京都大学DL鈴木司恩 大文字山で入部を決断、関学を「食って」最高の誕生日に
アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は10月28、29日に第5節の4試合がある。全勝対決が始まり、10年ぶりの開幕4連勝を飾った京都大学ギャングスターズは王者関西学院大学に挑む。かつて日本のフットボール人気を支えてきた「関京戦」は2005年から関学が京大に勝ち続け、ゴールデンカードではなくなった。ただ、今回は京大に藤田智ヘッドコーチが復帰し、下級生のころからチームを支えてきた選手たちがラストイヤーを迎えて奮闘している。その一人がDLの鈴木司恩(しおん、4年、都立青山)だ。
2年秋から最前線に立ち「今年はサック王を目指す」
第4節の龍谷大学戦のハーフタイム、試合後に鈴木を取材しようと思って京大のイヤーブックをめくると、刺激的な数字が目に入った。誕生日が10月28日なのだ。彼は最後の関学戦の日に22歳になる。その事実に気づけたことがうれしくて、取材の冒頭に大人げなく言ってしまった。鈴木は驚いたあと、「リーグ戦の日程が発表された日からずっと意識してきました。運命だな、と。(QB)サックを決めて、勝ちます」と宣言した。
身長180cm、体重96kg。持ち前のスピードと長い腕でOLと勝負する。クイックネスに課題はありそうだが、2年生の秋から京大ディフェンスの最前線に立ち続けてきた。「今年はサック王を目指してます。まだ一つだけですけど、ここから積み上げていきます」と不敵に笑う。
修学旅行中に「吉田寮」を見学
神宮球場の近くにある都立青山高校ではサッカー部でCB(センターバック)としてプレーしていた。高2のとき、修学旅行で京都を訪れた。班別行動の時間に京大へ行ってみた。1913年に建てられた木造二階建ての吉田寮を見学させてもらった。これが京大を志すきっかけになった。「ヤバい人が多そうだけど、面白そうな大学だと思って」。模試の成績はずっとE判定だったが、本人いわく「現役の最後の伸びで」経済学部に合格を果たした。
2020年春、オンラインで開かれた学部説明会でアメフト部による「山へ登ろう」という企画を知る。好奇心から参加してみると、新入生1人に、アメフト部の先輩2人がついて大文字山を登った。登りながらいろんな話を聞かされ、「ああ、これはアメフトに入ることになるんだろうな」と思い始めた。
コロナ禍で学内では勧誘できないので、大文字山の上で勧誘しようというアメフト部のノリに、まんまとはまった。山頂に着くと、京都市街の絶景が広がる。そこで鈴木は「入ります」と宣言した。確かに高校時代から隣で練習しているラグビー部を見ては「もうちょっとアツくなりたい。ラグビーいいな」と感じていた。それがアメフトに化けた。
入学当時は体重が65kgしかなかったが、チームは体重が増えることを見越して鈴木をDLにした。「最初はひょろひょろだったし、DLが嫌で仕方なかった」。1年生の冬には当時のディフェンスコーディネーターだった上田拓さんに、泣きながらコンバートをお願いした。それもかなわず、仕方なくDLを続けた。スピードを生かしたラッシュを買われ、2年生の秋からDLの中でも外側を守るDE(ディフェンスエンド)でスターターとなった。
「やってきたことが正しかったと証明したい」
この年の関学戦ではディフェンス右サイドからパスラッシュをかけ、内フェイクの外でOLを置き去りに。同じ2年生だったQB鎌田陽大(現4年、追手門学院)をサックした。「あのころは怖いもの知らずで思いっきりやれました。3年になっていろいろ分かってきて、関学のOLに対して恐怖心もありました」と鈴木。
パスラッシュで強豪校のOLを打ち破るため、練習後にOLとの1対1の対決を繰り返してきた。得意のスタートを磨き、駆け引きも覚えた。関学戦を前に、鈴木は言いきる。「今年は去年みたいな恐怖心はないですね」。そして関西最強の呼び声が高い関学OL近藤剣之介(3年、佼成学園)との戦いについて、「弱点は分かってるんで、狙っていきたい」と言った。
今年は鈴木が入部してから初めて、秋の初戦で勝利。そのまま4連勝した。「この勢いに乗って、関学を食ってやろうと思ってます。僕らに失うものなんかない。関学に勝って、いままでやってきたことが正しかったと証明したいです」。鈴木はそう言って、いい笑顔になった。
吉田寮を見て京大受験を決め、大文字山の上で入部を決めた。おもろい男が、最高の誕生日を創りあげる。