アメフト

準備の周到さを示した関西学院大学、粘りのディフェンスも光って立命館大学に完勝

立命館大戦に完勝し、校歌「空の翼」を歌い上げる関西学院大の選手たち(撮影・篠原大輔)

関西学生アメリカンフットボールリーグ1部 第6節

11月11日@大阪・ヤンマースタジアム長居
関西学院大学(6勝) 31-10 立命館大学(5勝1敗)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は11月11日、関西学院大学ファイターズと立命館大学パンサーズの5戦全勝対決があり、関西学院が立命館を31-10で下して60度目のリーグ制覇を決めた。最終節の関西大学戦に勝つか引き分ければ単独優勝で全日本大学選手権出場が決まる。立命はオフェンスの獲得距離で関学を101yd上回ったが、四つのターンオーバーに泣いた。一方の関学はゼロ。ミスをせず、周到な準備を大一番で生かした。もちろん1年かけて培った強いタックルとブロックがあればこその完勝だった。

ターンオーバー直後にとっておきのプレー

関学は甲子園ボウル5連覇を果たした昨シーズンからほぼ主力選手が入れ替わっていない。けが人も何人かいるが、総合力では立命を上回る。それでも立命は前節の関大戦でもランで1回平均6ydを記録。強力なランオフェンスで関学に風穴を開けられれば面白いと私は考えていた。

しかし挑戦者として臨んだゲームで、立命サイドにほころびが出た。最初の関学オフェンスが無得点に終わり、自陣10ydから始まった立命オフェンスのファーストプレー。関学ディフェンスは最前列のDLを通常の4人から3人にし、DLの浅浦理友(4年、関西学院)を少し下げてセットさせた。これはこの日、多くのプレーで使うことになるアライメントだった。立命はエースRB山嵜大央(だいち、3年、大産大附)にボールを託し、右へのゾーンプレー。山嵜は第一線を抜けるところで内へカットを切る。このとき右腕で持ったボールのホールドが少し甘くなった。次の瞬間、目の前の味方にぶつかったのか、あるいは逆サイドから追ってきた関学DL川村匠史(3年、清風)の右腕がボールにかかったのか、山嵜の右腕からボールがこぼれた。すかさず関学DB中野遼司(3年、関西学院)が飛びついてリカバー。関学が願ってもないゴール前12ydからの攻撃権を得た。

ターンオーバーはもちろん突然起こるので、実は両チームともバタバタするものだ。しかしオフェンスが回ってきた側が冷静なら、これほど簡単に虚を突ける状況もない。その点、さすが準備の関学だ。あたふたしなかった。この日のために用意したプレーの中から、相手の虚を突き、12ydを攻めきれるものを選んだ。

先制のTDパスを投じる関学QB星野。14回中12回のパスを決めた(これ以降すべて撮影・北川直樹)

左タックルの位置にタイトエンド安藤

普段はレシーバー陣がハドルに参加しないことが多いが、このときは11人でギュッと集まった。レディーフォープレーの笛が鳴る。QBの星野秀太(2年、足立学園)以外の10人がいつもより急いでそれぞれのセット位置へ向かった。星野はいちばん遠くへ向かった選手がセットしたのを確認するやいなや、プレーを始めた。パスだ。星野はまっすぐエンドゾーンへ向かったTE(タイトエンド)の安藤柊太(3年、関西学院)が完全にフリーなのを確認し、柔らかいタッチのボールを投じた。91番は難なくキャッチしてエンドゾーンへと入り、先制TD(タッチダウン)。関学サイドの喜びがはじけた。

先制TDパスを受ける関学TE安藤。父の勝康さんは関学でRBとして活躍。弟の謙太は高槻高のエースQB

安藤が「ど」フリーになれたのは、立命側が彼を「無資格捕球者」と勘違いしたからだ。通常は50~79番をつけたOLの5人がボールを中心にC(センター)、左右のG(ガード)、左右のT(タックル)と並んでセットするが、このプレーでは69番をつけたOL森永大為(3年、関西学院)が右へ大きく離れてLOS上にセット。残りのOL4人がボールの付近にセットし、通常は左Tがいる位置にTEの安藤がセットしていた。いわゆる「アンバランス隊形」だ。

LOS上の7人のうち左端にいて91番をつけている安藤はもちろん有資格捕球者だが、立命サイドがそれに気づく間もなくプレーが始まり、安藤は一瞬パスプロのふりをして、まっすぐエンドゾーンへ走った。関学が急いでセットしたのは立命に考える時間を与えないためだ。試合後、星野は「ずっと練習してきたプレーだったから、決まってうれしかった」と言った。まさにしてやったりの先制TDだった。

100kgのRB大槻直人「結果で恩返しできてよかった」

仕切り直しとなった立命は次のシリーズでパスから入ってきた。この試合を通じてそうだったのだが、パスプロは持っていた。QB竹田剛(ごう、3年、大産大附)は左サイドをまっすぐ走り、直角に右へのルートをとった主将のTE山下憂(4年、立命館宇治)へ投げた。しかし逆リードになってしまい、山下のすぐ後でマークしていたDB中野に奪われた。

またも関学オフェンスはゴール前20ydという最高のフィールドポジションを得た。4プレー目、今年6月にLBからRBに転向した大槻直人(4年、京都共栄学園)が100kgの巨体で相手を蹴散らし、タックラーを引きずりながらエンドゾーンに入った。試合後に大泣きした大槻は「せっかくチャンスをもらったのにリーグ戦で2回もファンブルしてしまって、もう出番はないと思ってました。だからこの2週間は自分の中でしんどかった。支えてくれた同期の仲間たちに結果で恩返しできてよかった」と笑った。

関学RB大槻はかつて高校球児。野球部の監督に「冬の甲子園もあるぞ」とアメフト転向を勧められた

14-0からのスタートとなった立命は、攻めきれない。第1クオーター(Q)9分すぎにキッカー油怜央(4年、立命館守山)が40ydのFG(フィールドゴール)を決めて14-3とした。次のシリーズではゴール前6ydからの第4ダウン残り1ydでギャンブル。RB山嵜が左サイドを突くと見せて、WR大野光貴(3年、立命館守山)へトス。右へのリバースプレーで一気にTDを狙ったが、関学ディフェンスの反応がよく、ロスしてしまった。関学は星野のパスがさえて1TDを加え、21-3。直後のキックオフではリターンした立命の1年生RB蓑部雄望(佼成学園)が、キックオフカバーにかけていた関学の4年生DB岸晴登(関西学院)の突き刺さるようなタックルを受けてファンブルロスト。

ここからの関学オフェンスはFG失敗に終わった。関学は直後のディフェンスで今シーズン初めて、昨シーズンの年間最優秀選手であるDLトゥロターショーン礼(4年、関西学院)を投入。相手OLを押しのけてタックルすると、スタジアムが沸いた。この日は限定的な起用だったが、二つのロスタックルを決めた。春先にけがをしてから、この日の復帰を目指してきたという。ショーンは「去年のいい状態に戻らなくて焦った時期もありました。今日も去年の3割程度のプレーしかできてません。関大戦ではもっと出られるように頑張ります」と話した。

今シーズン初めてフィールドに立った関学DLトゥローターショーン礼。相手OLをものともしなかった

DB中野遼司「去年の自分を超えたいと思ってました」

18点を追う立命は後半、是が非でも先にTDを奪いたいところ。最初のシリーズで敵陣に入ったところでギャンブルしたが、ランに出たQB竹田は、ブロッカーを処理してから足元に飛び込んできた関学DB山村翔馬(4年、足立学園)のタックルに倒され、2ydを取れなかった。山村は左腕を掲げてガッツポーズした。この日は体を張り続け、7.5タックルの活躍だった。読みの鋭さを誇るLB永井励(3年、関西大倉)は、その山村を上回る8.5タックルでチームトップだった。

関学が3点を加えたが、立命はQB竹田からWR大野へのパスがさえてTD。第3Q終盤で24-10となった。立命サイドの観客席は大いに沸いた。だが第4Q2分すぎ、QB竹田のパスがまたも関学DB中野に奪われた。しかもエンドゾーンまで走りきってTD。これで決まった。中野は昨年の関大戦でインターセプトリターンTDを決めて名前を売り、この日で今シーズンは6インターセプト。「去年の自分を超えたいと思ってやってきました。2本目のインターセプトはわざとQBにフリーに見せて、狙ってました。いままでたまたま自分に飛んできたようなのが多かったんですけど、今日はレシーバーの前に入るインターセプトができてよかった。試合中は山村さんが隣にいるから落ち着いてできてます」と語った。

この日8.5タックルの関学LB永井(45番)と8タックル、2インターセプトのDB中野(25番)
1試合を通じてまっすぐに体をぶつけ続けた関学DB山村

立命のエースRB山嵜はこの日、前節までの背番号22から18に変更して臨んだ。母校・大産大附高のエースが代々つけ、自身も高校時代につけた番号だ。そして関学戦に向けた練習で大けがを負って出場できなくなった高校、大学の先輩である副将LB藤本凱風(がいぜ)の「凱」の字を左腕に書いていた。朝4時からトレーニングをした時期もあったこの1年のすべてをぶつけるはずの関学戦はファンブルロストで始まり、一つもTDを決められなかった。試合後のチームミーティングが終わるとQB竹田、昨年のエースQBで今シーズンはバックアップに回った庭山大空(4年、立命館宇治)と3人で、誰もいないフィールドを見つめていた。山嵜は何度も「俺のせいや。ファーストプレーで決まった」と言った。竹田はずっと泣いていた。庭山は二人に「この景色、覚えときや」と言った。

試合後、立命の山下主将はエースRB山嵜のところへ行き、声をかけていた
関学の海﨑琢主将(右)は試合後の片付けの途中、欠場した立命の藤本に語りかけた

春は敗れた関大戦「やり返す」

関西学院大・大村和輝監督の話
「オフェンスは課題のレッドゾーンとショートヤードを取れたのが大きい。向こうがランのブロッキングを変えてきたので、前半はやられたけど3点でよう粘った。後半はアジャストしてうまくいった。星野は鎌田が後にいるからあまり意気込まず、自分らしくできたと思う。DBはいいタックルもあったけど、やったらあかんミスで抜かれてる。そういうのは腹立ちますね。ショーンは前半のしんどいときだけ使うと決めてました。ショーンが抜けても勝負どころで粘れてたからナイスディフェンスですよ。ターンオーバーがなくて反則も少なかった。だいぶいい試合ができた。関大には春にやられてるんで、やり返す。今日よりいい試合がしたいですね」

試合終了の瞬間。今年も笑ったのは関学だった

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