神戸大LB内川篤 チーム唯一の医学部医学科生、NFLを目指す弟のヘルメットで奮闘
アメリカンフットボールの関西学生大会が5月27、28日に開かれ、関西学生1部の8チームが登場した。28日にはMKタクシーフィールドエキスポ(大阪)で昨シーズン3勝4敗同士の神戸大学レイバンズと近畿大学キンダイビッグブルーが対戦し、10-0で神戸大が勝った。レイバンズの背番号0でLB(ラインバッカー)のスターターとして奮闘した内川篤(2年、東海)はチームで唯一、医学部医学科で学んでいる。
弟は南山高校で大活躍
神戸大と近畿大の試合前、駐車場から会場まで歩いていると、ある選手に再会した。1年ぶりだった。昨年まで南山高校(愛知)のエースQBとして大活躍した内川誠だ。NFL選手になる夢を追い、昨年8月に海を渡った。アメリカ北東部コネティカット州の私立セント・トーマス・モア・スクールの11年生(高校2年生相当)に編入。2年かけてレベルの高い大学から声のかかる選手になろうという計画で、その1年目が終わり、学校の休みを利用して帰国していた。
両親と一緒に名古屋から大阪まで観戦に来ていた。ポロシャツから出た両腕のたくましさが、去年とはまったく違う。2試合目の関関戦がお目当てなのかなと想像していると、父の智浩さんが「お兄ちゃんが出るんです」と教えてくれた。そういえば内川は3人きょうだいの末っ子だった。兄は神戸大学レイバンズの選手とのこと。初耳だった。
会場に着いて神戸大学のメンバー表を見ると、背番号0の欄に内川篤の名があった。2年生のLBで、愛知の東海高校出身。そして堂々のスターターだ。神戸大の試合前練習に内川兄の姿を探しに行くと、矢野川源監督がこちらへ小走りで来てくれて、「あの0番は内川っていうんですけど、実は」とおっしゃるので、私は「知ってます! 弟さんも来てますよ」と返した。さらに矢野川監督は衝撃の事実を口にした。「彼は医学部医学科なんです」と。レイバンズで医学部医学科の選手は過去にも数えるほどで、現役部員でいうと内川ただ一人だ。
意地のファンブルフォース
身長180cm、体重76kgの内川はまだ線が細く、LBとして思い切って動けていないように感じた。相手のOLやRBに当たり負けするシーンもあり、なかなかボールに絡めなかったが、意地を見せた瞬間があった。
神戸大が3-0とリードして迎えた第3クオーター残り2分あまり。近畿大にゴール前へ迫られ、第3ダウン5ydだ。中央付近のランで内川は相手RBと1対1に。タックルにいくが当たりを受けてしまい、仰向けに倒された。しかし内川は倒されながらもしぶとくボールに手を絡め、ファンブルさせた。これを神戸大のDB浅木雄登(3年、北野)がリカバー。近大オフェンスを断ち切った。神戸大が10-0で勝った試合後、内川に話を聞いた。
東海高校にはアメフト部があり、弟のこともあって、てっきり兄もアメフト経験者かと思い込んでいたが、違った。高校までは野球に打ち込んだ。高3の2020年夏は新型コロナウイルスの感染拡大で甲子園大会が中止となり、各都道府県高野連が主催する独自大会が開かれた。愛知県の独自大会1回戦で、東海は全国的な強豪である東邦と対戦。エースの内川は二回までヒットを許さなかったが、三、四回につかまり0-11で5回コールド負けを喫した。
翌日の朝日新聞愛知県版に、進学校の長身エースをたたえる記事が載っている。その中で内川は、将来の夢はスポーツドクターだと話し、「トップレベルのチームに同行してケアや治療をしていきたい」と語っている。そして1年の浪人生活を経て、神戸大学医学部医学科に合格した。
弟の試合観戦に何度も行っていたこともあり、アメフトは面白そうだという思いはあった。神戸大に入ってレイバンズの勧誘を受け、部の雰囲気のよさにもひかれて入部を決めた。勉強との両立のことはもちろん考えたが、最終的に「いけるんじゃないかな」と結論づけた。しばらくして防具を着けた練習が始まると、内川は弟の南山高校のヘルメットを使った。その姿を見て初めて、矢野川監督は「内川って、あの内川選手の!」と気付いたそうだ。いまもそのヘルメットでプレーしている。
キャンパスからグラウンドまで自転車で30分以上
昨年は秋のリーグ戦出場はなかった。冬のオフに1年生同士で戦う試合に向けて、11月ごろにポジションがLBに決まった。本当はTE(タイトエンド)をやりたかったそうで、「まだ狙ってます」と笑う。「LBは難しいです。まだ思い切って動けない。でも、やるからにはタックルができるようにしたい」
医学部のキャンパスからアメフトの練習グラウンドまで、自転車で30分以上もかけて移動している。文武両道を貫き、どんどんフットボーラーらしくなっていく0番が楽しみだ。