アメフト

大阪大学トライデンツが関西2部で唯一の全勝キープ、京大・神戸大に負けてられるか

同志社大に逆転勝ちし、大阪大トライデンツに歓喜の瞬間が訪れた(すべて撮影・篠原大輔)

アメリカンフットボールの関西学生2部は第6節を終え、大阪大学トライデンツが6戦全勝で単独トップに立ち、桃山学院大学と大阪公立大学が5勝1敗、同志社大学が4勝2敗となった。1部との入れ替え戦出場は上位2校。最終節の12月2日に阪大と桃山、3日に大公と同志社がぶつかる。阪大は飛び抜けた選手はいないが、ディフェンスが踏ん張ってロースコアの争いに持ち込み、オフェンスとキッキングチームが勝負強さを発揮して勝ってきた。1985年以来の入れ替え戦勝利、1部昇格を狙う。

同志社有利の予想をひっくり返した前節

第5節の大阪公立大戦は14-14の残り31秒、敵陣31ydからの第4ダウン14ydでギャンブル。ここで大公大が痛恨のオフサイド。前進した阪大はFG(フィールドゴール)に切り替え、中原颯太(2年、三国丘)が43ydを蹴り込んだ。

そして迎えた第6節。京都府亀岡市にあるサンガスタジアムのきれいな天然芝の上で、阪大は大方の同志社有利という予想をひっくり返した。

7-10で迎えた後半、阪大は2度目のオフェンスでパントに追い込まれたが、同志社に反則があってラッキーな攻撃権更新。第4ダウン残り1ydはRB吉川幸緒(3年、一条)のランで乗り越え、敵陣37ydからの第2ダウン残り7ydでパス。QB髙田翔永(4年、豊中)が左へのヒッチスクリーン。捕ったWR朝木陽生(3年、豊中)が味方のナイスブロックで抜け出し、エンドゾーンへ駆け込んだ。逆転のTD(タッチダウン)で14-10となった。

WR朝木陽生は同志社大のタックルを外し、エンドゾーンまで駆け込んだ

続くキックオフで阪大は右へ浅く転がすオンサイドキック。この仕掛けがはまり、続けて攻撃権を得た。第4ダウン残り1ydをランでクリアし、QB髙田が前半にTDを挙げていたTE坂和一輝(2年、北野)へのパスを通してゴール前へ。連続TDとはいかなかったが、第4クオーター1分33秒、駒村雄太(2年、鎌倉学園)が28ydのFGを決めて17-10とした。

次の同志社オフェンス。敵陣に入ってゴール前31ydからの第4ダウン残り8yd。ギャンブルに出て、QB佐々木康成(3年、追手門学院)の投げたショートパスは阪大の主将LB名倉宙(ひろ、4年、福岡・八幡)の胸へ。このインターセプトで、サンガスタジアムは一気に阪大のアップセットモードになった。

残り時間は6分13秒。阪大は次のオフェンスで追加点こそならなかったが、4分55秒もの時間を使った。同志社のラストオフェンスは残り1分18秒、自陣10ydから。パスを決め、阪大の反則もあって、残り2秒でゴール前36ydまで来た。最後はヘイルメアリーだ。エンドゾーンに長身のWR加賀東雅と平船新大(ともに4年、同志社国際)を送り込み、QB佐々木が願いを込めたロングパス。競り合って崩れながら平船がキャッチし、TDかと思われたが、確保したのはエンドゾーン外で試合終了。阪大の歓喜と同志社の落胆。サンガスタジアムは両チームをくっきりと染め分けた。

阪大のエースQB髙田翔永は同志社戦で勝負どころでパスを決めた

主将の名倉宙「夏合宿で一体感が高まった」

阪大副将の村岡稜太(4年、高槻)は数少ないアメフト経験者の一人だ。OLのセンターとしてオフェンスを引っ張る。春に開かれたXリーグ・エレコム神戸ファイニーズ主催のクリニックで、Xリーグの選手との1対1の勝負に真っ先に名乗りをあげた積極性と度胸の持ち主だ。「去年の龍谷戦で残り何秒かで逆転負けしてたので、最後はそれを思い出しました。でもこのチームで1年やってきたことを信じて、絶対に止めてくれると思った」と、ホッとした笑顔を見せた。

開幕のころはあまり手応えを感じていなかったそうだが、「シーズンに入って一人ひとりが成長した。連携がとれてチームワークが徐々にできていったと思います」と村岡。最終節に向けては「勢いに乗ってますけど、もう一回締め直して、必ず勝って単独優勝したいです」と語った。

主将のLB名倉も「フィールド上で去年の龍谷戦がよぎりました」と苦笑い。出身校の欄に「八幡」とだけあったので聞いてみると、「北九州の八幡製鉄所の八幡です」と返した。北九州市八幡東区にある県立八幡高校では「帰宅部」だった。勉強にかけたんですか? と尋ねると、「はい」と言った。阪大に合格してアメフトかラクロスを始めようと思い、先にアメフト部の新歓イベントに参加した。「先輩たちがめっちゃアツくて、もうここに決めました」。新型コロナウイルス感染拡大の真っただ中だったが、先輩たちはオンラインでのミーティングを開いてくれたり、公園で体を動かしたりして関わりを持ち続けてくれた。「だから4年間アツい思いを持ち続けられたと思います」と名倉。

ディフェンス陣の踏ん張りがトライデンツの躍進を支えている

名倉は3年までLBとしては試合に出られなかった。それでも学生ラストイヤーはチームを引っ張りたいと、主将に手を挙げた。「去年まで出てなかったけど、毎日の練習で誰よりもやりきるとみんなに誓いました。最後は4年の仲間たちから『任せたぞ』と言ってもらえた」。名倉は信念の男だ。チームに一体感が出始めたのは福井県おおい町での夏合宿だった。「それまでは下級生の思いをくみ取るのが難しかった。でも夏合宿で腹を割って話せるようになった。一体感をつくる上で、あれは大きかった」

単独Vを果たし、38年ぶりの入れ替え戦勝利へ

同じ国立で学力レベルも似た京大と神戸大は光の当たる1部リーグに定着している。なかなか2部からはい上がれないトライデンツのメンバーには、この2校との差が常に心にある。「それは部員全員がめちゃくちゃ悔しいと思ってるはずです。とくに高校からの経験者は昔のチームメイトが1部で活躍してたりする。京大、神大に負けていられないという気持ちは強いです」と名倉。

いま、その両校と同じステージに立つチャンスが巡ってきている。同志社に勝って6戦全勝とし、阪大の2部優勝は決まった。最終節の桃山学院大戦に勝てば単独優勝で1部8位チームとの入れ替え戦に臨める。昨年は2位で阪大、大公大、桃山学院大の3校が並び、抽選で大公大が「2位相当」を引き当て、入れ替え戦に進んだ。阪大のシーズンはそこで終わった。名倉は言う。「去年のことがあるので、最終戦も勝って自分たちの手で入れ替え戦出場をたぐり寄せたいです」

阪大が1部リーグで戦ったのは1972~76年と86年。前回入れ替え戦に勝ったのが1985年、阪神タイガースが日本一になった年だ。阪神は今年、その年以来となる日本一になった。タイガースに続き、同じ38年ぶりに入れ替え戦勝利まで突き進めるか。スーパースターは誰もいない。ただ一体感ではどこにも負けない。トライデンツの挑戦は続く。

阪大主将の名倉宙(44番)と副将の村岡稜太(73番)。ここからがリーダーとしての正念場でもある

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