野球

「野球エリートではない」 楽天ドラ1新人、荘司康誠を支える心構え

プロ初勝利を挙げた立教大出身のドラフト1位・荘司(撮影・清水優志)

 (5日、プロ野球 東北楽天ゴールデンイーグルス6―1オリックス・バファローズ)

立教大学・荘司康誠 高校時代は無名、ドラフト上位候補の計り知れないポテンシャル

 楽天にとって、負ければ自力優勝の可能性が消える一戦だった。

 そんな窮地で、ドラフト1位新人の荘司康誠(こうせい、立教大)が、何度もはね返されてきた壁をようやく乗り越えた。

 プロ入り9度目の先発登板は6回を投げ、8奪三振、被安打5の無失点と力投し、初勝利をつかみ取った。

 「めちゃくちゃ、うれしい。(これまで)気にしない、と言っていたが、予想以上にうれしいもんだな、と」

 オリックス・宮城との投げ合いだった。

 初球、プロ入り後最速に並ぶ153キロを記録した投げっぷりに、この夜にかける思いがあふれた。

 「自分でもびっくり。(オリックスは)スイングの鋭い打者がそろっている中で、真っすぐで押していけた」

 宮城より先に招いた二回2死一、二塁のピンチは、若月に粘られたものの、最後、直球で右飛に打ち取り、先制は許さなかった。

 新潟明訓高から東京六大学リーグの立教大に進み、昨秋のドラフト1位で楽天に入団した。肩書だけなら、順風そうに見えるが、本人の認識は違う。

 「いわゆる野球エリートという人生ではない」

 中学時代からけがに苦しみ、高校時代は甲子園に届かなかった。当時監督だった本間健治郎さんは「練習メニューを与えても、自分で考えて一工夫する選手だった。はしゃがず、淡々としているが、熱いものを胸の内に秘めていた」と評する。

 大学時代は原因不明の肩痛に悩まされ、野球を続けるかどうか考えた時期もあった。個人トレーナーの指導を受け、体の動かし方を一から見直した。大学4年生だった昨春のリーグ戦で初勝利を挙げ、遅まきながら、プロ入りへの道を切り開いた。

 プロ入り後も、5月28日の北海道日本ハムファイターズ戦では9回2失点と力でねじ伏せる投球を見せた一方で、交流戦の東京ヤクルトスワローズ戦では2回3失点でノックアウトに追い込まれた。過去8度の登板では、3度、勝ち投手の権利をえながら、救援陣が踏ん張れずにフイになった。

 今後も強みとなるのは、苦労するなかで身につけてきた心の持ちようだろう。

 荘司はいう。

 「できないことも、うれしい。自分の成長する『タネ』と思っている。今、のびのびやらせてもらって、貴重な経験になっている」

 そんな新人右腕を、石井一久監督は温かい目で見守る。

 「必ずしも、ずっと良い投球をしていたわけじゃなくて、失敗もある。そういう失敗を繰り返したり、成功を繰り返したりして、チームの柱になっていってくれればいい」

 ようやく手にした記念の勝利球。お立ち台で、荘司は、この夜も仙台に駆けつけた大切な人への思いを口にした。

 「ずっと応援してきてくれた両親にすぐに渡したい。本当に感謝の気持ちと、お待たせしましたというか、これから、もっともっとウィニングボールを渡せるように頑張ります、と伝えたい」

 フランコ(楽) 二回に先制二塁打を放ち、初めてお立ち台に登場。「ちょっと不思議な気がするが、素晴らしいところに立てた」

(笠井正基)

=朝日新聞デジタル2023年07月05日掲載

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