゴ・ブルズ)でした。彼は身体能力が高くて見ていてもすごいなと思うプレーがいっぱいあったので、昔からめちゃくちゃ目に焼き付けてました」

憧れのデリック・ローズと自分

キングはバスケの本場・アメリカにルーツを持つ。周りの日本人選手より身体能力が優れていると気づいた時には、自分と憧れのスター選手を重ね合わせてこう思った。「日本人選手の中で身体能力が優れている部分に関しては、自分もローズっぽいのかなって。彼を見た時は本当にすごいと思ったので、自分もあんなプレーをして周りにすごいと思わせたいという気持ちが強くなりました」

だからこそ、この秋のリーグ戦で優秀選手賞と一緒にもう1つの賞を獲得できた喜びはひとしおだった。

「MIPは会場に見に来てくれた方たちの投票で決まる賞です。僕の楽しませたいという気持ちが皆さんに伝わったのかなと感じてますし、2年ぶりに開催されたリーグ戦を見に来てくれた方へ恩返しができたのかなとも思っています」

バスケと真摯に向き合う熱い男

キングが繰り出すシュート、ドライブ、パス、1on1などの一連のプレーは、そのどれもが軽快で、ときに豪快だ。個人的には「アクロバティック」「華がある」という言葉がとてもよく似合うと感じる。

彼の魅力はそれだけではない。大好きなバスケに対して真摯(しんし)に向き合う点においても周りから一目置かれる存在だ。同学年の齋藤瑠偉(羽黒)が「熱いっすね! 熱いっす」と、あいつには敵(かな)わないといった様子でキングについて口を開けば、指揮を執る佐々木優一ヘッドコーチ(HC)は「プレー云々(うんぬん)よりもバスケットに対する姿勢が素晴らしい。プロになるべく、プロでも通用する選手になれるように、今自分のやるべきことにしっかり取り組んでいます」と語る。

そんなキングは、大学1年目からプレータイムを勝ち取ったことにより、この頃から自分でもプロになれるのではないかと思い始めた。そして、この先も自らが輝ける居場所を分析し、バスケ人生を大きく左右する1つの決断を下した。

プロを見据え、ポイントガードへのコンバートを志願

中学、高校時代は、部活動に加えて地元の横浜ビー・コルセアーズのユースチームにも所属していたキング。高校から大学1年生まではスモールフォワードでプレーしていたが、大学での2シーズン目を迎えるにあたり、ポジションアップを図った。コンバートするポジションは、司令塔の役目を担うポイントガード。キングは自らそれを望み、佐々木HCへ志願した。

キングは「攻める」という意識を持ってゲームメイクをする

「初めは本当に何も分からなかったです。でも先輩に重富兄弟(友希、周希、現・ライジングゼファー福岡)や安部紘貴さんがいたので、分からないことは積極的に聞きました。あとは試合に出て経験するしかないと思って、最初はミスしてもいいから自分の強みを出しながら、経験を積み上げていけるよう考えながらプレーしていました」

組み立てるのではなく、仕掛ける。頭に描くポイントガード像は、自身の強みであるゴールアタックから活路を見出す攻撃型だ。「自分が攻めるからこそ自分にマークが寄って、周りにパスを出しやすくなる。自分の強みを生かすことで初めて生まれるチームプレーというのを目指しています」

鍛錬が実り、ユース出身選手の先駆者に

コンバートを決断し、今年で3年目。見ている側からすれば、今ではすっかりポイントガードで伸び伸びプレーする姿が板についた。でもそれは、練習前に欠かさず行っているというハンドリング練習と実践によって積み上げた経験値のたまものだ。その甲斐(かい)もあり、キングは昨年の1月には横浜の特別指定選手となり、ユース出身選手がBリーグのトップチームと契約した先駆者になった。それでも、本人は「もちろん嬉(うれ)しいですけど」とほどほどに話し、現在ユースやミニバスでバスケに励む子どもたちへ目を向ける。

「今バスケを頑張っている子どもたちには、自分を信じて努力を続けることを一番伝えたいです。やっぱり今はうまくいかないことがたくさんあると思うし、努力したからってすぐに結果が出るわけでもない。けど、絶対に努力した方が結果につながるので、そこは諦めず、懲りずにやり続けてほしいです」

最後のインカレ、めちゃくちゃ楽しみたいけど……

専修大の23番としては、12月6日開幕のインカレが最後の舞台となる。今年は主将としても中心に立つが、チームメートたちを無理にまとめようという考えはない。「変にキャプテンらしく振る舞うよりは、重要な場面だけちゃんとみんなを集めて話すようにしています」。今年のチームは4年間ともに戦ってきた同級生に加え、米山ジャバ偉生(いお、2年、東海大諏訪)やクベマ ジョセフスティーブ(2年、福岡第一)といった下級生にも才能と個性があふれる選手が多く、キングとしてはある程度自由にやらせた方がチームとしていい方向へ進む感触があるようだ。

キング(中央)は主将としてチームを支えながらも、一人ひとりの個性を尊重している

リーグ戦後、キングはこんな言葉でも今年のチームを表現していた。「個性的なメンバーなので、全員がひとつの線路の上を走っているのではなく、様々な道があるけど結局ゴール地点は一緒、という考え方をしています」

昨年の専修大はインカレ6位。けが明けだったキングとしても不完全燃焼で終わってしまった。だが、最終日の近畿大学戦でラストシュートを外したことについては、「結果は外して負けてしまったんですけど、ああいう場面で打つこと自体に価値があると思いますし、あの経験があったからこそ、もっと頑張ろうという気持ちになれました」とポジティブに捉えている。

「最後の大会なのでめちゃくちゃ楽しみたいですけど、やっぱり空回りが怖いです。気持ちを落ちつかせて、初戦からしっかりと戦いたいと思います」

専修大の“KING”が大学バスケ最後の舞台で躍動を誓う

何事においても、まずは自分自身が心底楽しまなければ、その熱量は相手に伝わらない。いつもバスケを楽しんでいるからこそ、キング開のプレーは人々を惹(ひ)きつけるのだろう。最後のインカレは熱く、冷静に、そして楽しんで。見るものを虜(とりこ)にするKINGの“大学ラストダンス”が、間もなく幕を開ける。

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