アメフト

近畿大QB小林洋也 「僕が近大を変える」勝ち方を知るルーキー、未来への決意表明

強肩でも俊足でもないが、バランスがよく器用なプレーぶりが光る(撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関西学生1部リーグは11月12日に第6節があり、近畿大学と龍谷大学が対戦した。ここまでともに白星がなく、最終節に向けてなんとしても勝ち星を挙げたい両チームが、白熱した試合を展開。前半は7-7の同点だったが、第3クオーター(Q)に2本のタッチダウン(TD)を決めた近大が初勝利を挙げた。近大は途中から出場した1年生QBの小林洋也(ひろや、大産大付)が安定して攻撃を指揮。しかし試合後の小林の表情は一切ゆるまず、見据える目標の高さがうかがえた。

交代出場の小林が好プレーで初白星に貢献

試合が動いたのは第2Qの3分過ぎ。近大がRB島田隼輔(3年、近大付)のランで先制。その後、前半終了間際に龍谷がTDを返し、7-7の同点で前半は終わった。

ルーキーQB小林洋也は交代で登場し、安定感あるプレーぶりで初勝利に貢献した(撮影・北川直樹)

第3Qに入ると、後半最初から交代出場した近大のQB小林が走投を織り交ぜてドライブを進め、WR坂本壮梧(3年、関大北陽)に25ydのポストパターンを決めて敵陣深くへ。オプションからRB樋口瑞歩(4年、大産大付)にボールをピッチし、TD。リードを広げる。さらに近大はパントリターンでWR川向拓哉(3年、大産大付)が33yd戻し、再びゴール前の好機をつかむと、島田が左サイドのゾーンプレーでボールを押し込みTDを追加。21-7とした。

小林がWR坂本にミドルパスを通してゴール前へ(撮影・北川直樹)

龍谷が第4QはじめにTDランを決めてTD1本差に迫ったが、近大がRB清水悠太(3年、近大付)と小林のランで時間を使い切り、エンドゾーン前までボールを進めてタイムアップとなった。近大はランニングゲームで優位に立ち、タイムコントロールで龍谷を上回った。また、先発QBの勝見朋征(3年、近大付)と交代で起用されたルーキー小林がパスを9回中8回成功させ、70ydを稼ぐ安定感。近大の今季初勝利に貢献した。

「スタートラインにも立てていない」

「チームで『日本一』っていう目標を立ててますが、全員がその目標に向かえてるかどうかは、わからない。今日の勝ちは、目指しているものに対してスタートラインにも立てていないというのが、正直な気持ちです」。試合後、小林に初勝利の感想を聞きに行くと、厳しい言葉が返ってきた。

1年生とは思えない存在感がある。この日も小林は、2学年上の勝見につづいて登場。得意のショート、ミドルパスを投げ込み、オプションから走り、要所でゲインを重ねた。良いプレーがあっても、決して気を緩ませず、常に引き締まった表情をしている。試合経験を積むごとに、成長速度は増しているように感じられる。

春からずっと試合には出ているが、スタメンを任されるのは先輩の勝見だ。「練習から立場をキープされていると感じています。体格も、僕はまだ劣ってるかなと」。決して自分を過信しない物言いも良い。

ランで60yd、パスで70ydを稼ぎ出した(撮影・北川直樹)

リーグ戦の序盤で当たった上位チームに比べると、終盤戦はOL(オフェンスライン)が当たり勝てる場面が増えて、ランプレーが出るようになってきた。「長いパスでパーンと進むと、『運がよかった』と言われることもあるんで。今日はOLで勝ってボールを進められたのはよかったです。その方が、オフェンス全体としても乗っていけますし」。小林は、ボールコントロールが向上することで、余裕を持ってプレーすることができたと振り返る。

この試合で印象に残ったプレーについて聞いた。良いパスを決めていたので、そのプレーのことを話すかと思いきや、自分の判断ミスについての反省が口をついた。第4Q残り1分20秒、敵陣39yd地点で3rdダウン8yd。島田の胸に入れたボールを抜き、小林が走ったプレーだ。

「あれね、1stダウンを取った上で、インバウンズでダウンしないとダメな状況やったんです。ほんで時計を回しながら、次のプレーの準備をしてっていう。けど、ゴールラインが見えとったんで、『行ったろう』思って、情で動いてしまったんです。7点差なんで、ハードヒット食らってボール押さえられたら、最悪の場合は同点、逆転という可能性もあったんで。あそこで自分の悪いところが見えました」。このプレーについては、反省しかないと小林は言う。

ゴールラインが見えて走ることに夢中になってしまい、アウトオブバウンズに押し出されて時計を止めてしまった(撮影・北川直樹)

良い収穫はあったかと聞くと、「ランで進んでいけたというのはよかったですが、ロングパスで攻めていこうという課題がある中で、そういうシーンはあまりなかったですね。僕本来のプレーっていうのは全然出せてないです。悔しいですね」とストイックな回答が返ってきた。こんな言葉がパスを9回中8回成功させた1年生から出てくるのだから、頼もしい。

京都大の試合を見て「カッコよさ」に衝撃

京都市の出身。京都大学農学部グラウンドの近くで育った。柔道整復師として整骨院を営む父・千洋(ちひろ)さんが、京大ギャングスターズでトレーナーをしていて、アメフトが身近にあった。

「ちっちゃい頃、京大の試合を見に行って『なんだこのカッコいいスポーツは!』って衝撃を受けたんです。そのときね、小原(祐也、2015年卒 )さんっていう19番のQBがいてね。20-2で立命に勝って、めちゃくちゃカッコよかったんですよ」。小原さんにはキャッチボールもしてもらって、いつか同じようにフットボールがしたいと思ったという。今からちょうど10年前、2013年の話だ。「京都リトルギャングスターズ」でフラッグフットボールを始めた。ポジションはもちろんQB。中学に通うようになってからは、「京都リトルベアーズ」でWRとDBをやった。

アメフト部がある大阪の高校に、進学がほぼ決まっていた。そんな中3の12月、大産大付属高校から体験練習の声が掛かった。練習に行くと、練習のアツい雰囲気にのみ込まれた。「あのとき、このチームがいい、ここしかないって思いました」。進学先を大産大付高に変更した。

ミスした結果QBにコンバート「そういう運命」

高1の秋に、小林の運命を決める出来事があった。当時WRをしていた小林は、練習でチャンスをつかむ。「小林、入ってみろ」と山嵜隆夫監督に言われた。秋シーズンの大事な時期に、オフェンス中心のスクリメージ練習で、1本だけ出場のチャンスがもらえたのだ。

「ずっと一生懸命練習してきて、そこで使ってもらえることになったんです。僕に飛んでくるパスプレーでした」。このプレーで、小林は自分の正面に飛んできたボールを落としてしまう。「チャンスをモノにせん男やな、お前は」。勝負師で知られる山嵜監督は、小林への期待の裏返しであえて厳しい言葉をかけたのだろう。このミスで小林のWRとしての出番は無くなった。

数々の名選手を育て上げた大産大付高の山嵜孝夫監督は、今年で定年を迎える(撮影・北川直樹)

翌年、エースQBの藤津凛人(日本大)の卒業に伴い、1学年上の代はDBをしていた竹田剛(立命館大)が、小林の代は小林がQBをすることになった。「当初は小段(天響、関西学院大)がQBをするって話もあったんですが、アイツは走るのが速くてパスを捕るのも上手なので。僕が立候補して、QBをすることになりました」

中学のリトルベアーズでは、大村徹兵(明治大、箕面自由学園)がチームメートにいて、大村がQBをしていた。

「僕はずっとQBがしたかったんですけど、アイツの方が上手だったからできなかったんです。だからこれはチャンスだって思いもありました。でも、あのスクリメージでパスをキャッチしてたら、まだWRかもしれないですね。まあ、そういう運命やったんでしょう」。小林が笑う。

大産大付高の1学年先輩にあたる竹田剛は、今年から立命でエースQBとなった(撮影・北川直樹)
大阪産大附高のRB山嵜大央、立命館大学へ持ち越した宿敵打倒の夢

2学年上の代は、エースRB山嵜大央(立命大)を中心としたランのチームだったが、翌年は野球部出身の竹田がエースQBになって、パスの比重が増えた。

「大央さんがいなくなったあと、竹田さんの肩の強さを生かして、パスをポンポン決めていくオフェンスになった。そこで道を開いてくれたから、僕もパスを決められるQBになれたんです」。思いの強さからか、小林の声が大きくなる。

大産大付高では進学先を早い時期に決めるため、その時点で声をかけてくれていた近大に進学を決めた。高校3年の秋には関西大会で優勝。大産大付高は11年ぶりにクリスマスボウルに出場し、佼成学園に27-30の僅差(きんさ)で敗れた。

憧れるのは、自分で打開できるQB

QBとして好きな選手を聞くと、少し考え、「関西大学の須田啓太(関大一)さんです」と答えが返ってきた。試合が前後で重なった時に「こんにちは!」とあいさつをしに行って、アドバイスをしてもらった。

「須田さんはプレッシャーがかかっても、逃げて、逃げて、最後に自分でどうにかするところが好きですね」。1年から試合に出ている点、QBとしては比較的小柄な点も須田とは共通している。

試合が前後した際、関大の須田啓太に挨拶しアドバイスをもらった(撮影・篠原大輔)
関西大学のルーキーQB須田啓太、ランもパスも自信を持ってオフェンスに勢いを
京都大学の泉岳斗 本場仕込みのオールラウンダー「早く日本で一番のQBに」

「あと、一番大好きなのが京大の泉(岳斗、4年、都立西)さんです。京大はほんまにあの人のチームなんで。あの人が全部、頭使って作り上げてると思うんです。結局自分で走って、突破して持っていくじゃないですか。めっちゃカッコいいです。まだ話したことはないんですけどね(笑)」

泉は京大の主将として、名実ともにチームをつくりあげている立場。小林の話を聞いていると、リーダーシップに対する憧れも大きいのだろう。泉の卒業前に、ぜひとも話しに行ってほしいと思う。

「言った以上、自分が一番やらないとダメ」

11年ぶりに出場したクリスマスボウルでは佼成学園に惜敗(撮影・北川直樹)

大産大付高は勝つのが当たり前のチームだったのに対し、近大はようやく1勝をつかんだチーム。置かれている状況は高校のときとは大きく違う。小林は今、チーム状況についてどう考えているのか。

「本当に練習の効率が悪くて、みんなの言ってることもむちゃくちゃで。『ん?』て思うこともいっぱいあるんですけど。そこも僕が変えていけたらいいんですが、まだ僕自身がそこまでできるレベルにはないと思ってるんです」。1年としてはアグレッシブな考えが、言葉になって出てくる。

「誰にも何も言われないくらいに頑張ってからだと思うんで。まだまだ僕にも非があるんで、そこを完璧にしたら変わっていくと思うんです。やっぱ、僕次第ですね」。批判の矢印が、しっかりと自分の方向にも向いている。

今シーズンも、残すは1試合。近大は第5節で甲南大学相手に引き分けたため、最終節の神戸大学に勝つことが自力での1部残留に向けて大事になる。神戸大は第6節で甲南相手に42-0で大勝している難敵だ。

「神戸が強いのはわかってるんで、もちろん勝つための準備をしていきます。試合までの2週間っていうのは、短いようで意外と時間があって、色々修正もできるんです。個々の力は負けていないと思ってるんで、ブロックの仕方だったり、意識だったりで大分変わると思ってます。そのために、僕がちょっとでも何か変化をつくっていけたら。近大は純粋なチームなんで、少しでも気づきを与えていきたいです」

初勝利後のサイドライン。小林はまっすぐ観客席を見つめ、決して笑顔を見せなかった(撮影・北川直樹)

「僕のチーム」「僕が近大を変える」。この秋に話を聞くたび、小林はずっとこう言い続けていた。ルーキーとは思えない視座の高さだが、その言葉の向こう側にある気持ちを問うと、こう返ってきた。

「僕の意志ですね。言った以上、自分が一番やらないとダメなんで。そういう意味では決意表明になっていいと思っています」。そう言い聞かせるように話した。

「他の大学にいる産大高校の連中はみんな大好きですが、絶対に負けたくないです。まだ試合に出てきてない子たちもいるけど、これからみんな輝くと思ってます。この前も関大の東(駿宏)にタックルされて、『クソー!』ってなって。そういうのがグラウンド内でめっちゃ楽しいですね」

「好き」ということばをよく使うのは、生来の「人好き」だからだろう。小林は、大好きな人たちとフットボールを楽しむため、近大を勝つチームに変えるために挑戦し続ける。その目線は、まっすぐに前を向いている。

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