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特集:第72回全日本大学バスケ選手権

専修大・西野曜 飄々と時にはずる賢く、“真のエース”を胸に今年こそインカレ優勝を

「ガラじゃないんで」と言いながらも、この1年、エースとしての言動を心がけてきた(撮影・全て青木美帆)

超絶ボールハンドラー、コーンロウヘアのダンカー、トランジションにめったやたらに強い長身ガード、“和製ジェームズ・ハーデン”の異名を持つ1対1の鬼……。個性的な名選手を多く輩出してきた専修大学男子バスケットボール部の中でも、西野曜(4年、近大附)の特異性は際立ったものがある。

1対1で沸かせる男 専修大・盛實海翔

うまいだけじゃない、いい意味でのずる賢さもある

196cmの長身を備えながらシュートレンジが広く、走力もクイックネスもある。そして、それ以上に彼を彼たらしめているのが、独特の間合いと力みのないプレー。相手の意表を突くタイミングで、アウトサイドシュートを放ったり、ペイントエリアの密集をスルスルと抜けていったりする。そのプレーは実に予測不能。「翻弄(ほんろう)」という言葉がこれほどに似合う選手もそういないだろう。

「うまいなっていうのが第一印象でした。技術はもちろんですけど、何より目を引いたのは彼の賢さ。駆け引きがすごくうまくて、いい意味でのずる賢さがありました」。高校時代の彼の印象を、専修大の佐々木優一ヘッドコーチ(HC)はこう語る。

U18日本代表を経験、自分の可能性にかけて専修大へ

自覚する性格は、飽きっぽくて怠惰。そんな西野が唯一熱中し続けているのが、小学1年生から始めたバスケかもしれない。

中学時代はいつも地区予選の1、2回戦負け。大阪府選抜の選考にも引っかかっていない。近畿大学附属高校にもスポーツ推薦でなく一般受験で入学したくらいの無名選手だったが、引退時で185cm程度だった身長が「受験勉強と寝るの繰り返しだったからか」(西野)一気に伸び、195cmを超えた。近大附属高では2年生の時のウインターカップでベスト8。3年生ではベスト16。ともにチーム1の得点源として活躍し、U18日本代表にも選出された。

高校3年生の当初、西野は学内推薦で近畿大学に進む予定だった。しかし、U18で高いレベルを知り、全国大会で力を発揮したことで、国内最高峰の関東で自分の力を試してみたくなった。いくつかのチームを見て回り、「オフェンスが自由で楽しそう」という印象を持った専修大に進学することになる。

高校時代はセンターだったが、専修大入学直後はパワーフォワードとして、そして現在はプレーエリアを着々と広げている

佐々木HCは、高校ではセンターとしてプレーしていた西野を、より広いエリアでプレーできる選手に育てるべく指導にあたった。入学直後はパワーフォワードとして起用し、アウトサイドのシュートが安定するようになった3年生からは、ドライブやスクリーンを使った展開など、スリーポイントラインの外からの仕掛けにも挑戦させている。「飛躍的に伸びたのはリーグ戦だと思います。エースの盛實海翔(もりざね・かいと、現・サンロッカーズ渋谷)がディフェンスを引きつけてくれたことで、彼の持ち味である相手の隙を突いたプレーが生きました」と佐々木HC。続くインカレでは3年生ながら得点王に輝いた。

コロナで活動中止、主力の相次ぐけが

今季の専修大は受難続きだ。7月初旬から自主練習が解禁され、ようやく対人練習に移れた8月に、複数の部員に新型コロナウイルスの陽性反応。活動中止と隔離を余儀なくされ、チームの士気は大いに下がった。5対5の実戦的な練習ができるようになったのは、オータムカップ開幕の数週間前。更に、キング開(3年、アレセイア湘南)、寺澤大夢(3年、東海大諏訪)、喜志永(きしなが)修斗(2年、県立豊浦)と主力が次々と負傷し、オータムカップ最終日は本来のスタメン3人が不在だった。

チームの練度も、メンバーも、モチベーションも、全てが足りない中での苦しい大会だった。その中で西野は、全3試合で平均23.3得点という素晴らしいスタッツを残したが、課題も感じたという。

「アウトサイドからの仕掛けにこだわりすぎて、ミスマッチになっているのにインサイドで点をとるのを忘れていたかもしれません。(佐々木)優一さんからは、相手のディフェンスを見て、どこで点を取れるかを見極められるのが自分の良さだと言われているんですけど、その強みをあまり発揮できませんでした」

相手のディフェンスを見て、どこで点を取れるかを見極められる、と佐々木HCは西野を評価している

盛實海翔からエースを託されて

最上級生となった今年、西野はある大きなチャレンジに挑んでいる。真の意味でエースになることだ。

たくさん点を取る選手のことをエースと呼ぶのなら、西野は去年かられっきとしたエースだ。しかし、西野の定義は違う。「エースは点を取ることだけが仕事じゃない。まわりを引っ張るとか、気持ちの面も含めてのエースです」

昨年のインカレは日本一にあと一歩届かず、準優勝。決勝の直後、西野は盛實から声をかけられた。「来年は間違いなくお前がエースだから」。そう語りかける盛實の表情は、自身にとっての大学ラストゲームに敗れた悔しさを微塵(みじん)も感じさせない、毅然(きぜん)としたものだったという。「ぐっときましたね、あれは」。西野は身を乗り出して話し始めた。

「これまでのバスケ人生で、そんなことを言われたのは初めてだったんです。その時は驚いてしまって、うまく言葉を返せなかったような気がするんですけど、海翔さんが寮からいなくなってからようやく、自分がチームにとってそれくらいの存在なんだっていうことを受け止められました」

コート上では「プレッシャーなんて何のその」と言わんばかりの飄々(ひょうひょう)としたたたずまいだが、「それは見た目だけ。意外ともろいんです」と西野は打ち明ける。高校時代は今以上にチームに欠かせない存在ではあったが、監督からそれを意識付けられるような言葉をかけられたことはない。「僕の性格を理解して、プレッシャーになるような言葉をかけなかったのかもしれません」

今までは、盛實ら4年生に全てを委ね、自分のプレーだけに集中するだけでよかった。うまくいかない時にふてくされても、落ち込んでいる仲間を見て見ぬふりをしてもよかった。しかし盛實の言葉をきっかけに、西野は自分の振る舞いひとつでチームが変わるということを受け入れ、少しずつ自身の殻を打ち破っている。

練習中は、決して大きくはないながらも誰より声を出し、全力のプレーを見せる。「ガラじゃないんで、ちょっと疲れる時もあります」。西野はそう笑い、少し考えてから言葉を続けた。「できることはやって、背負いきれないところはキャプテンの(重富)友希、副キャプテンの(重富)周希(ともに4年、福岡第一)に任せて、うまくやれればと思っています」

長身フォワードの西野は予測不能なプレーで魅了してくれる

専修大は2年連続で、インカレ決勝で涙を飲んだ。西野はこの悔しさを唯一主力として経験した選手だ。

「アップからしっかり気持ちをつくって戦えば、持っている力をしっかり発揮できると思います。自分としては、とにかくチームを勝たせるためにやれることをやる。海翔さんたちの悔しさを晴らすには、自分たちが優勝するしかありませんから」

学生最後の大舞台で、西野は自らの中にある“エース”をどのように表現するのか。今から楽しみだ。

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