アメフト

中央大学RB北原健作 高校の強豪から甲子園ボウル未経験チームへ、葛藤の末の決心

ダイナミックに体を使ったカットバックでタックルをかわしていく(すべて撮影・北川直樹)

10月9日、アメリカンフットボールの関東学生TOP8、中央大学と桜美林大大学の試合があった。第1クオーター(Q)こそ7-7の同点だったが、第2Q以降に2桁得点を重ねた中央大が59-7で大勝した。中央大は、けがで戦列を離れていた主力選手が復帰。攻撃の好調さに加え、守備でも5ターンオーバーと2TDを奪取。高い総合力を見せつけた。

敗れた東大戦も、走り屋がいれば……

中央大の走り屋、エースRBの北原健作(3年、佼成学園)が帰ってきた。北原は今シーズン第2節までをけがで欠場、この試合が初めての登場となった。大学1年から中央大のラン攻撃の中核を担ってきた彼も、今年で3年生。昨年までは針ヶ谷優太ら上級生が充実していたが、今季はいよいよエースRBとしての独り立ちのときを迎えた。

私自身、この日を楽しみにしていた。中央大は開幕戦で東京大学に敗れたが、もし北原が出ていたらどうなっていただろうかと思う節が、私の心にあったからだ。接戦の中でエース格のRBを欠く事態は、厳しい。配られたメンバー表に北原健作の名前を見つけたとき、この日のゲームの中心に北原がいることがイメージできた。

タックルを避け、跳ねよけながらダイナミックに前へ進む

コロナ禍に重ねたパントの練習

第1Q、中央大は桜美林大の攻撃を止めて、第4ダウンパントに。中央大のリターンが回ってきた。リターナーの位置に6番が見える。手前でバウンドしたボールを6番が拾い、リターンに行く。しかし、カバーにきた桜美林大の選手4人に囲まれて押し戻されて止められた。さすがにいきなりうまく行くほど物事は簡単ではない。

さあ、中央大最初の攻撃だ。スナップされたボールは6番へ。インサイドのランに出たが、倒される途中でボールを掻(か)き出されてファンブル。桜美林大にボールを押さえられた。「試合が久しぶりだったので、力みすぎて気持ちだけ前にいってしまいました」と北原が振り返る。桜美林大がこの機会に攻め込んで、先制TDを奪った。序盤とはいえ少し手痛い失敗だったが、ここで嫌な流れにはならなかった。

再び回ってきた攻撃。崩れたプレーから北原がパスを受けて、ダウンを更新。1プレーを挟み、今度は北原のランでインサイドへ行き約19ydゲインした。その後、WR松岡大聖(1年、横浜栄)へのパスやQB西澤慧介(4年、中大附属)のランで進み、ゴール前で北原のラン。中央を4yd押し込み、復帰後初のTDを奪った。「うれしかったですが、ラインのブロックがよかったので」と北原は控えめに言う。

第1QのTDラン。タックルを引きずりながらエンドゾーンへ倒れ込んだ
復帰後初TDを仲間に祝福される

パンターとしても光った。新型コロナウイルスの自粛期間中に遊びで始めたというパント練習で、うまく蹴れるようになった。守備からすると走力のある北原がパンターに入ると、走られる脅威にもなるため厄介だ。ゴール前4ydで止める好パントなど、フィールドポジション作りにも貢献した。第3QにもTDランを決めて、最多の2TDを稼いだ。

コロナ禍の自粛中に習得した。パンターとしても非凡な才能を発揮している

チーム文化の違いに葛藤

北原は、佼成学園中学からアメフトを始めた。きっかけは、祖父の影響だという。母・真弓さんの父である石川岩男さん(故人)は、法政大でアメフトをプレーし、のちに1968年に桜美林大でアメフト部を創部。桜美林大の総監督も務めた。その影響で、父の栄作さんが北原にアメフトをさせたかったのだという。父は中学受験の際、アメフトの強豪でもあった佼成学園中の受験を勧めた。それまではサッカー少年だったが、アメフトに興味を持った北原は転向した。中学と高校ではRBを務め、高校3年で出場した全国決勝のクリスマスボウルは、優勝は逃したものの敢闘賞を受けた。スピードと切れ味のあるカットに、ヒットの強さを兼ね備えていた。高校界では誰もが知る名選手だった。

敢闘賞を受けた2019年のクリスマスボウル。小林監督にすすめられて着け始めた佼成のエース6番を今も使っている
立命館宇治高がクリスマスボウル初V、「4度目の正直」で佼成学園の4連覇阻む

大学進学を決めるときは「自分がどう過ごし、どうプレーしたいか」を考えた。関西の強豪チームや、佼成学園のRBの先輩がいるチームで下積みをして、上級生になってから試合に出る道か。下級生から出場機会がある大学で、自分でチームを作っていく道か。北原は、高校同期のメンバーが多く進み、後者を実現できそうな中央大を選んだ。1年生の頃から主力ローテーションで出場したが、満足というよりも葛藤があったという。

それは、チームの文化の違いだ。佼成学園は何度も高校チャンピオンになっているリーディングチームだが、中央大は大学の頂点を決める甲子園ボウルに出場したことがない。実際に入ってみると、この差を痛感した。

「(中央大は)言われたことをやるので精一杯で、臨機応変に動くこと、自分で考えることが文化としてあまり無いと思いました。一喜一憂もそうで、喜びすぎて油断してやられるとか。この辺は自分がいる間に変えていきたいなと思っています」。北原は自分の取り組みとランでチームを変え、勝てるチームをつくっていきたいと思っている。

第3Q、2本目のTD。OLのブロックの上を飛んでエンドゾーンへダイブした

ようやく噴き上がり始めたエンジン

北原の活躍には、須永恭通(たかゆき)HCも期待をかけている。「彼は間違いなくうちのエースです。でも本人も今、あがいていると思います。能力はもちろんありますが、まだ1試合を通して走り続けられるほどの耐久性だとかが足りないと思う。1年の頃からエースとして期待されてましたが、能力の高い上級生にも恵まれていました。今年からは、彼がどれだけやれるかにかかっています。しっかり一緒に取り組んでいきたいです」。佼成学園の小林孝至監督と日大時代の同期にあたる須永HCは、教え子とともに成長する気概だ。

不死鳥のように生き抜いた日大時代 中央大・須永恭通ヘッドコーチ(上)

RB担当の岡本光司コーチは北原のことをこう表現する。「積んでいるエンジンが違う」と。北原のエンジンは、シーズン折り返しを前に、ようやく噴き上がり始めた。ここからどこまで回転数が上がるのか、期待して見ていきたい。

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