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連載:OL魂

東京大学・村田政則 泥臭く激しいヒットで、ウォリアーズをTOP8に残してみせる

立教大との試合中、次のオフェンスへ向けて意見する東大OL村田政則(撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関東大学1部TOP8とBIG8のチャレンジマッチ(入れ替え戦)は12月16日にある。TOP8で6戦全敗だった東京大学ウォリアーズは激戦のBIG8を勝ち上がってきた駒澤大学と対戦する。2019年に初昇格してからTOP8の座を守り続けてきた東大にとって、試練の一戦だ。コロナ禍の2020年春に入学した4年生の選手は10人と少ない。その一人、OL(オフェンスライン)の中央で体を張るC(センター)の村田政則(西大和学園)は「ウォリアーズは大学生活のすべて。自分の居場所でした。そんなかけがえのないチームをBIG8に落とすわけにはいかない」と力を込める。

高校時代は野球部の控え、大学は「試合に出られるスポーツを」

11月23日、リーグ最終の立教大学戦(横浜スタジアム)。東大は今シーズン躍進した相手と「殴り合い」のような戦いを演じた。いきなり0-14とされたが、2連続TD(タッチダウン)で追いつくと、取られては取っての展開で28-28。しかし3度目に追いついた直後のキックオフでリターンTDを喫し、後半になるとフレックスボーンからのオプション攻撃にもアジャストされ、ディフェンスも粘りきれず、35-62で敗れた。OLで唯一の4年生である村田は身長175cm、体重121kgの巨体で奮闘。ランブロックでいい当たりをしても、足がついていかずに落とされる場面もあったが、最後までひたすらにブロックしにいく姿勢は貫いた。そしてTDを奪うたびに小さくガッツポーズ。村田は「夢中でした。これまで点が取れてなかったんで、盛り上がってやれたかなと思います」と話した。

巨体をぶつけるようにして相手をブロック(撮影・北川直樹)

大阪府豊中市の出身。2時間かけて通った奈良県河合町の西大和学園高校では野球部。超が付く進学校の同校では、部活は2年生まで。だから野球部の目標は2年秋の近畿大会県予選だ。村田の代は2回戦で天理高校に0-21で負け、高校野球生活が終わった。村田はファーストの控えで、「大学では試合に出られるスポーツがやりたい」と思うようになった。

高3だった2019年の秋にラグビーのワールドカップをテレビで見て、コンタクトスポーツに興味を持った。そして翌春に東大合格。コロナ禍で部活の新歓がなく、どうしようかと思っていたら、同じ西大和学園から京都大学に進んだ友人の北澤孝朗がギャングスターズに入ったのを知り、「うらやましい、入ろう」と決めてウォリアーズに連絡を取り、入部した。村田の父は京大ギャングスターズに入って、1年生の途中で退部した。アメフトを始める一人息子に「4年間を無駄にせんように頑張りや」と言ってくれた。

東大QBのセットバック時の低さには驚かされた(撮影・北川直樹)

部を離れ、遊んだ1年間

ほとんどの新入生がアメフト未経験者である東大では、しばらく1年生だけの練習が続く。2020年の春は勧誘がままならず、5人で練習した日もあった。それでも村田は「単純に楽しかったし、友だちと一緒に部活をやれるのがうれしかった」と振り返る。しかし、そんな生活が1年を迎えたころ、彼はウォリアーズをやめた。

「高校の練習がぬるかったものあって、週6でガツガツ練習するのは体力面も精神面でもしんどかった。サークル気分が抜けてなかったんですね。周りの人たちは遊んでて、そっちがいいなと。始めてみて、そんなに簡単なスポーツじゃないのが分かって、これはまた試合に出ずに4年間終わるなとも思った。それなら遊んだ方がいいと感じたんです」

友だちと2人で旅に出た。沖縄に行ったり、車で九州を一周したり。とくに別府温泉がいい思い出だそうだ。そんな生活をしていた2021年の10月、横浜スタジアムの近くで暮らす高校時代の友だちの下宿先へ行った流れで、ハマスタでのウォリアーズの試合を観戦した。桜美林大学に7-21で負けたが、一緒にやってきた人たちが緑の人工芝の上で戦う姿に心を打たれた。「キラキラして見えた。あのフィールドに立って、アメフトがしたいと思いました。負い目を感じてたんですけど、後悔はしないようにしないと、と思って戻りました」

ハドルが解けると、白いネックロールを触りながらポジションへ向かう(撮影・北川直樹)

3年生になった5月ごろに部に戻ると、ウォリアーズの仲間たちは温かく迎えてくれた。「迷惑をかけないようにして、とにかく最後までやりきろうと決めました」。体重は128kgまで増えていて、思うように動けなかった。OLの後輩たちがうまくて、「これ、やばいな」という危機感も生まれた。「何とかして遅れを取り戻そう」と練習に打ち込んだ。筋力トレーニングにも必死で取り組んだ。

その甲斐(かい)もあって、3年の秋からスポットで試合に出始め、今年の春からCのスターターになれた。東大は昨年からフレックスボーンからのオプション攻撃に取り組んでいて、ほとんどがランプレー。OLの負担は大きくなる。「第2クオーターぐらいが一番しんどい。東大のOLの中で自分が一番動けないので、目の前の相手に食らいつく気持ちだけでやってきました」。チームの公式ホームページの「メッセージ」欄には「でかい体を活かして激しく泥臭くヒットし続けます」と書いた。

父に見せたいシーズン初勝利

今春の立命館大学戦では、左G(ガード)とのダブルチームでDLを5yd押せた。相手はレギュラークラス抜きの試合だったとはいえ、仲間と息の合ったブロックができたことがうれしかった。「自分が相手を押した分だけRBやQBが進んだり、ダウンフィールドに出たときに自分のブロックで抜けてタッチダウンまでいったりしたら、一番うれしい」。自分のOL魂を語るとき、曇りがちだった村田の表情が晴れた。東大の森清之ヘッドコーチは村田について、「最初はちゃらんぽらんだったけど、一回やめて戻ってきてからは取り組み方も変わって、少しずつOLとしてよくなった」と評する。

村田の父は一人息子の雄姿を見守るため、大阪から毎試合観戦に駆けつけている。「わざわざ来てくれるので、つらいときに『頑張ろう』と思える一因になってます。今シーズンは負けて負けて負けて、次がほんとに最後になる。勝ちを見せたい。必ず勝ちます」。父は村田の背中にかつての自分を重ね合わせて観戦することだろう。いざ、ラストゲーム。

高校時代からの夢は官僚で、スポーツをもっと盛り上げる事業に関わりたいそうだ(撮影・篠原大輔)

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