陸上・駅伝

特集:第100回箱根駅伝

2年連続で箱根予選会トップ通過の大東文化大学 悔しさ原動力に、前年を7分上回る

スタート直後、集団で走る大東文化大の選手たち(撮影・吉田耕一郎)

第100回 東京箱根間往復大学駅伝競走予選会

10月14日@陸上自衛隊立川駐屯地~立川市街地~国営昭和記念公園(21.0975km)

1位 大東文化大学  10時間33分39秒
2位 明治大学    10時間34分38秒
3位 帝京大学    10時間35分08秒
4位 日本体育大学  10時間36分42秒
5位 日本大学    10時間36分54秒
6位 立教大学    10時間37分06秒
7位 神奈川大学   10時間37分20秒
8位 国士舘大学   10時間37分21秒
9位 中央学院大学  10時間37分27秒
10位 東海大学    10時間37分58秒
11位 東京農業大学  10時間39分05秒
12位 駿河台大学   10時間39分40秒
13位 山梨学院大学  10時間39分47秒
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14位 東京国際大学 10時間39分50秒
15位 麗澤大学   10時間43分15秒
16位 拓殖大学   10時間43分16秒
17位 上武大学   10時間44分41秒
18位 専修大学   10時間44分51秒
19位 日本薬科大学 10時間48分34秒
20位 筑波大学   10時間49分07秒

10月14日の箱根駅伝予選会で、大東文化大学が昨年に続いてのトップ通過を果たした。留学生の途中棄権というアクシデントを乗り越え、2年連続52回目となる本戦出場をチーム一丸でつかみ取った。

ピーター・ワンジルを襲ったアクシデント

まさかの出来事は、レース序盤で起きていた。

ハーフマラソンの1時間2分02秒を含め、5000mと10000mでもチームトップのタイムを持つ留学生のピーター・ワンジル(3年、仙台育英)が、早い段階で右大腿(だいたい)部を痛めてしまった。真名子圭監督によると、「練習は完璧にできていて絶好調だった」が、5kmに到達する前から失速し始め、10km過ぎにはチーム12番手に後退。「ジョグでいいから」と指示を出した真名子監督だったが、残り1km付近で足を引きずっているワンジルを見て途中棄権させる決断を下した。

西川千青(3年、九州国際大付)は「3kmあたりでピーターに『ペースが速かったら後ろで行っていいよ』と声をかけた後、近くにいなくなった」という。その後の状況を把握できていなかったが、一緒に走っていた久保田徹(4年、聖望学園)と「15㎞までは集団でしっかりためていこう」と自分の走りに集中した。途中でコーチからワンジルが後方にいることを知らされた久保田も、「ピーターは2年前の予選会でも失速していたので、冷静に対応できた」。最上級生らしく経験を生かしている。

レース終盤、帝京大の福田とともに走る久保田(撮影・井上翔太)

前から落ちてくるワンジルを見て、「タイムを稼がないといけない」と攻めの姿勢をより強くしたのは、菊地駿介(4年、仙台育英)だった。フリー走だった西川ら4人とは別に、8kmの給水までを6人の集団走で行く予定だったが、「体がよく動いた」こともあって、早いタイミングで単独走に切り替えた。

「今年の箱根駅伝も2区のピーターが失敗して、そこから立て直しができませんでした。だから夏合宿でも、『ピーターがいなくても自分たちが何とかする』という意識で取り組んできたので、不安や焦りはなかったです。自分はとにかく先頭集団を追いかけるような形で攻めました」

留学生の爆発力に期待を寄せるチームは少なくない。しかし、大東文化大は良い意味でワンジルに頼らず、一人ひとりが自分のやるべきことに意識を向けていた。

ワンジルのアクシデントを受け、菊地は攻めの姿勢をより強く持った(撮影・井上翔太)

西川千青は7月、10000mで大東大記録を更新

この日の大東文化大は、チームとして目標順位を掲げなかった。真名子監督が「予選会はあくまでも通過点。『本戦を見据えて、個人で戦いにいけ』と走らせました」と語った通り、選手たちは積極果敢な走りを心掛けた。

そうした中、西川が1時間2分19秒で15位、久保田が1時間2分23秒で16位、菊地が1時間2分28秒で23位と、3人が1時間2分台の好走。入濵輝大(2年、瓊浦)や大谷章紘(3年、水城)ら5人も1時間3分台でまとめている。10km地点で8位だった総合順位は、15kmで4位、17.4kmで2位に上げ、それまでトップを守ってきた明治大学を最終盤の3.6kmで逆転した。

真名子監督がこの日の殊勲者に挙げた西川は、7月に10000mで23年ぶりの大東大新記録となる28分25秒33をマークするなど、今季大きく飛躍した一人だ。自身はその要因が「悔しさにある」と語る。

「今年の箱根駅伝で10区に入っていた自分は当日変更で走ることができませんでした。その悔しさが結果につながっていると思います。昨年の予選会もチーム10番手で、みんなの足を引っ張ってしまった部分があったので、今年は主力としてしっかり稼いでいこうという強い気持ちで挑みました」

西川はチームトップでフィニッシュ(撮影・吉田耕一郎)

悔しい思いを原動力にしてきたのは、久保田や菊地も変わらない。

「今年の箱根は1区を走らせてもらい、区間15位で悔しい走りになってしまった。今季も前期は苦しい走りが多かったですが、夏合宿をしっかり行い、今日の予選会までは良い形で来ることができました」(久保田)

「今年の箱根駅伝は自分が5区に決まったのが1カ月前で、不安がある中で走ることになりました。チームも総合16位に終わり、すごく悔しかった。箱根の借りは箱根でしか返せないので、今年の予選会は通過点として、本戦で戦えるようにやってきました」(菊地)

あんな思いはしたくない――。前回の本戦を走った6人だけでなく、チーム全員が同じ気持ちで2023年シーズンを過ごしてきた。

創立100周年のテーマは「1へのこだわり」

大東文化大は箱根駅伝で1975~76年、90~91年と2度の連覇を誇り、5区や6区で多くの名選手を輩出してきたことから「山の大東」と呼ばれる。だが、10位でシード権を獲得した2015年を最後に近年は低迷が続き、20~22年は予選会で敗退。3年連続で本戦を逃したのは、初出場した1968年以降で初めてのことだった。

チームの再建を託された真名子監督は、就任1年目の昨季から手腕を発揮し、全日本大学駅伝は5年ぶり、箱根駅伝は4年ぶりにチームを本戦に導いた。しかし、いずれも本戦では苦戦を強いられ、「このままではいけない」という思いを強くする。

2年連続でトップ通過を果たし、タッチをかわす選手たち(撮影・吉田耕一郎)

そこで今季は「1へのこだわり」をテーマにしてきた。

「箱根駅伝は100回大会で、大学は創立100周年になります。学生とは年度初めから『シードを取る』という目標でやってきました。たまたま我々は100周年、100回大会に巡り合えましたが、それは先代たちが一つひとつ積み重ねてきた結果。その感謝も含めて、1秒とか1位、シードの一つに入るなど、『1』を意識して日頃の練習から発破をかけています」

そうした成果は、総合タイムで昨年を7分も上回った走りに表れていた。しかも、主力のワンジルを欠いた中で達成したことから、選手たちは今まで以上に自信を深めたようだ。

来年正月の本戦に向けて、西川が「自分は目立ちたいので、1区を希望しています。出遅れるとシードから遠ざかってしまうので、区間3番ぐらいで走りたい」と意気込めば、久保田も「往路で区間上位で襷(たすき)を渡して、チームに貢献したい」と前回の雪辱を誓う。菊地はチームのためならどんなことでもやり抜く覚悟を決めている。

「夏合宿の坂の練習でも、チームの上の方では走れていたので、坂を走る人がいなければ坂を走りますし、エース区間を走らなければいけない状況であれば、エース区間でも走ります。そこは臨機応変に対応していきたいと思っています」

11月には全日本大学駅伝も控える大東文化大だが、箱根駅伝でのシード権獲得という最終目標にブレはない。

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