廣瀬俊朗氏・山田章仁氏 慶應義塾大学のレジェンドOBが語る100回目の早慶戦
11月23日に100回目のラグビー早慶戦が行われる。伝統の一戦の節目となる試合を前に、慶應義塾大学の「レジェンドOB」であるラグビー元日本代表の廣瀬俊朗氏(42)と山田章仁氏(38)に、大学4年間で得たものや早慶戦への思いを語ってもらった。
慶應蹴球部で「いろいろな人がいる」こと学んだ
廣瀬俊朗氏は、慶應義塾大蹴球部(ラグビー部)で第104代の主将を務め、東芝ブレイブルーパス(東芝ブレイブルーパス東京)に入社後、日本代表の主将も経験。34歳で現役を引退し、現在は株式会社HiRAKUの代表取締役を務めながら、スポーツに限らず様々なプロジェクトに取り組んでいる。
そんな廣瀬氏が慶應義塾大蹴球部で学んだことの一つに「いろいろな人がいる」ことがある。ラグビー強豪校の中にはストイックにラグビーをしてきた人だけが集まっている大学もあるが、慶應義塾大には幼稚舎出身をはじめとする内部進学生、地方から上京した学生、特技を生かして推薦入試で入学した学生など、多様な学生が集まっている。その点で、慶應義塾大での4年間は魅力的だったという。
「みんなに光るものがあって面白い。同期も先輩もOBも皆そうだし、『いろいろな人がいる』というのが、一つ学べたこと」
それはラグビーにも生かされた。「自分の良さをどうチームに生かしていこうかという考えが成立する」ラグビーは、ポジションが15個もある。「One for all, All for one」の精神が信条だ。チームスポーツの一番の魅力は、一人ひとりが長所をかけ合わせて、一人では達成できないことを達成すること。チームに貢献できることを考え、与えられた役割を果たすことが成功につながるスポーツだ。
「一人でやっているときより喜びも大きい。みんなで喜べるってすごく素敵なことだなと」
チームで一つの目標を持ち、おのおのが貢献できる場所で励み、皆でチームを築き上げた日々は、かけがえのない財産となるに違いない。
大学4年間で「人に頼れるようになった」
山田章仁氏は、慶應義塾大4年時に大学選手権準優勝に貢献した。日本代表では2015年ワールドカップで日本の快進撃を支えた。トップリーグで長く活躍し、現在は九州電力キューデンヴォルテクスに所属する。
ラグビーエリートであることは間違いないが、決してラグビーだけをしてきたのではない。「いろいろな価値観を持った人に出会いたかった」と、グローバルに多様な学生と交流して自分の価値観を広げることを軸に進学先を決めてきた。慶應義塾大では、ファ―ストステップとして英語を勉強するため、2年の夏からオーストラリアへ留学。世界レベルのラグビーも同時に学び、「ラグビーの仲間も得ながら、自分の価値観を広げることができた素晴らしい4年間だった」と振り返る。
大学4年間を通して「人に頼れるようになったことが一番の成長」と山田氏。それまで、人生では多くの困難や壁を自分の力で乗り越えていかなければならないと思いがちだったが、「志の高い仲間、頼りになるみんながいたからこそ、頼れるようになった」という。
一人で抱え込むのではなく、人に頼るところは人に頼る。「お互いに助け合って、一つのボールを追いかける、一つのトライに向かってみんなで走れることがラグビーの魅力」。山田氏はチームとして一つの目標を達成する喜びを学んだ。
大学選手権優勝校だけが「日本一」ではない
慶應義塾大は大学王者の座から23年間遠ざかっている。2009年から17年まで帝京大が9連覇を果たすなど、新興校の躍進も目覚ましい。日本ラグビーのルーツ校として、伝統校として悔しい部分ではあるが、大学選手権優勝校だけが「日本一」ではないと、2人は考える。
「慶應のラグビーが『日本一』と言えるところがたくさんある。強い集団であること、志が高い人間が集まっていること、すごく細かなところにも気が配れること。そういう学生が日本一多く集まっている、それは伝統的に慶應のラグビー部が『日本一』と誇れるところ」
こう語ったのは山田氏。もちろん、大学選手権優勝校も文句なしの日本一だ。しかし、それだけではない。慶應義塾大は日本のラグビーのルーツ校として、ただ試合に勝つだけのチームにとどまらず、多くの方々に応援されるチームとしてラグビーの魅力を発信し、その伝統と文化を後世に伝え続けてきた。その伝統と文化に引かれて慶應義塾大に進学する者も多いし、新興校も伝統校の慶應義塾大に「追いつけ追い越せ」の精神でやってきた。
今年は地域貢献の取り組みや小学校でのタグラグビー教室開催など、先駆者として応援されるチームを目指してきた。多くの方々から「ありがとう」をもらってきたのだ。
大学を背負った誇り高い試合「歴史が違う」
2010年を最後に慶應義塾大は早稲田大学に勝てていない。12戦中の8戦が7点差以内だ(うち1戦は引き分け)。ノーサイドまで何が起きるかは神のみぞ知るところ。それこそが、「華の早慶戦」である。
廣瀬氏は早慶戦について「他と同じ80分の試合でも、大学の名を背負って戦える、やりがいのある戦い」と語った。
「歴史がやっぱり違う。いろいろな思いをした人たちや、それを楽しみにしている人がたくさんいる中で自分たちが試合をできる。相手も同じような思いを持って挑んできてくれる。すごく誇り高い試合ですね」
廣瀬氏は主将として早慶戦を戦った経験がある。早慶戦は「今この瞬間こそが楽しい、というかぜいたくな時間。それを思いながら楽しんでほしい」と、後輩にエールを送った。
人生で一番、自分らしさを表現できる80分
山田氏は早大には「強いイメージしかない」と思い、早慶戦にしか宿らない不思議な力が湧いてくる、両者のプライドを懸けた戦いだと考える。
「人それぞれに自分らしさがある。人生で一番、自分らしさを表現できる80分」
フィールド上の選手だけではなく、試合に出ていない選手、監督やコーチ、スタッフ、そして選手たちを支える全ての関係者にとっても、それは同じだ。慶應義塾大蹴球部の選手で卒業後もラグビーを続ける選手は年に数人程度だ。彼らは皆、「より高いレベルでラグビーがしたい」という思いだけではなく、「慶應義塾大蹴球部でラグビーがしたい」という志を持って蹴球部の門をたたいてくるのだろう。
「今後の人生に向けて『俺はこういう人間なんだ』という自分らしさを再確認できる。自分はこういう人間になりたいんだと思える80分。それも、早稲田を前にして」
大学の4年間は、社会人になる前の最後の貴重な4年間。山田氏はこの4年間を「思いっきり自分たちのやりたいことをやれる。失敗できるのも大学スポーツの良さですね」と語る。良くも悪くも周りの目を気にせずにいられる4年間、たくさん挑戦することで、思ったよりも良いものができたり、新たな発見ができたりするのだ。
来たる100回目の早慶戦。2人のレジェンドもこの試合、大学スポーツ、そして全ての大学生を応援している。