アメフト

京大・長谷川航平コーチ 立命で甲子園ボウル制覇「打倒関学のカギは第1クオーター」

試合中、ベンチで選手に声をかける京大の長谷川航平コーチ(近影は撮影・篠原大輔)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は10月28、29日に第5節の4試合がある。28日には10年ぶりに開幕4連勝を飾った京都大学ギャングスターズが、もちろん無敗の王者・関西学院大ファイターズに挑む。かつては4万人超の観衆が詰めかけたこともある「関京戦」だが、2005年からは関学が勝ち続けている。京大のコーチには、2015年に選手として関学を下した経験のある人がいる。

必要条件は「先取点とキッキングゲームでのビッグプレー」

昨年からRB陣を指導している長谷川航平さん(29)。立命館守山高校(滋賀)でアメフトを始め、立命館大学パンサーズでRBとして活躍。4年生の2015年シーズンはリーグ戦7試合で60回ボールを持ち、リーグ6位の376ydを走って7TD(タッチダウン)を決めた。

当時は身長169cm、体重85kg。42番をつけ、パワフルでかつカットも切れるランナーだった。このシーズン、リーディングラッシャーに輝いたのは、長谷川さんの後輩である西村七斗(当時2年、大産大附)で900ydを走った。リーグ最終の関学戦は全勝対決となり、立命が30-27で勝って関学のリーグ6連覇を阻み、西南学院大学(九州)を下して甲子園ボウルへ進出した。長谷川さんは「僕らが勝った試合がまさにそうでしたけど、先取点とキッキングゲームでのビッグプレー。これが関学に勝つための必要条件だと思います」と話す。

立命館大4年のころの長谷川さん。パワー一辺倒からの脱却を目指していた(撮影・篠原大輔)

立命が甲子園ボウルに勝ち上がった2015年。リーグ初戦は京大との対戦だった。その2年前、立命は京大に2-20で13年ぶりの敗戦を喫していた。「僕らの2個上の先輩はスーパースターの集まりでした。そのチームが京大に負けて、実力が上でも負けることがあるという経験をさせてもらった。僕らの代は初戦が京大になって、シーズンの最初からギアが入ってました。その勢いのまま関学戦までいけた」。スキルポジションにRB西村七斗、WR近江克仁、QB西山雄斗という強力な2年生トリオがいて、OLは4年生中心。ディフェンスも4年生が中心だった。

どのチームにいても、関学には勝ちたい

関学にはそれ以前の3年間、オフェンスでTD(タッチダウン)を一つも取れずに負けてきた。関学に勝つため、春はウェートトレーニングとランメニューばかり。夏からは1対1の勝負を磨いてきた。「関学にTDも取れずに負け続けてたから、向上心のあるチームでした。下級生からの突き上げがあったのも大きかった」と長谷川さん。

そして迎えた関学戦。第1クオーター(Q)終盤に相手のパスをDB奥野敬介(当時4年、立命館宇治)がインターセプト。ゴール前14ydまで返した。3回の攻撃で2yd残った。挑戦者であるパンサーズはギャンブルに出る。11人が集まった隊形から、ワイルドキャットのQBに入った長谷川さんが右へモーション。RBの西村がスナップを受け、右サイドを突く。スピンで3人のタックルを外し、エンドゾーンへ飛び込んだ。これが長谷川さんの言う打倒関学に欠かせない「先取点」だ。「それまでの試合ではワイルドキャットをやるときは必ず僕が持って走ってたんですけど、それを布石にして、関学戦では僕がブロッカーに出て七斗を走らせました。あの先取点が大きかった」

2015年のリーグ最終戦、立命RB西村七斗が関学から先制タッチダウン(撮影・内田光)

そして第2Qに3点を返された直後のキックオフリターンで、1年生WRの渡邊綾介(日大三)が93ydのリターンTD。これが長谷川さんの言う「キッキングゲームのビッグプレー」だ。「綾介のリターンTDのおかげで、17-6でハーフタイムに入れた。めちゃくちゃ大きかったですね」。後半も点の取り合いになったが、立命は一度もリードを許すことなく勝った。

長谷川さんが昨年、京大のコーチとして初めて臨んだ関学戦は14-34で負けた。その試合での自分の心の動きを振り返り、「どのチームにいても、関学には勝ちたいもんなんやなと思いました」と笑う。いま関学については「システムがしっかりしてて、どこと試合をしても、誰が出ても同じようにできる。そこにいろんな高校からいい選手が集まってくるから強いんでしょう」と考えている。

その王者に勝つために必要なものについて長谷川さんは「何か特別に秀でたもの」と表現する。「それがまずQBの泉(岳斗)ですよね。でも去年までの試合を見ても分かるように、泉だけだと関学の守備範囲。レシーバーとバックで1人ずつキーパーソンが生まれれば対抗できる」と語る。そして関学サイドのこの試合への思い入れについても触れた。「関学はウチのあとに立命、関大とやるので、どうしてもそれが頭にあると思う。少しでも隙(すき)があれば、ウチが突破できる可能性が出てくる」

高校生を2年間教えたあと、京大へやって来た

Xリーグでの大けがを経て、コーチの道へ

長谷川さんは立命を卒業したあと、大手の損保会社に勤務しながらXリーグのチームでプレーしたが、転勤も多く、学生時代と違ってフットボールに集中できなかった。そんな中で大けがを負い、3度にわたる手術を経験。後遺症で2年間、歩くのにも不自由な時期を過ごした。もう選手としてアメフトを続けるのは難しくなり、こう考えた。「せっかく大学日本一を経験したから、いろんなことを伝えられたら。それにRBをやってた人って感覚タイプが多くて、なかなか選手への指導が難しい。僕は理系(情報理工学部)だったし、ロジカルに教えられる」。まずは箕面自由学園高校(大阪)でコーチを2年間務め、京都で転職するタイミングで京大から誘われ、農学部グラウンドに通い始めた。

土日も仕事があるため、平日を中心に指導し、試合には有給休暇を使って駆けつける。試合中はオフェンスメンバーがサイドラインに戻ってくるたび、RBやQBに近づいて語りかける長谷川さんの姿がある。「京大は高校時代からアメフトをやってる選手が少なくて、関学や立命館とは経験値の差がかなりあります。ただ、素直さは京大の方が上です。一方で実はアジャストが利かない。『こうだ』と教えると、そのやり方しかやらない。彼らを教えてて、そこで苦労しますね」と苦笑いで言った。主将でもあるQB泉は長谷川コーチについて、「僕らは関学に勝ったことがなくて、何をやるにしても不安もあるんですけど、長谷川さんは強いチームのマインドで教えてくれる。去年から個人的にもかなりお世話になって、ほんとに感謝してます」と話す。

「先手をとれば前半はもつ。第1Qで試合は決まると思ってます」。京大にとって2004年以来の関学戦勝利へ。長谷川コーチも京大のサイドラインで、闘う。

コーチとして2度目の関学戦に臨む

in Additionあわせて読みたい