青学大・手塚悠 唯一の4年生内野手「自分がやらなきゃ」→「後輩と一緒に」への転換
今年、17年ぶりに東都大学野球リーグを制し、勢いそのままに18年ぶりとなる全日本大学野球選手権優勝を果たした青山学院大学硬式野球部。その原動力となったのが、現在所属する部員の中で唯一、2部リーグを経験している4年生たちだ。マネージャーを含めて15人いる中、手塚悠(常総学院)は唯一の内野手として存在感を示した。
「安藤監督からの熱烈なオファー」
手塚は入部時2部にいた青学大に進んだ理由について「安藤監督からの熱烈なオファー」を挙げる。他の大学への進学を目指していたが、熱心に声をかけられ続けた。安藤監督にとってのスカウト基準は「その選手に惚(ほ)れるか」。「彼は頭が良く、一緒にやりたいと思った」と評価を受け、手塚は「期待に応えたい」と思った。安藤監督は「手塚は僕のスカウト第1号なんですよ!」と笑顔で語り、どうしても獲得したかった選手だったことを明かした。
入学直後は新型コロナウイルスの影響で春季リーグが中止となり、初のリーグ戦は秋季となった。当時のショートは2学年上の泉口友汰(現・NTT西日本)が守っており、ポジションを奪うことは難しかった。3年春、開幕直後こそ当時ルーキーの藤原夏暉(2年、大阪桐蔭)にスタメンを譲ったものの、第2週からは持ち前の安定した守備を見せ、スタメンの座を奪った。一方で打率は1割台。課題は明確となり、秋はスタメンでの出場機会を減らした。
リードを許しているときも、ベンチは明るい
最終学年となった今年、手塚は開幕から4試合でスタメンに名を連ねたものの、その後は初谷健心(2年、関東一)に譲り、途中出場が続いた。だが、今年の手塚にはこれまでと違う点が見られた。守備につくときも、ベンチから試合を見つめるときも、常に大きな声を出していた。
4年生となり、意識の変化があったという。3年生の頃までは普段の練習から「面倒くさい」と感じることが多かった。しかし最終学年となり、後輩からも姿勢を見られている中で「このままではダメだ」と思うようになり「自分はいま何をしなければいけないのか」を考えることが増えた。4年生が中心となって雰囲気を作り方針を学年全体で決め「自分がいることでチームにいい影響を与えられれば」と積極的に声を出す。
実際、今シーズンの青学大ベンチはリードを許している時でも明るい。要因は主将を務めている中島大輔(4年、龍谷大平安)をはじめ、4年生が常に明るい声を出し続けていることだろう。学年が一体となって作り上げてきた雰囲気が、チーム全体にも広がっている。
開幕戦のスタメンを見ると、ファーストは小田康一郎(2年、中京)、セカンドは藤原。サードは佐々木泰(3年、県岐阜商)が務め、手塚にとっては後輩しかいない。当初はリーダーとして「自分がやらなければ」という思いが強かった。だが、うまくいかないことの方が多く、考えを改めた。「内野手の4年生は自分しかいないのだから、後輩と一緒に作り上げていくことがいいのではないか」と気付き、手塚自身の気持ちも楽になった。
守備への二つのこだわりと、報われた瞬間
手塚は守備力が高い。難しい打球を捕ることはもちろん、強くて正確な送球でギリギリのタイミングでもアウトにしてきた。守備へのこだわりは二つある。一つ目は「ピッチャーが打ち取った」と思う打球はすべてさばく意識だ。派手なファインプレーよりも、難しい打球を簡単にさばいてアウトにすることを重要視している。
二つ目は、マウンドに立つと孤独感を感じがちなピッチャーへの声かけだ。「ピッチャーの気持ちが少しでも楽になれば」と考え、今シーズンも「いい球いってるぞ!」などと積極的に言葉を発する姿が多く見られた。その姿勢は後輩にも受け継がれ、常廣羽也斗(大分舞鶴)、下村海翔(九州国際大付)、松井大輔(県岐阜商)の4年生3人に対しても、下級生たちが多く声をかけていた。
手塚はこの春季リーグについて、優勝できたことはうれしかった半面、試合に出場する時間が短かったことを悔しがった。それでもチームを鼓舞し続けた手塚に、野球の神様がほほえんだ試合がある。5月17日にあった國學院大學との2回戦。リーグ優勝を決めた一戦で九回表、ベンチスタートだった手塚に出番がやってきた。ランナーが一塁にいる場面での代打出場。タイムリースリーベースを放った。手塚はこの時を振り返り「出られない時にどう頑張るかを考え、必死にやってきたことが結果になってよかった」と語った。その姿を見ていたベンチもタイムリーとなった瞬間、大きく盛り上がった。
集大成となる秋季リーグへ「チャレンジャーの気持ちで」
連覇がかかる秋季リーグは、9月2日に愛媛県で開幕する。手塚は「チャレンジャーの気持ちで戦いたい」と話す。東都の春季リーグ優勝と日本一を達成したことで、周囲の目は変わってくるが「おごることなくさらに上を目指していきたい」と語った。
個人としては試合に最後まで出ることが目標だ。ライバルとなる2年生の初谷はリーグ戦で2ホームラン。それでも「負けないくらいに守備とバッティングを鍛えて秋を迎えたい」と力強く語った。4年生は2部リーグを知っている最後の代で、神宮球場で戦うありがたみを他の学年よりも知っている。そんな4年生にとって集大成となる秋季リーグから、目が離せない。