神戸大学・榮大志 開幕3連敗に葛藤を抱えるエースQBが「勝利で証明したい」こと
アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部で、神戸大学レイバンズは開幕3連敗を喫した。初戦の立命館大学は28-42、次の京都大学は27-28、そして関西学院大学に10-31。ただ、相手ディフェンスを研究し尽くし、さまざまな工夫を凝らして仕掛け、ロングパスも決めるオフェンスは、どのチームよりも試合会場を盛り上げてきた。その真ん中にいるのが、3年生QBの榮大志(さかい・たいし、清教学園)だ。
挑戦者魂を象徴するかのような関学戦の先制劇
第3節終了時で榮は72回パスを投げ、42回の成功、637ydの前進で6タッチダウン(TD)。一方で三つのインターセプトを喫している。パス獲得距離では2位の甲南大学・竹原隆晟(4年、宝塚東)に141ydの差をつけてリーグトップに立つ。関学戦のあと、榮は「高校で1勝もできなくて、去年まで活躍もしてなかった自分がスタートで出てうまくいくか不安だったけど、手応えは感じてます。でも、勝ちきれない未熟さも感じてます」と語った。
9月30日の関学戦は最高の立ち上がりになった。神戸のオフェンスで始まり、フィールド中央付近での第2ダウン残り9ydで勝負に出た。左のオープンランのフェイクから、パス。右からWR大高理玖(4年、市立西宮)がポストパターンを走る。立命戦で短いパスを捕って独走TDしたレイバンズのスピードスターと関学DB高橋情(4年、東海大大阪仰星)の勝負だ。神戸のOLが関学DLのラッシュを食い止め、榮はショットガンスナップを受けた位置から前に出つつ時間を稼ぐ。スナップから4秒と少し。榮が右腕を振り抜く。きれいな弧を描いたボールが、高橋より少しだけ奥へ走り込んだ大高の腕におさまった。
53ydの先制TDパス。レイバンズの挑戦者魂を象徴するかのような先制劇にバックスタンドは沸いた。ただ、すぐに追いつかれ、第2クオーター(Q)に入ってすぐ、フィールドゴール(FG)で7-10と勝ち越された。ここから王者関学がファンブルロストにFG失敗ともたついてくれたが、榮がこの秋初登場のWR岡田堂生(3年、星陵)へロングパスを通しても攻めきれず、何とかFG成功で10-10と追いついてハーフタイムに入った。後半は関学ディフェンスにアジャストされ、神戸ディフェンスはしっかり当たってくる関学のRB、WRをタックルできない。点差が開いて試合は終わった。
「ロングパス2本だけで、ドライブさせてもらえなかった。後半は気持ちの強さ、ヒットの強さ、実力の差がそのまま出てしまった。それでもこれまでダメだったファーストシリーズでTDできたのは、一つの成功だと思います」。榮は複雑な表情で、こう言った。
親戚のお兄ちゃんを見て、アメフトにあこがれ
榮はフットボールを始めて15年目になる。小学校1年のときにOSAKAマーヴィーズに入った。親戚のお兄ちゃんの雄姿を目にしたのがきっかけだ。大産大附高、専修大学でプレーし、Xリーグの鹿島ディアーズ(現・胎内ディアーズ)ではライスボウル制覇も経験した榮貴浩さん。気持ちを前面に出し、思いきりのいいタックルが持ち味のDBだった。その姿を見た榮はアメフトに漠然としたあこがれを持ち、自分も始めた。同時にバスケットボールにも取り組んだ。中学生のころはマーヴィーズでWRをしていて、QBだった小段天響(現・関西学院大1年、WR)からのパスを受けていた。
大阪府河内長野市にある清教学園高のアメフト部は部員が少なく、中学までのフットボール経験者は榮だけ。2年生の秋からは大阪学芸と合同チームで公式戦に出た。前述のコメントの通り、高校時代を通じて1勝もできなかった。それでもQBとしてプレーしていた榮にはレイバンズから「一緒にやろう!」と声がかかっていた。榮自身も「大学は1部でやりたかった。国立で1部ってのがカッコよかった」と神戸大を受験し、国際人間科学部に合格した。清教学園のアメフト部は昨年、廃部になった。
準備を大切にする姿勢の根付いたレイバンズ
OBであり、XリーグのオービックシーガルズでDBとして活躍した現監督の矢野川源さんがチームに加わってから、神戸大は以前にも増して準備を大切にするチームになった。相手の弱点を知り、そこを突く作戦を立て、練習で精度を高める。その繰り返しで1部の上位を脅かす存在に定着した。
第4節は10月15日、神戸・王子スタジアムで「3強」の一角である関西大学と戦う。「しんどいこともやってきたんで、(それが正しかったと)勝利で証明したい」。榮はそう意気込んでいる。オフェンス、ディフェンス、キッキングチームがかみ合えば、優勝候補からの今シーズン初勝利も見えてくる。