バスケ

特集:第72回全日本大学バスケ選手権

日大・杉本天昇、天性のスコアラーは最後のインカレでも点を取って取って取りまくる

オータムカップ2020の7・8位決定戦でも、杉本(右)は両チーム最多の30得点をあげた(撮影・小沼克年)

ただただ無心でシュートを打ち続け、点を取りまくる。でも、時折繰り出すアシストにも注目してほしい。それが杉本天昇(日本大4年、土浦日大)という男だ。12月7日に開幕する自身最後のインカレを前にして、話を聞いた。

アンダーカテゴリーの日本代表としても活躍

「今の大学バスケ界で一番の点取り屋は誰か?」。そう聞かれたら、筆者は杉本の顔が一番に浮かぶ。高校日本一を決する2015年のウインターカップで、ひとつ上の松脇圭志(現・富山グラウジーズ)とともに次々と長距離砲を射抜く姿には衝撃を受けた。高校生ながら、3ポイントラインから1mほど離れた位置からでも淡々と決めていたからだ。

この年のウインターカップでは、惜しくも八村塁(現・ワシントン・ウィザーズ)擁する明成高校(現・仙台大学附属明成高校)に敗れて準優勝となったものの、杉本は高校時代に国体で日本一を経験している。その後はアンダーカテゴリーの日本代表としてアジア、そして世界の舞台に立ち、「ピック&ロールからのドライブとシュート力は通用した」と、海外でも一定の手応えをつかんだ。日大では3位となった2年生の時のインカレで得点王を獲得すると、3x3にも挑戦し、レバンガ北海道の特別指定選手として大学生Bリーガーにもなった。

こうしてざっと振り返っただけでも、周りがうらやむようなキャリアを積み上げてきた杉本。点取り屋として歩むようになったルーツは、小学校時代まで遡る。

点を取るために「何も考えない」

「姉がミニバスをやっていて、その送り迎えに行った時に遊び程度でやっていたんです。そしたら自然とバスケをやっていたって感じです」

バスケを始めたのは小学校2年生の頃。6年生の時には、いきなり身長が20cm以上伸びた。「170cmちょいまでになりました。ミニバス時代は初心者の子が多くて、僕含めて2人くらいしか点を取れる人がいなかったんですよ。点を取らなきゃいけない状況だったので、ひたすら点を取っていました」

インサイドプレーとドライブはミニバス時代に身に付け、中学からは、自分よりも身長の高い選手がいたことからアウトサイドへと主戦場を移していった。毎試合得点を求められる中で、杉本は特にノルマは決めない。だが、爆発的な得点能力を発揮するために、試合前日からやらなきゃいけない“儀式”がひとつだけある。それは“何も考えないこと”。

「変に意識してしまうと空回りしてしまうタイプ」と話す杉本は、無心になって試合に臨む(撮影・小沼克年)

「個人的に、いつも点を取っている時は何も考えていない印象なんですよ。変に意識してしまうと空回りしてしまうタイプなので、前日の夜から何も考えない。試合前と試合中も一切何も考えないようにしています」

振り返れば、自身最高となる1試合60得点を叩き出した時もそうだった。高校3年生の時に行われたとある試合。土浦日大は前半から20点以上のビハインドを背負い、早くも窮地に立たされていた。しかし、そこから杉本が神がかり的な活躍でチームを大逆転勝利に導いたのである。

「前半から大差で負けていたので、もうひたすら無心にシュートを打っていましたね。そしたら結構入って、試合終わってボックススコアを見たら60点だったので自分でも驚きました」

ちなみにこの試合では、相手の留学生にも60点を取られた。だが、今後も杉本天昇を象徴する1試合になったことは間違いないだろう。

最後のインカレ、4年間の集大成を

コロナ禍による自粛期間を経て開催されたオータムカップ2020では、久々の試合で感覚がつかめなかったこともあり、「個人的には50点くらい」と杉本。チームは1試合中止となり、計3試合で1勝を挙げるに留まったが、「けが人が多く、1試合中止にもなりましたけど、チーム全体で『プラスに捉えていこう』と目標を立てていたのでインカレにつながる試合になりました」と下を向くことはなかった。

迎えたラストイヤー、杉本は「インカレは4年生の集大成でもあるので、4年生が鍵」と主張する。「あの時は4年生が引っ張ってくれたおかげで、伸び伸びプレーできた」と、インカレ得点王を獲った2年前の経験も踏まえての言葉だ。杉本は続ける。

「自分も最上級生になって最後のインカレを迎える中で、周りへの声かけなどプレー以外にもやるべきことがたくさんあります。今年の活動は少なかったですけど、4年生を中心にやってきた練習を信じて、集大成として全てをぶつけたいです。インカレは何があるか分からないので、自分たちの実力を発揮すれば優勝も狙えると思いますし、後輩にもいい形で引き継げたらなと思います」

インカレに出られなかった選手の思いも背負い、最後の舞台に立つ(撮影・小沼克年)

天性の得点能力で次々とスコアを重ねるそのプレーは、きっと多くのバスケファンを魅了するはず。「この1年、どのチームもコロナの影響で苦しい思いをしてきたと思いますし、インカレに出場できなかったチームもあります。僕たちは出られなかったチームのためにも精一杯プレーしたいと思います」と意気込み、杉本は最後の大舞台に臨む。

封印を解き、出るか“天昇ポーズ”

杉本を語る上で、どうしても触れておかなければいけないことがある。“天昇ポーズ”だ。

杉本のプレーを下級生の頃から見ている大学バスケファンなら、このワードにピンとくる方も多いはずだ。これは、杉本の代名詞のひとつとして、自らのビッグプレーの後に拳を前に突き出すパフォーマンスである。

会場を沸かせる一種の風物詩とも言えるほど、近年の大学バスケ界を盛り上げていたようにも感じるが、筆者の記憶では杉本が3年生になった昨年から一度も天昇ポーズを見ていなかった。

そのことを本人にも伝えると、「あれは、今ちょっと封印しています(笑)」と顔を赤くし、声を大にして笑った。「最近ちょっと恥ずかしくなってきちゃって……(笑)。1年生の時はバンバンやっていたんですけど、去年は一回もやっていないです」

封印した“天昇ポーズ”にも期待したい(写真提供・日本大学バスケットボール部)

「それでもファンの方は天昇ポーズを待っていると思いますよ?」と尋ねてみても、「確率的には50%です(笑)」と、今となっては披露するのが相当恥ずかしい様子だった。しかし杉本は、「でも」と再び話し始め、控えめにこう宣言した。

「自分が納得いくプレーができた時のあのポーズなので、ぜひインカレでできたらなと思います」

残念ながらインカレも無観客での開催が決まった。だが、それでもみんなは待っている。天昇ポーズを見ずに、今年の大学バスケが終われるか!

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