早稲田大・山田大貴 「春だったら周りを見ずにミス」東日本インカレで示した成長点
常勝早稲田。近年は決勝進出やセンターコートもなじみの光景かと思いきや、6月21~24日に開催された東日本インカレを制したのは2018年以来、5大会ぶりだった。早稲田大学の山田大貴(4年、清水桜が丘)にとって、決勝のセンターコートに立つのは今回が初めてのことだった。
人目もはばからず悔し涙を流した春季リーグ
「4年になって、日本一を目指す早稲田の一員としてコートに立つ。それはすごくうれしいことだし、誇りに思います。でも同期の選手と比べると、自分には圧倒的に経験がない。修羅場をくぐってきた数も違うし、メンタルもまだまだ弱い。悩むことばっかりです」
同期を見渡せば水町泰杜、荒尾怜音(4年、ともに鎮西)は春高を制した経験があり、伊藤吏玖(4年、駿台学園)も春高で準優勝。高校時代から輝かしいキャリアを持つ。もちろん山田も例外ではなく、全国大会に出場し、U18日本代表にも選出された。「まだまだ」と言うには余りある経験を誇るが、「この1本が決まれば優勝」という大きなプレッシャーと直面したことは確かにない。
「大舞台で自信を持ってプレーするだけの力やメンタルが、まだ自分にはないんです。逆境への弱さを、改めて思い知らされています」
その言葉が示すのは、東日本インカレの約1カ月前に閉幕した春季リーグ、最終戦となった中央大学戦だ。前日まで全勝で、最終戦に勝てば全勝優勝。昨年はタイトルを一つも取ることができずに終わった悔しさを払拭(ふっしょく)する、絶好の機会でもあった。
同じ思いは中大にもあった。春季リーグの開幕から思うような形を作りあげることができず、迷いながら戦った結果、負けが先行した。一時は下位との入れ替え戦も視野に入れざるを得ないほど苦しみ、すでに優勝が決まった早稲田との最終戦は、思い切りぶつかる相手として、これ以上なかった。
勢いを前面に打ち出し、フルセットの末に勝利したのは中大だった。
会心の勝利を挙げ、笑顔で引き上げる中大の選手に対し、涙し、肩を落とす早稲田の選手たち。試合後、優勝したのはどちらなのかと錯覚するような光景が広がる中、山田は人目もはばからず悔し涙を流した。中大の思惑通り、サーブで崩され、そこからの攻撃がなかなか通らない。「全部自分のせい」とばかりにうつむく姿は、自分へのふがいなさも表していた。
「これまで積み上げたものを全部否定しなくていい」
もしもこれが3年生だった昨年ならば、同じことを繰り返さないよう、東日本インカレに向けてすぐに切り替え、練習に打ち込んだはずだ。でも、4年になった今は違う。
春季リーグが終わった直後から母校での教育実習が始まり、授業や報告などやることは山積みで、1日があっという間に過ぎていった。だが、その忙しさが、自然と気持ちを切り替え、次へと向かうきっかけになった。山田は振り返る。
「自分のプレーができなくて悔しいというのではなくて、周りにいい思いをさせてあげられなかったことが悔しくて。(春季リーグが)終わって2、3日は何も考えたくないと思っていたけれど、教育実習で初めて人に教える立場になって、こんな自分でも慕って、憧れてくれる生徒がいる。望んだ結果を出すことはできなかったけれど、これまで積み上げてきたものを全部否定しなくてもいいんだ、って。僕はまだまだな分『ここからは上がっていくだけだ』と少し前向きに思えるようになりました」
一つの成果として現れたのが、東日本インカレでの戦いぶりだ。
教育実習期間中はトレーニングや練習量も減る。連戦続きの大会で「体がきつい」と苦笑いを浮かべながらも、トーナメントを勝ち上がった。決勝の相手は春季リーグで惜敗した中大だ。リベンジを誓い気合は十分だったが、第1セットからリードを許し、追う展開を強いられた。終盤にようやく追いついたが、最後は山田のスパイクがブロックに阻まれ、続いて放ったスパイクはラインを割り23-25。相手に先取されたというだけでなく、「自分のミスで負けた」と引きずりかねない「一番嫌な終わり方」だった。
頭では「切り替えなきゃ」と何度も繰り返した。だが簡単ではなく、1本のミスやブロックでの失点を引きずっていた。春季リーグ時の負けも時折頭をよぎる中、吹っ切るきっかけを与えてくれたのは、劣勢でも表情を変えずに奮闘する大黒柱、水町の姿だった。
「誰が見てもわかるぐらい、泰杜はただすごいだけじゃなく、チームを勝たせるプレーができる選手。だからといって、いつまでも泰杜に頼るままだと何も変わらないし、自分自身でいかにコントロールして、自分を乗せて、上げることができるか。『このまま終わったら絶対に後悔する』と思って、とにかくトスを呼んで、サーブも攻める。声を出すようになったら、少しずつプレーも気持ちも上がっていきました」
熱くなりながらも冷静に託せた1本のトス
第2セットを奪い返し、第3セットも水町の活躍で連取。山田もようやく覚醒した。セッターの前田凌吾(2年、清風)が離れた位置からバックライトの山田に託したトスを決め、サーブでもポイントを重ねた。第4セットの中盤には、自ら打ったスパイクが中大のブロックにかかったが、水町がそのボールをつなぎ、ネット際に上がったボールを山田がバックトスでミドルブロッカーの麻野堅斗(1年、東山)へ。やや短めのトスではあったが、左利きの麻野がブロックアウト。直後の連続得点で20-17とリードを広げ、最後は水町のスパイクが決まり25-22。山田が早稲田のレギュラーになって初めて、最終戦まで勝ち切っての優勝をつかみ取ることができた。
「1セット目を取られて、マイナスになるところをプラスに持って行くことができた。第4セットの(トスを上げた)場面も、春だったら周りを見ず、無理やり打ちにいってミスをしていたと思うけど、熱くなりながらも冷静に『この状況なら堅斗が決めてくれる』と託すことができた。ちょっとだけ、成長することができました」
笑みを浮かべる山田以上に、その成長を心強く感じていたのが他ならぬ水町だ。春リーグで中大に敗れた後も「ここから、それぞれがどれだけ自分を上げていけるか」と課題を掲げ、特に「勝つために不可欠」と挙げていたのが山田の爆発だった。
「大貴が頑張ってくれて、僕はすごく助けられました。自分がうまくいかない時に大貴が決めてくれれば、『自分ももっと頑張ろう』と思える。お互いにそういう関係が築けていると思うし、大貴が爆発したら本当にすごいんで。余計なことを考えず、いいところを出し切ってくれればチームはもちろん、僕にとっても本当に心強いです」
ワールドユニバーシティゲームズ日本代表に選出
東日本インカレを終え、暦は7月。夏が過ぎれば秋季リーグが始まり、全日本インカレへ向けてさらに加速する。山田にとって学生生活最後の夏は、また新たな経験を重ねるときでもある。7月末から8月6日まで、中国・成都で開催されるFISUワールドユニバーシティゲームズ(以下、ユニバ)の日本代表に選出された。早稲田大ではアウトサイドヒッターのポジションに入るが、ユニバではセッター対角のオポジット。異なるポジションではあるが「バックライトからの攻撃は得意なので楽しみ」と胸を躍らせる。
「ユース(U18)の経験はあるけど、ユニバは初めて。今は何でも吸収したいし、もっと強くなりたい。大学でも、ユニバでも一番のお手本である泰杜がいるので。泰杜と一緒にバレーができる時間を大事に、結果も求めていきたいです」
もっと強くなる、と誓いを立て、新たな戦いに臨む。