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上智大QB稲葉祥生 大学で競技復帰、無い無い尽くしの逆境に燃えジャイキリの初勝利

得意なプレーは「ショートの正確なパス」。小柄だが「アメフトを知っている」プレーぶりだ(すべて撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関東学生BIG8は、一次リーグを終えて二次リーグに入った。11月5日に下位リーグにあたるチャレンジリーグの初戦があり、明治学院大学と上智大学が対戦。ここまで4戦して勝ち星がなかった上智は、エースQBを務める稲葉祥生(しょうい、南山)ら1年生の活躍が光り、14-11で明治学院を破って殊勲の初勝利を挙げた。

全敗の上智が殊勲の番狂わせ

アメリカンフットボールの試合では、まれにこういった番狂わせに遭遇することがある。上智が明学大に打ち勝ったことは、“ジャイアントキリング”と言ってもいい出来事だった。

守備のナイスプレーに対して感情を爆発させる。この日は稲葉のこの表情がたくさん見られた

明学大は1次リーグで2敗。そのためチャレンジリーグへの出場となったものの、BIG8随一の戦力を誇る強者。対して上智は選手数が明学のほぼ半分で、スポーツ推薦もなく、競技経験者が限られるチーム。当然、平日の練習を見てくれるフルタイムのコーチもいない。

現実に、上智はここまで全敗で、駒澤大学や国士舘大学には徹底して痛めつけられ完封負け。攻撃が取ったタッチダウンも、初戦の横浜国立大学戦で挙げた1本のみ。事前の見立てでは明学大が圧倒的に有利だった。

実際、明学大の立ち上がりは上々だった。最初のシリーズ、ランとパスで順調にゲインを重ね、ドライブを進めた。開始から5プレーでTDを決め、2点コンバージョンも成功させた。「ああ、明学の大勝か……」。しかし、この読みは外れていく。

攻撃で光った1年生 上級生は反撃断ち切る

ここまで得点不足にあえいできた上智の攻撃を、QB稲葉が冷静に進めていく。ランではオプションプレーを操り、要所でミドルパスを効率よく決めて明学守備陣を翻弄(ほんろう)する。第1クオーター(Q)から第2Qにかけて、17プレーを費やし約10分のドライブを完遂、最後は中畝晴登(1年、自由学園)にTDパスを決めた。

自由学園アメフト部創部メンバーの中畝は、QB経験もあるが、上智ではWRとして稲葉のパスを受ける

つづく明学大の攻撃を、LBの青田悠志(4年、東京学芸大付属国際)がインターセプトで断ち切り、今度はRB米永圭佑(1年、小石川中等教育)が30ydの独走TDを挙げる。守備がつかんだチャンスに攻撃が応え、14-8と逆転。上智がリードを奪った。

ルーキーRB米永が30ydを独走し、2本目のTDラン。これが決勝点に

第3Qは双方無得点。上智は第4Q、明学大にロングドライブを許したが、FGの3点に抑えて14-11とリードは維持した。FGを失敗し、残り1分30秒で明学大に攻撃権を渡したが、逆転を狙った明学のパスを小林吏希(3年、狭山ヶ丘)がインターセプトし、試合を決めた。

格上への気後れ 打ち消したマネジメント力

「明学は明らかに格上の相手で、正直なところ『マジか』っていうのは、みんなあったと思います」。チャレンジリーグの初戦。QBの稲葉は、チーム内に明学大に対する気後れがなかったとは言えないと明かす。

しかし、試合に入ると徐々に自信をつかんでいく。「OL(オフェンスライン)はしっかり押してくれててランが出てましたし、フレッシュ(ファーストダウン獲得)もトントンと取れて、練習の成果を感じられました」

OL陣が明学大守備相手に奮闘し、攻撃を支えた

第2Qのはじめに中畝に通したTDパスは、「決めプレー」として自信を持っていたもの。開幕の横国大戦以来、今シーズン二つ目のこのTDは、若いQBに自信をもたらした。

試合を通し、稲葉は落ち着いたプレーで攻撃をまとめ上げた。小柄で、派手な武器を持つ選手ではないが、限られた戦力を最大限に生かす見事なマネジメント力を発揮。物おじせず、多くの人の期待を良い意味で裏切る結果を出した。

1年生ながら、まさに「アメフトを知っている」という表現がふさわしいプレーぶりだった。

中学からQBで活躍も、コロナ禍で退部

「『お前、来いよ!』って、アツい先輩方に声をかけてもらったんです」

南山中学・高校のアメフト部クルセイダーズの熱狂的な雰囲気にひかれて、中学入学と同時にアメフトを始めた。ポジションはずっとQB。中3の冬には、甲子園ボウルの前座試合に組まれた、関西地区の中学校代表決定戦にも出場した。

正確なパスに加え、オプションプレーも器用にこなす。これは南山中時代の経験が大きいという

高校に上がってからもアメフトを続けたが、高1の冬に新型コロナウイルスが流行し、部活が制限された。親から勉強に注力するよう言われたこともあって、アメフト部は退部した。大学でアメフトを再開することを目指し、第一志望を京都大学に設定して勉強に励むことにした。

「中学のときから立命館や関西学院、啓明学院といったエリート相手に戦ってきたので、大学でもスポーツ推薦をとってないチームでやりたかったんです。京大に入って、関学や立命と戦うことを目指していました。とにかく、大学でアメフトをまたやりたいって気持ちが大きかったです」。稲葉は振り返る。

高3の春、元チームメートの金星に発奮

高校3年生の春、衝撃的な出来事があった。南山が、関西大会の初戦で関学高を13-7で破ったのだ。南山としても、東海地区のチームとしても、関学高に勝つのは初。部活を続けていれば、稲葉もこの輪の中にいるはずだった。

南山高が5度目の挑戦で関学下す エースが躍動、就任21年目の監督の戦術もさえた

「正直、やめたのが本当に悔しくって。続けてればよかったなって、ずっと後悔していました」。この時の気持ちを、稲葉は正直に打ち明ける。だからこそ、より一層大学で挑戦する気持ちが募った。

1年の浪人生活を経て、京大には届かなかったが上智に合格した。上智には付属校がなく、前述のようにスポーツ推薦もない。グラウンドも、人工芝が普通となった今では珍しい土で、攻撃の戦術を組み立てるコーディネーター役のコーチもいない。まさに無い無い尽くし。逆境としてはこれ以上ない、稲葉が望んでいた環境だ。

「TOP8と戦えるチームになりたい」

QBは稲葉のほかに4年生の佐藤颯立(三田)がいるが、稲葉がずっと試合に出ている。佐藤はほとんど試合に出ず、コーディネーター役を務めて稲葉を下支えしている。

「4年生が話し合って、QBは僕でいくということになりました。僕が出ていることで佐藤さんが出る機会が少なくなるので、申し訳ない気持ちもあります。でもその分、自分が活躍してチームを勝たせられたらと思ってやってます」

コーディネーター役を務める先輩QBの副将佐藤(右)。「佐藤さんとは練習時からしっかりコミュニケーションが取れています」

入部からは、まだ半年と少し。上智大ゴールデンイーグルスの印象について尋ねると、「4年生が引っ張ってくれてるとても良いチームです」と返ってきた。そして、力をこめてこう続けた。「本当に学生たちが主体的にやってるチームで、強いチームみたいにフルタイムコーチもいない。上位に比べると環境の厳しさはあります。でも、こんなにまとまりが良いチームは上智しかないと思います。注目してもらえたらうれしいです」

この試合では、攻守でそれぞれ3人ずつの1年生が先発に名を連ねた。ランプレーに至っては、記録を残した5人の選手全員が1年生だった。厳しい環境ながら1年生がこれだけ活躍し、上位チームにも打ち勝つ。確かにこんなチームは他にはないかもしれない。上智の大きな魅力だろう。

若きエースは言う。「僕たちが3年、4年になるころには、BIG8の上位チームとして、TOP8との入れ替え戦でも戦えるようなチームになっていたいです」。彼らのチャレンジを見ていきたいと思う。

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