大阪経済大・小畑知輝 攻守ラインで奮闘、サウナで語り合った「後輩」といざ最終戦へ
アメリカンフットボールの関西学生リーグ2部は12月2、3日に最終節の3試合がある。昨年の入れ替え戦で2部に昇格した大阪経済大学ボンバーズは苦しい戦いが続き、勝利は前節の神戸学院大学の棄権に伴う不戦勝だけで、1勝5敗。2日の大阪体育大学戦に勝てば2勝5敗で3校が並び、抽選で5~7位相当を決める。引き分け以下だと7位となり3部との入れ替え戦に回る。「勝って、後輩たちも2部でやらせてあげたい」と話すのが大経大のOL/DLで奮闘する小畑知輝(こばた・ともき、4年、府立桜塚)だ。
「よし、いくぞ」に見えたOL魂
大経大の直近の試合となる第5節の京都産業大学戦。春の西日本学生大会では7-13と惜敗しただけに、ボンバーズはこの一戦にかけていた。選手は38人と少ない。身長183cm、体重115kgの小畑は、オフェンスでは右のG(ガード)、ディフェンスではNT(ノーズタックル)として最前線で戦い続けた。
この一戦にかける思いを打ち出すように大経大は初っぱなからスペシャルプレー。しかしファンブルロスト。最初の京産大オフェンスが大経大陣に入ったところでの第3ダウン残り3ydで、インサイドのランを小畑がタックル。攻撃権更新を許さず、パントに追い込んだ。小畑はパントカバーとパントリターンには入らない。いったんサイドラインに戻って、「よし、いくぞ」と声を出してオフェンスに出ていく。これは、試合終盤になっても変わらなかった。「よし、いくぞ」に小畑のOL魂を見た。
第2クオーター(Q)に入ってすぐ、DLで出ている最中に小畑がサイドラインへ戻った。けがをしたのかと思ったが、様子が違う。ユニホームが破れたのだった。76番のものを防具から外し、71番に着せ替えてフィールドへ戻った。2プレー後に先制タッチダウン(TD)を奪われた。その後は京産大に得点を重ねられ、大経大オフェンスはエンドゾーンが遠い。第4Qになるころには、小畑に疲労の色が濃くなった。しかし、大経大の誇る最強ラインはこのままでは終わらない。ランに出たQBを3度もタックルした。「もう点差も開いてたんで、ビッグプレーで雰囲気を変えたかった。スタートを工夫しました」と小畑。
0-49で試合終了。さすがに足取り重くサイドラインに戻ってくると、整列した小畑は顔をゆがめ、涙を流した。「正直情けない結果が続いてて、今日こそという気持ちでした。でも自分たち4回生が完成したチームにできなかった。通用しなくて落胆しました」
高校までは野球部、大学に入る前から増量作戦
小畑は大阪府箕面市で生まれ育った。父はかつて箕面高校と高野山大学でアメフトに取り組んだ経験があり、小畑が小学生になるとボールに触らせた。家のテレビにはNFLの映像が流れていた。しかし小畑は小学生のときにサッカーとソフトボール、中学生になると野球に打ち込んだ。府立桜塚高校でも野球。3年夏の大阪大会は2回戦から登場し、3回勝ってベスト16に進出。5回戦は初芝立命館に0-6で敗れた。小畑は4番ファーストで4打数1安打だった。
夏が終わって大学受験の勉強を始めると、一気にアメフトがやりたくなった。父がさりげなく流すNFLの映像を眺めているうち、「こんなにぶつかれて楽しそう、と思ってしまった」そうだ。父の勧めもあって第一志望は甲南大学にした。しかし受験に失敗。大経大への進学が決まったあと、中学時代の友だち2人がそれぞれ別の大学でアメフト部に入ると聞いた。「そんな話を聞いてると、もうアメフトしかないと」。父にその気持ちを伝えると、めちゃくちゃ喜んだ。
当時は75kg。ラインがやりたかったから、入学前から増量作戦に入った。1日5食を取り、プロテインも。DLになり、2年生から攻守両面で試合に出るようになった。しんどいなんてもんじゃなかった。それでも同じ両面ラインで頑張る先輩を見ていると、「俺ももっと頑張ろう」と思えた。
チーム唯一のタッチダウンを導いたリードブロック
昨年の秋は3部Aブロックで優勝し、2部の兵庫県立大学との入れ替え戦に7-6で勝って2部昇格を果たした。学生ラストイヤーを迎えるにあたって主将に立候補したが、「お前は不器用だからプレーで頑張ってくれ」とみんなに言われ、そうすることにした。主将になったのは高校時代のチームメイトでキャッチャーだった村中駿輔。彼は2年から入部してきて、小畑とともにOL兼DLで出場している。まさに盟友だ。
さらに小畑には四六時中、行動をともにする仲間がいる。3年生でRB/DBの天野絢治朗(けんじろう、小樽潮陵)だ。1浪で北の大地から大阪へやってきた天野と小畑は同い年。天野も元球児だ。いまのチームが始まったときに天野はRBを兼ねることになり、OLとRBとしてプレーの話をしているうちに一気に仲良くなった。1月からずっとトレーニングも一緒にやってきた。練習後の夕食は大学近くでインドカレーを食べたり、油そばをすすったり。「ケンジロウはめっちゃまじめ。浮くぐらいまじめなんです。ウェートもめっちゃ頑張るから、すごくいい刺激をくれる。ケンジロウといたら、いろいろいい方向に進んでいく気がします」
2人ともサウナが好きで、よく一緒に行く。ととのった後はアメフト談議だ。動画を見ながら、ああだこうだと話し合う。第4節の大阪大学戦では天野が今シーズンここまでチームとして唯一のタッチダウンを決めた。ゴール前まで迫ってのパワープレー。天野は小畑のリードブロックに導かれてエンドゾーンへ倒れ込んだ。天野は「小畑の背中を信じてついていきました」と笑った。その日はふるさと北海道で高校の教諭をしている父が、修学旅行で関西を訪れ、初めて試合観戦に来てくれていた。親友と一緒に決めたタッチダウン。しかも初めて見に来てくれた父の目の前で。天野にとって忘れられない試合になった。
来春からXリーグの強豪チームへ
小畑は来春から、Xリーグのトップチームの一つでプレーを続けることが決まっている。「大好きなアメフトを社会人でも続けたくて。もっと上のレベルのチームでもやってみたいと思って、監督さんにトライアウトを受けられるよう頼んでもらいました」。その積極性が実った。小畑がトップチームに入るのは、天野にとっても誇らしい。
二人で一緒に戦えるリーグ戦も12月2日が最後だ。小畑は言う。「ケンジロウにも同期のRBの福田(憲太郎、東大津)にも、僕のブロックでもっとゲインしてもらいたい。どんどん押したろうと思ってます」。天野は「小畑はアメフト人生における一番のパートナーです。ラインで試合に出続けるのは、ほんとにすごい。最後はアイツと一緒にビッグプレーを起こして、勝ちます」。大学からアメフトを始めたからこそ出会えた。お互いを信頼しきって、ラストゲームに臨む。