中央大学・小林宏充と日本大学・小林伸光 唯一在籍が重なる1年、兄弟対決が実現
関東学生アメリカンフットボール 春季オープン戦
6月4日@アミノバイタルフィールド(東京)
中央大学 27-18 日本大学
アメリカンフットボールの関東学生TOP8、中央大学ラクーンズと日本大学フェニックスの春季オープン戦(交流戦)が6月4日にあった。攻守のフロントで上回った中大が優位に試合を進めたが、後半に日大が追い上げて試合は白熱。終盤、得点差を詰められた中大がすぐに点を取り返し、日大に流れを渡さなかった。ランプレーの獲得ydで優位に立った中大が、27-18で勝利。試合を盛り上げたのは、後半に出そろった、二人の「小林」だ。
ディフェンスが挙げた9点差で、中大が勝利
中大の主将でDLの西村鳳真(ふうま、4年、札幌第一)が、日大最初のシリーズのパントをブロック。これをDB村上賢祐(4年、中央大附属)が拾い上げてエンドゾーンまで持ち込み、先制のタッチダウン(TD)を決めた。日大は、QB金澤檀(3年、駒場学園)からWR西山裕次郎(4年、横浜立野)へのロングパス、RB和田誠(4年、日大豊山)、藤津凛人(3年、大産大附属)らのランで攻撃を進め、フィールドゴールで3点を返した。
第2クオーター(Q)、中大は北原健作(4年、佼成学園)の力強いランを中心に攻め、ゴール前に迫るがTDを狙ったギャンブルは失敗に終わった。しかし、直後の日大攻撃をセーフティー(SF)に仕留めて2点を追加し、前半終了間際には小林宏充(4年、佼成学園)がWR藤﨑惇之助(4年、都立富士)にTDパスを決め、2ポイントコンバージョンも成功させて8点を追加。17-3の14点リードで試合を折り返した。
後半に入り、中大は要所で反則があり得点につなげられない。対する日大は、QBに1年の小林伸光(のぶあき、佼成学園)を起用。ランプレーをベースに、小気味良いタイミングでパスを決め、ボールを進める。しかし、第3Q終盤にWRがキャッチしたパスをファンブルし、中大がこれをリカバー。第4Qの2分すぎにK村上航太(4年、川越東)がFGを決めて20-3とリードを広げた。
ここから日大の小林が魅せる。連続して早いタイミングのパスを通してゴール前へ。WR當間義昭(4年、帝京八王子)へのパスを決めてTDを返し、20-10。日大による逆転劇の序章にも思われたが、直後中大の小林が藤﨑への73ydTDパスを決めて27-10と点差を戻した。
試合残り4分、日大の小林がテンポ良くパスを通してボールを進め、11分に主将のWR三枝寛治(4年、日大豊山)にTDパスをヒット。2ポイントコンバージョンも決めて27-18。9点差まで追い上げたが、タイムアップで試合終了。守備で9点(TD7点+SF2点)を上げた中大が、その差で勝ちを決めた。
お互いに「そこまで意識はしなかった」
まさしく「小林兄弟」の日だった。兄の宏充は中大の4年になり、エースQBに。この日、パスは19回投げて12回成功し、0インターセプト。パスで181yd2TDを稼いだ。反則で取り消しになったプレーもあったが、ランプレーでも存在感を見せた。
弟の伸光は今春、日大に入学した。春シーズンの中盤に入って主力ローテーションに入り、後半を任された。自分で走る場面は少なかったが、しっかりとボールをコントロールして攻撃をリード。落ち着いて攻撃を組み立てた。パスは14回投げて13回成功させ、こちらも0インターセプト、146yd2TDを稼いだ。走投のタイミングの良さ、スクランブルに出ても無理せずスライディングをする冷静なプレーぶりは、1年生らしからぬ落ち着きだった。
父の孝至さんは佼成学園高校アメフト部の監督で、昨春から日大の助監督を務める。かつて日大とシルバースターでRBとして活躍した名選手だ。二人の息子は、初めての直接対決で父譲りのセンスを競うようにぶつけ合った。
二人は幼稚園のときに、日大フェニックスのフラッグフットボールチーム、「フェニックス・フットボール・クラブ」でアメフトをはじめ、中学受験で佼成学園に進学した。中学のタッチフット部を経て高校アメフト部に上がり、ともにQBとして活躍。全国選手権決勝のクリスマスボウルにも出場した。
年が三つ離れているため中高は入れ違いだったが、伸光が大学に入学した今年だけ在籍がかぶることに。進学先が中大と日大で別れたため、初めての兄弟対決になった。
試合中は、お互いが兄弟のプレーを見たという。そして試合後、少しばかり感慨深そうに二人は話した。兄は弟が出てきた後半を、こう振り返る。「ノブ(伸光)のプレーはテンポよく進んでるなって。周りのチームメートもそう言ってました。さすがだなあと(笑)」
横で聞いていた弟も続ける。「ずっと見てました。同じフィールドでヒロ(宏充)のプレーを見るのが、人生初めてで。自分は特に何も思ってなかったんですが、チームメートが『うまい、うまい』と言ってて、やばいなあ、うまいんだって思いました(笑)」
二人はお互いのプレーの印象を話しつつ、「そこまで意識はしなかった」と口をそろえた。
兄・宏充はエースQBとして自覚十分
最上級生になった兄は、これまでを振り返って決意を口にする。「去年までは控えだったので、試合に出ても気楽にプレーしてしまう部分がありました。でも、今年は自分が勝たせないといけないんで。その部分の考えは結構変わりましたね」。中大の攻撃を自らの手で率いていく覚悟があり、語気にも熱が入る。
中大の須永恭通(たかゆき)HCも、宏充の急成長を評価する。「最上級生になってリーダーシップも出たし、一つひとつのプレーに責任が出てきましたね。毎日の練習のたびに、明らかに良くなっています」
昨年までは、1学年上に下級生の頃から活躍した西澤彗介、小島大地と二人のQBがいたため、宏充に回ってくる出番は決して多くなかった。加えて、この数年間はコロナ禍で試合数が少なかったことも影響した。しかし、今春2試合のオープン戦では落ち着いたプレーぶりで、その不安を払拭。中大のエースQBとして、TOP8の中でも屈指のパフォーマンスを発揮している。強い肩から繰り出す安定したパス能力に加え、チーム随一という走力も大きな武器だ。
弟・伸光は1年目からチームを引っ張る覚悟
日大期待のルーキー、伸光も自らがチームを引っ張る気概を語る。「まだまだですが、秋にはフェニックスのエースQBとして甲子園に行きたいと思っています」。大学でのゲーム経験は浅いが、勝負どころを熟知したプレーぶりは、コーチ陣からの評価も高い。
日大の中村敏英監督は、「(伸光は)どのタイプのディフェンスが来ても良いプレーができるのがわかった」とこの試合の収穫を振り返る。「ものすごくテンポが良いのが魅力で、ボールの供給力が非常に高い。これから伸ばしたい部分としては、彼の機動力やタレント性を生かすこと。『個』の力をもっと発揮できるようにすることです」という。チームの組織力を高めることは前提として、「日大は『個』が止まらない」と対戦相手に言わしめるプレースタイルを確立することが目標で、伸光はそれを実現するだけの物を持っていると話す。
春の先発は能力の序列で決めているわけではなく、練習での良いプレーに評価を加算するポイント制を採用。その積み重ねで出場順を決めているという。伸光はこの春に1年生ユニットでのプレーからスタートし、地道にポイントを積み重ね、ここに来て2番手まで上がってきた。今はスクリメージでも、レギュラーのユニットと組んで練習をしている。「やっと1本目も見える所まできた。頑張り次第で、エースになるんじゃないですか」と中村監督は期待をかける。
最上級生の宏充、ルーキーの伸光。秋のリーグ戦では、どのような兄弟対決になるのか。二人の成長を楽しみにその日を待ちたい。