神戸大学・安達吏唯 「帰宅部」だった高校時代から34kg増、最後まで示すぞOL魂
アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は11月25、26日に最終節を迎える。神戸大学レイバンズは開幕戦の立命館大学戦で格上の相手を苦しめながら、突き放されて敗戦。関西学院大学、関西大学にも同じ展開で敗れ、京都大学には1点差で負けた。悔しい開幕4連敗を経験したあとは快勝が続く。オフェンスの最前線で奮闘するOLリーダーは、高校時代に「帰宅部」だった安達吏唯(りゆい、4年、智辯和歌山)だ。
1日に白米5合をノルマに
11月11日の甲南大学戦でも神戸大の64番は身長173cm、体重102kgの体で、右のG(ガード)として自分より大きなDL相手に奮闘していた。パスプロテクションのとき最初のヒットでは負けても、そこからしつこく食らいつき、QBを守った。ランブロックでは鋭くスタートし、当たってから足をかき続けた。42-0で勝った試合後、安達は「うれしいんですけど、やっぱり最初の4試合で全部負けたんで……。上位校のDLはしっかり手を使って仕掛けてくるし、LBはプレースピードがあって、一発でタックルしきる能力が高いと思いました」と話した。
レイバンズのイヤーブックで面白いのが、選手の身長体重の欄に入学時の体重も書いてあるところだ。安達は68kg。そこから毎日5合の白米を食べて102kgまで大きくなった。「5合の炊飯器を買って、毎日それが空になるまで食べ続けました。ずっとお米を送ってくれた親には感謝しかないです」と笑う。
大阪府貝塚市で生まれ育った。中学入試で第一志望の智辯和歌山に合格。自宅から40~50分かけて通った。同校の中・高6年一貫コースはいわゆる進学コースで、中学にはいろんな部活があるが、高校になると、いわゆる体育会系の部は甲子園常連の野球部しかなくなる。安達はそれを知らずに入学した。中学のサッカー部に入ってしばらくしてその事実を知り、「なんでやねん」と思った。
高校生になって文化系の部に入らなかった安達は「帰宅部」としての3年間を過ごした。地元の「くら寿司」でアルバイトを2年間続け、「大学生になったら使おう」と、給料はほとんど使わずに貯金した。3学年上の兄が浪速高校~佛教大学でアメフト部だったので、試合観戦に行ったこともあった。第一志望を神戸大学に決めると、自分もアメフトをやってみたいと思うようになった。現役で工学部機械工学科に入り、レイバンズに足を踏み入れた。
4年の春からOLで試合出場
当初からOLになったが、3年生まではほとんど試合に出られなかった。3年のときにはけがを繰り返し、手術を受けた。リハビリは4年生の4月までかかった。残された時間は短い。同期2人のOLは島田將達(北野)がオフェンスリーダー、浅野孝一郎(淳心学院)がキッキングリーダーになったこともあり、安達は「僕にできることとして、後輩たちをしっかり見てあげたい」と、OLのパートリーダーになった。「自信はないけど、とりあえずがむしゃらにやろう」と決めて練習に取り組んだ。春のオープン戦は、ほぼすべてにOLとして出られた。「帰宅部」発のフットボール人生が、ようやく力強く前進し始めた。
本番の秋、初戦の立命戦からスターターに名を連ねてきた。「関学戦はとくにランが出なくて悔しい思いをしました」。5戦目の龍谷大学戦で、ランは1回平均7yd以上進んだ。やっとOLとしての喜びを何度も経験できた。「目立つポジションじゃないけど、自分の背中を走ってくれたときの喜び、相手をアオテンさせたときの喜びはすごく大きいです。味方に『あのブロックよかったで』と言ってもらえると、うごくうれしい。OLをやっててよかった、と感じます」
神戸大の矢野川源監督に安達について聞くと、「もともとめちゃくちゃ控えめなヤツでしたけど、パートリーダーとしていろいろ工夫しながら、苦労しながら引っ張ってくれてます。そのおかげでしっかりランが出て、いい形のオフェンスになってきてます」と話してくれた。
高校時代の分まで打ち込んだ
安達がOLとして大事にしていることを尋ねてみた。「相手に一番に当たる。だからスタートにかけてます。それと最後までやりきること。これはどんなプレーのときも意識してます」。「くら寿司」でバイトしていたころは、体重が100kgを超えた自分など想像したこともなかった。あの貯金はほとんど食費に消えたが、「高校でスポーツができなかった分までアメフトに打ち込めた」との実感がある。
11月25日の近畿大学戦がレイバンズでのラストゲームになる。「QBサックはゼロで、ランをめちゃくちゃ出して、『OLで勝った』という試合にしたい」。新しい自分に出会わせてくれたアメフトに感謝しながら、ただただ敵にぶち当たる。