バスケ

特集:第72回全日本大学バスケ選手権

東海大の大倉颯太と河村勇輝、怪物ガードコンビの破壊力で今年こそインカレ制覇を

河村(右)が東海大に入学するまで、大倉と河村の2人はほとんど親交がなかった。しかし今はオフも含め、一番多くの時間を共有している(写真提供・東海大学男子バスケットボール部)

昨年冬、河村勇輝(当時・福岡第一高3年)の進学先が東海大学だと聞いた時、思わずにいられなかった。陸川章ヘッドコーチは、彼と大倉颯太(東海大3年、北陸学院)をどのように共存させるのだろうかと。U22世代から飛び抜けた実力を持つ2人のポイントガードが、プレータイムを分け合ったり、ともすればお互いの良さを消し合ってしまったらあまりにもったいないではないか。素人はそう考えたわけである。

だから、先日のオータムカップ2020(リーグ戦の代替トーナメント)で発揮された2人の素晴らしいケミストリーには、大いに驚かされた。スタメンで出場する大倉が緻密(ちみつ)なハーフコートバスケで立ち上がりを作り、途中出場の河村がスピーディーな展開で相手をかき回す。2人が同時起用される時は、河村がポイントガード、大倉がシューティングガードとなり、河村のゲームメイクから、大倉のオールマイティーな力がピカピカに引き出された。

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この大会は、東海大が頭一つ抜けて強かったため評価が難しいところがあるのだが、どの場面でも彼らの良さは最大限に生き、交代後も流れがスムーズに受け渡され、同時起用されてもかち合うことがなかった。コロナ禍の影響で、東海大のフルメンバーが合流したのは、例年から5カ月遅れの7月末。2人がともにプレーするようになって、たった2カ月で迎えた大会とは思えない完成度の高さだった。

価値観が合う2人、オフの時間も自然と一緒

なぜ彼らは、短期間でこれほどまでにフィットしているのか。取材を重ねていくと、明確な理由に行き着いた。とにかく相性がいいのだ。

決勝終了後の記者会見。それまで大倉を「颯太さん」と呼んでいた河村がふと、「颯太」と言った。聞き間違えかと思って確認すると、「普段は颯太と呼んでいるんです。寮でもたいていどちらかの部屋にいて、バスケやその他の話をたくさんします。価値観が合うし、プライベートで一番接しているのが颯太です」と続けた。

バスケだけではなくプライベートでも、互いに似たものを感じるそうだ(撮影・青木美帆)

彼らが共有する価値観とは何なのか。今度は大倉に尋ねてみた。

「『オフは長めに昼寝をして、ゆっくりごはんに行きたい』とか『おいしいものを食べるための時間は大切にしたい』みたいな感覚が似てます。恋愛でも、駆け引きの仕方が似てて……駆け引きなんて言うと印象が悪いかもしれないですけど(笑)。別に話をしていなくても、一緒の空間にいて居心地がいい存在です」

特別指定選手としてBリーグを経験している同士ということもあって、バスケとの向き合い方や責任感にも近しい感覚を持っている。戦術に対する意見交換も、毎日のように行っている。だから、2人はプレー中にも不思議な感覚で結ばれている。

「勇輝のパスからは『シュートを打ってほしい』とか『走ってほしい』っていうメッセージを感じます。僕は『自分がやらないと』と思いすぎて空回りしてしまうところがあるんですが、勇輝にはなんか、任せられるんですよね。彼の良さを引き出すためにも、自分がしっかり動かなきゃという思いにさせられます」(大倉)

「颯太さんからは、とにかくバスケットIQの部分をたくさん吸収させてもらっています。コート上で『次はこういうプレーをしよう』みたいなことを打ち合わせているわけではないんですけど、お互いの感覚が合って、それぞれをよく分かった上でプレーできているんじゃないかなと思います」(河村)

大倉のバスケットIQの高さに触れ、河村は日々の練習の中でも多くのことを学んでいる(撮影・青木美帆)

河村の入学以前、2人はほとんど親交がなかったという。日本トップレベルの実力を持つ2人が出会ってみたら、びっくりするほどウマが合い、放っておいても高みに進めるくらいのケミストリーを生み出した。チームにとって、これほどの僥倖(ぎょうこう)はないだろう。

大倉「去年の4年生にいい報告をしたいです」

一昨年の2冠(トーナメント、インカレ)という成績を受け、昨年の東海大はシーズン当初からダントツの優勝候補に挙げられていた。しかしリーグ戦6位、インカレ準々決勝敗退というまさかの結果。「去年はけが人が多くてチームケミストリーが作りづらかった」と振り返る大倉自身も、リーグ戦の大半をけがで欠場した。

「インカレは絶対に勝たなきゃいけない」。チームを勝たせることを至上目標とするポイントガードとしての責任感から、大倉は自ら上級生たちにミーティングを持ちかけ、声掛けで士気高揚を目指し、トレーニングや自主練習に今まで以上に励んだ。チームメートたちも自分にできることを考え、それを全うしようとしたが、結果はついてこなかった。

「大きなけがも経験して、2年生なのに責任も担わせてもらったのに、4年生を勝たせられなかった。すごく責任を感じました」。そう話す大倉は、「今年のメンバーで、去年の苦しさを一番知ってるのは僕だと思っています」と言い切る。「だからこそ、今年のインカレは昨シーズンの分も勝ちにいかなきゃいけないし、僕らがやってきたことを出し切って圧倒したい。そして、去年の4年生にいい報告をしたいです」とインカレへの抱負を語った。

昨シーズンの悔しさがあるからこそ、大倉は今シーズン最後のインカレを圧倒的な力で勝ちきりたい(撮影・青木美帆)

一方の河村は、このインカレが本格的な大学デビュー戦となる。オータムカップと並行し、インカレを見越した体作りを進めてきたという河村は、「インカレはベストコンディションでいけると思う」とコメント。オータムカップでは、速攻時に多少の連携ミスが見られたが、「インカレまでにはしっかり合わせられます。期待してもらって大丈夫です」と、頼もしい言葉が発せられた。

大学バスケ界が誇る怪物ガードコンビが織りなす、多彩で奥深いバスケットボール。ぜひ多くの人に堪能してもらいたい。

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