早稲田大が目標の「四冠」に王手 伊藤吏玖、インカレは「泰杜を勝たせて終わりたい」
秋季関東大学男子1部バレーボールリーグ戦
10月29日@日本体育大学(神奈川)
早稲田大学3-1日本体育大学
(25-22.25-23.20-25.28-26)
3度目のマッチポイント。決めたのは、早稲田大学の主将・水町泰杜(4年、鎮西)のブロックだった。
第4セット27-26。1点を追う日本体育大学は山田大貴(4年、清水桜が丘)のサーブから、オポジットの阿部晃也(4年、東北)へ。そこに待ち構えていたのが水町だった。この試合だけでなく、秋季リーグを通して高い決定力を見せてきた阿部のスパイクを、さらに上回る完璧な高さで阻む。
28-26で試合を決し、春季リーグ、東日本インカレに続く三冠を達成。早稲田大の選手たちがコートになだれ込み、水町を中心に歓喜の輪が作られた。「ホッとした」と安堵(あんど)の表情を浮かべながらも、全勝優勝の喜びよりも自身の課題を挙げたのは、ミドルブロッカーの伊藤吏玖(4年、駿台学園)だった。
「優勝できたのはすごくうれしいし、泰杜はやっぱりすごいな、と思います。でも自分のパフォーマンスは全然ダメ。昨日(28日)の試合後も『4年生が情けない』と指摘されたのに、4年生らしい働きができなかった。反省しかないぐらいです」
よくない時にどれだけ踏ん張れるかが4年生
前日の筑波大学戦はフルセットでの辛勝だった。最終戦の日体大戦と同様、競り合いながら最後は水町が決めたが、ミスも相次ぎ「4年が情けない」と感じていたのは他ならぬ自分自身だった、と伊藤が振り返る。
「ここまで(秋季リーグを)勝っているけれど、チームとして完成しているかといえばまだまだ。ラリー中に個人個人が焦ってミスが出たり、点差をつけても追い上げられるとまた焦ってしまう。僕自身も攻撃に入る時(位置を)詰めすぎて打ち切れず、拾われていたので焦っていたんです。そうすると、『どうしよう、決まらない』とまた前のめりになってしまって余計に決まらない。完全に悪循環でした」
調子がいい時であれば、たとえ追い上げられても「普通にプレーをすれば大丈夫」と余裕を持てる。だがズレが先行し、「うまくいかない」と感じると、いつも通りにできているプレーにすら自信が持てない。本来ならば最上級生として、後輩たちやチーム全体に向けなければならない意識が、必然的に自分へと向けられた。歯がゆさを感じていたのは伊藤だけでなく、主将としてチームを牽引(けんいん)する水町も同様だった。
「いい時は放っておいてもできる。でもよくない時にどれだけ踏ん張れるかが4年生だと思うんです。自分のプレーがうまくいかないと、周りに対して声をかけたり、行動する余裕もなくなるし『自分ができていないのに』という気持ちが先行するのもわかる。だけどこのメンバー、この同期ならできると思っているし、全カレはこれ以上のストレスがかかる。4年生は後輩のために、後輩からは『4年生を勝たせたい』と思われるようにならないと、最後は勝てないと思うので、自分が苦しくても4年生にはチームを鼓舞してほしい、という思いはあります」
ここぞで決めた渾身のブロック
伊藤は身長195cmの恵まれた体格で、高校時代も春高やインターハイで華やかな戦績を残してきた。だが高校時代の恩師から「むしろ不器用なのが持ち味」と揶揄(やゆ)されるように、決して器用な選手ではなく、何より性格が優しい。人として優しさは最高の長所だが、勝負の世界ではプラスばかりにはたらくとは限らず、伊藤自身も「優しさだけじゃなく、勝ちに対する欲や執着心が必要」と自認する。水町や山田のように、コートの上で感情を爆発させるのも得意ではない。
だが、いつまでも「苦手だから」とそのままにするわけにはいかない。不器用なりに、AクイックやBクイックと少しずつスキルを増やしてきたように、コートの中でも笑顔を見せ「ここ」というポイントでは大きなアクションで盛り上げる。日体大戦の第2セット序盤にも、こんなシーンがあった。
7-10と3点を先行された序盤、打開すべく水町がバックアタックを放ったが、相手の手堅いディフェンスでつながれた。さらに連続得点されれば点差が広がり、日体大の勢いが増すことは明らかな状況で、阿部のバックアタックを止めたのが伊藤のブロックだった。
まさに「渾身(こんしん)の一本」と言うべき1点を決めると、自然に大きなガッツポーズが出た。
「自分も熱中して熱くなっていたので、とにかくブロックでミスをしないように心がけていました。でも、あの場面は誰が決めても盛り上がる。無意識にガッツポーズが出ました(笑)」
試合の序盤から対角に入る麻野堅斗(1年、東山)もブロックポイントを量産。麻野は「前日までブロックで全く貢献できていなかったので、帰ってからひたすら動画を見たことが成果につながった」と明かす。伊藤にとって後輩の活躍はチームの力になる喜びがある一方、同じミドルブロッカーとしては刺激にもなった。
「麻野の高さは唯一無二。同じことを自分がしようとしても難しいし、自分には自分の持ち味があるので、相手をいかに冷静に観察して、しっかり判断してミスなく(ブロックに)跳ぶことができるか。細かいミスを流さず『やっぱり4年生がいないといけないよな』と思われるような、信頼されるような選手になりたいし、ならなきゃダメだ、と思わされました」
例年は過程を重んじる中、あえて結果を求めた理由
今年度のチームが発足する時から、4年生全員で「四冠を取りにいく」を目標に定めた。例年は結果だけにフォーカスするのではなく、過程を重んじる早稲田大で「四冠」と明確に打ち立てること自体が珍しいのだが、松井泰二監督も「ここまで経験を重ねてきた選手たちが、四冠をしたい、と結果を求めてきた。それならば挑戦しよう、と掲げて全員で取り組んできた」と選手の意志を重んじた。
あえて結果を求めた理由の一つが、昨年味わった悔しさだった。1年時からレギュラーリベロとして出場してきた荒尾怜音(4年、鎮西)が明かす。
「勝つことの難しさも、勝ち続けることの難しさも味わって、去年はあと2点が取れずに負ける悔しさも味わいました。だからこそ、今年は勝ちきることで自信をつけたいと思って同期で『四冠』と目標を決めた。苦しんだけれど、秋リーグを勝てたことも全カレにつながる力になりました」
そして、もう一つの理由がある。チームの副将でもある伊藤が、同期の思いを代弁した。
「1年から試合に出て、誰より打って、拾って、4年になった今は主将としてチームのために全うしてくれている泰杜を勝たせて終わりたいんです。まだまだ自分には足りないところだらけだけれど、自分のプレーだけに一喜一憂するのではなく、チームとして勝つために動く。果たすべき役割を果たして、泰杜を最高のエースで最高の主将として終わらせたい。そうなるために、自分がやるべきことは何でもできるようになりたいです」
悲願達成、目指す四冠まであと一つ、ではなく、一つずつ。自分もチームも、まだまだもっと強くなれる。そう信じている。