アメフト

連載:OL魂

横浜国立大・宮本響 ぶつかりたくて剣道から転向、5人が一つになって「1部奪還」を

横浜国立大の宮本響(79番)はシュッとした体形のオフェンスラインだ(すべて撮影・篠原大輔)

関西学生アメリカンフットボールリーグ1部の神戸大学と関東大学2部の横浜国立大学による第36回定期戦が5月5日、神戸・王子スタジアムであり、6-3で神戸大が勝った。地力で上回る神戸大にミスが目立ってロースコアの争いとなったが、そのミスのいくつかは横浜国大の思いきりのいいプレーによって引き起こされた。横浜国大のオフェンスはタッチダウンを奪えずに終わってしまったが、最前線で奮闘したOL(オフェンスライン)の一人、宮本響(きょう、3年、世田谷学園)に話を聞いてみたくなった。

【連載】OL魂

警視庁の剣道教室にも通った

宮本はOLが5人並ぶ真ん中のセンターだ。彼がボールをQB(クオーターバック)にスナップするところから横浜国大のオフェンスが始まる。身長185cm、体重100kg。なぜか国公立大学には数少ない、シュッとしたアスリートタイプのOLだ。要するにプレーしている姿がカッコいい。首には、いまや極めて少数派になったカウボーイカラー。左手には黒いグローブを着け、スナップを出す際にボールを持つ右手は素手。5本の指のそれぞれ第一関節(親指はのぞく)と根元の少し上に細いテーピングを巻いていた。神戸大のDL(ディフェンスライン)相手に苦戦するシーンもあったが、最後まで向かっていった。

12年間打ち込んだ剣道からアメフトに転向した

彼がどんなスポーツを経験してきたのか興味があった。小1から剣道一筋12年だったそうだ。中高一貫の世田谷学園では学校の剣道部だけでなく、警視庁の剣道教室にも通った。私が「いつも警察に行ってたの?」と笑って言うと、しっかりノッてきて「はい。週に2回、警察のお世話になってました」と返してくれた。こういうのはうれしい。

いまも心に引っかかるスナップミス

2022年春、第一志望の横浜国大に入るとアメフト部から熱烈な勧誘を受けた。それもそのはず、入学時にすでに103kgあったそうだ。剣道を続けたい気持ちもあったが、人と物理的にぶつかり合う競技に面白さを感じ、新しいことにチャレンジしたい思いもあって、マスティフスに入った。

「ボールをあんまり触りたくないから、ラインがいいな」と思っていたら、OLになった。最初からセンターをやることになった。ある意味、誰よりもボールを触ることになったのが面白い。当時はいま以上にチームの人数が少なく、早くも1年生の春シーズン途中から試合に出ることになった。センターはスナップを出してから当たりにいくため、初心者には難しい。宮本も練習では結構スナップミスをしたそうだが、アフターでも練習を重ね、試合になるとしっかりスナップを出せた。

ボールにかけた宮本の右腕が動いて、マスティフスのオフェンスが始まる

ただ、本番の秋シーズンの重みは違った。「最初のころはあんまり意識してなかったんですけど、秋になったら『自分のミスでプレーが始まらなくなったらどうしよう』と思うようになっちゃって……」。度々ミスが出たわけではないが、それでもこの2年間で何度か出たスナップミスが、いまも心に引っかかっているという。

1年の秋は関東の最上位カテゴリーである1部TOP8で全敗し、自動降格。昨秋は1部BIG8で戦った。2部の帝京大学との入れ替え戦に回ると、5-10で敗れ、2部に転落してしまった。「悔しかったです。帝京にはフィジカル面でもメンタル面でも負けてたと思います。OLはインサイドのプレーで当たり負けしてたし……」。そして24年のチーム目標は「1部奪還」となった。

ヒットの瞬間が楽しい

憧れの選手は、Xリーグ・オービックシーガルズのDL山田琳太郎(23)だ。宮本が1年生の秋、横浜国大は1部TOP8のリーグ初戦で早稲田大学と対戦。会場は東京ドームだった。敵に当時4年生の山田がいた。「むちゃくちゃデカくて、カッコいいなあ」。宮本はそう思いながらプレーしていた。それ以来、山田の写真をスマホの待ち受け画面にしている。試合の前々日には、決まって仲間とスーパー銭湯へ。サウナと水風呂を3セットでととのう。

マスティフスのハドルを見ていて、「青春って、すごく密なので」という言葉を思い出した

OLとしての喜びについて尋ねると、「相手を圧倒したときと、ランビー(RB)がいいホールで走ってくれたときですね」と返ってきた。剣道をやっとけばよかったと思うことはないそうだ。「アメフトが楽しいんで。やっぱりヒットの瞬間が楽しい。ファーストヒットでガツンと当たる瞬間が好きです」。これが宮本響のOL魂である。チーム事情でセンターから同じOLのタックルにポジションが変わる予定で、すでに練習もしている。ただセンターであれタックルであれ、最初からガツンといく心意気に変わりはない。

さあ、「1部奪還」だ。「今年でBIGに上がって、すぐ来年TOPに上げたい。TOPにいれば東京ドームでも試合ができると思うんで、後輩たちにやってもらいたいです」。ここからOLが強くなった分だけ、マスティフスのオフェンスは前に進む。79番はその原動力になれるだろうか。

アメフト3年目の大きな飛躍が楽しみだ

OL魂

in Additionあわせて読みたい