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連載:OL魂

横浜国立大・津吉駿輝 退部を踏みとどまり、副将としてやりきるラストゲーム

津吉(61番)は日大のDL宮川(中央左)と対峙した(撮影・北川直樹)

球技なのに基本的にはボールにさわれない。オフェンスを前に進めるため、ただひたすらにぶつかり続ける大男たちがいる。自己犠牲のポジションとも言えるOL(オフェンスライン)の生きざまについて書き尽くす「OL魂」。11月30日に関東大学リーグ1部BIG8の最終戦に臨む横浜国立大マスティフスから61番の副将、津吉駿輝(つよし・としき、4年、埼玉・開智)を紹介します。

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日大のDL宮川泰介に食らった「アオテン」

11月17日の日大(5勝)ー横国大(4勝1敗)戦には、普段のBIG8の試合より多くの観客とメディアが会場に駆けつけた。日大のDL宮川泰介(4年、日大豊山)が昨年5月6日以来で試合に出る可能性が高かったからだ。初のTOP8昇格を目指して戦ってきた横国大にとって、この日は正念場。日大に負け、直後の試合で桜美林大(4勝1敗)が勝てば、横国大の昇格はなくなる。そんな大一番なのに、津吉はつい弱気なことを言ってしまったそうだ。「あ~あ、どうしよう」。それでも試合直前には「こんな強い選手にぶつかっていけるなんて、これが最初で最後だ。最後まで楽しんでやろう」と、腹をくくった。

津吉はオフェンスの最前線に5人並ぶOLの中でも、左端に位置する「左タックル(T)」だ。この日はほぼ半数のプレーで宮川と対峙(たいじ)した。徹底的に鍛え上げた身長184cm、体重105kgの体に、真っ赤なヘルメットとユニフォーム。宮川はそこにいるだけで圧倒的な威圧感を放っていた。津吉は覚悟を決めて真っ向勝負。そして「アオテン」を食らった。アオテンとはアメフト用語で、相手とぶつかって仰向けに倒されることだ。

横国大は日大に先制タッチダウンを許して0-7とされたが、すぐにキッカーの小川峻太郎(4年、國學院久我山)が47ydと長いフィールドゴールを蹴り込んで3-7とした。しかし第1クオーターの終盤からは攻守のライン戦で横国大が後手に回り、スピードでも日大に圧倒された。3-41で迎えた試合終了間際、横国大は最後の意地を見せて相手ゴール前まで攻め込んだが、エンドゾーンは遠かった。

「日大にはもっとボコボコにやられるのかなと思ってたんですけど、60点ぐらいはできたのかな。でもオフェンスとしてはレベルの差を見せつけられた試合になって残念です」(撮影・篠原大輔)

試合直後、津吉に声をかけて取材を申し込むと「僕でいいんですか? 」と不思議そうな表情を浮かべた。最初に宮川と当たってみてどうだったか尋ねると、開口一番「デカかったっす」と言って笑った。「当たってみて、本当にとてつもなく強くて……。でも僕は4年生なんで、これから先こんな強い当たりを受けることはないと思うんです。だから楽しかったし、彼と対戦できてよかったです」

2年生で退部を決意、先輩は「お前が必要だ」

幼稚園のころから高校までずっとサッカーをしてきた。サッカーを始めた理由は「周りの人がやってたからかな?」。チームは弱かった。高校のときの戦績を聞いても「すみません。そんなレベルじゃなかったんで、もう覚えてないです」。ただ純粋にサッカーが好きで、サイドバックやセンターバックでプレーしてきた。

大学でも最初はサッカー部に入ろうと思っていた。だが、どの部よりも熱心に粘り強く勧誘してきたのが、アメフト部だった。いままで見たこともない競技だったが、先輩たちの「君が来てくれることでチームは強くなれる」という言葉にグッときた。

横国大は2012年に1部昇格を果たしてからずっと1部で戦っている。14年に1部が上位のTOP8と下位のBIG8に別れてからは、チームは「TOP8昇格」を合言葉に練習に励んできた。津吉が勧誘を受けたときも「一緒にTOP8を目指そう」と声をかけられた。「サッカーは好きだったけど、ずっと弱くて。トップを狙える環境に、僕は初めて巡り合いました。だから『大学ぐらいは上を目指してみようかな』という気持ちになったんです」と振り返った。

アサイメントが覚えられず、一度はアメフトをやめようと思った(撮影・北川直樹)

未知の競技に取り組んでみると、いろんなギャップを感じた。親には「けがするし、やめときなよ」と言われていたが、津吉自身、ぶつかり合うことに抵抗はなかった。入部当時は身長174cm、体重63kgと細かったため、ディフェンスのCB(コーナーバック)になった。2年生になり、自ら希望してオフェンスのTE(タイトエンド)に転向した。しかし、プレーごとに決められたアサイメント(役割分担)が覚えられなかった。このままやっても自分はチームに貢献できない。そう思い、2年生の夏に退部を申し出た。先輩たちに説得される日々。「僕は下手で下手でどうしようもない。すみません、やめます」と言っても、「やっぱりお前が必要だ」と強く言われた。そして「絶対お前を強くしてやる。育てるから」という言葉に、この部でやりきる覚悟を決めた。

63kgから100kgへ、増量は何よりキツい

3年生からOLになったが、希望したわけではなかった。新チームに移行する際、4年生が抜けた穴を埋めるためのコンバートだった。「そこそこ体も大きかったというのはあったと思うんですけど、TEの中で一番下手くそだったのが僕だったから」と、津吉は打ち明ける。

TEはパスの受け手にもなるため、基本的にボールには触れないOLになった当初は「ちょっと悲しかった」という。でもすぐに思い直した。「僕は相手と当たり合うのは好きで、それに専念するのも悪くないかな、って。TEではミスばっかりで全然ダメだった。でもOLをやってくれと言われて『もう1回チャンスをもらった』と思えたんです」

どんな練習にも増してキツいのが増量だ。前述のように、入部当初の津吉は身長174cmで体重63kgだった。2年生のTEだったころに80kgまで増えた。2年生の終わりには85kgに。OLになって一気に100kgまで増やした。筋トレをやってやって、食べまくる。1年生のころは20kgのバーを挙げるだけで精いっぱいだったが、ベンチプレスで150kg、スクワットで210kgまで支えられるようになった。

細かいカロリー計算は苦手なため、1日4~5食をとって就寝前に体重測定する。朝は9時ごろ起きて朝食、昼食、練習前の食事、練習後の食事。そして日付が変わったころにもう1食。そこから体重計に乗り、目標に達していなければ、さらに食べる。達していれば「セーフ」と思って、寝る。

一人暮らしのため、食事は自分で作る。津吉の料理の基本は肉、白米、生野菜だ。「人に言えるほどの料理でもないんですけど」と前置きして「鶏肉を焼いて塩こしょうで味付けして食べてます。ささみは高タンパクでいいんですけど、ささみばっかりだとメンタルがやられてしまうんで、多少脂質があっても鶏もも肉なんかを選んでます。牛肉も焼き肉のたれで調理してます」と、食卓事情を明かしてくれた。食べるのも大変だが、一連の流れがなんとも面倒だった。買い物に行き、調理し、食べ、片付ける。昼食は学食や定食屋で済ませているが、この一連のサイクルを毎日何度かしなければならない。

仲間とコミュニケーションをとりながら戦う。それが津吉がやりたかったアメフトだ(撮影・北川直樹)

そんな苦労をしてまで続けてきたOL。いまはこのポジションでよかったという思いが大きい。入部当初のCBはプレー中にフィールドの端っこにいるケースが多いため、チームスポーツをやりたいと思っていた津吉には、どこか違和感があった。そこからTE、OLと、徐々に真ん中に寄ってきた。「OLは自分一人だけがうまくブロックできてもダメだし、逆に誰か一人がミスったらプレーが壊れてしまう。コンビネーションが何より大事だから、周りとコミュニケーションをとってプレーを詰めていきます。それが自分には向いてたと思うし、自然とOLの仲間と仲よくなっていきました。いまはOLに誘ってもらえたことに感謝してます」。津吉のOL魂が、ここにある。

マスティフ犬のように勇敢であれ

横国大の練習は週5回、夕方から夜にかけて。試合前には朝練もやる。さいたま市出身の津吉は当初、実家から横浜市にある大学まで通っていたが、親に「下宿させてください」と願い出て、1年生の5月から大学の近くに下宿している。横国大は年に2度の学園祭があるが、アメフト部は練習や試合があるため参加できない。「とくに行きたいとも思わなくなりました」と津吉。勉強と部活でアルバイトをする時間もないが、食事代は節約できない。親の仕送りに頼っている。「本当にいい両親なんです。僕は親のすねをかじりっぱなしで……」

最後の1年を迎えるにあたり、津吉は副将に手を挙げた。そこからは意識を変えてアメフトに取り組んだ。チームの模範になれるように。ミスしないように。どれだけキツい練習の時期でも絶対やせないように。

先輩がそうであったように、今度は自分が後輩たちの模範になれるようにと副将になった(撮影・篠原大輔)

津吉に改めて「横国大マスティフスとは? 」と尋ねた。

「ほかの大学に比べて体が小さいです。それでも素晴らしいコーチのみなさんが作ってくれたプレーを全員が理解して、一つのものを信じて捨て身で当たっていく。だからこそ、僕よりずっと大きい相手にも向かっていけるんです」

番犬や闘犬などとして知られるマスティフは、冷静沈着でありながら勇敢さも兼ね備えた犬だ。横国大アメフト部のニックネーム「マスティフス」には「マスティフ犬のように畏怖の念を抱かれるチームになる」との思いがこもっている。

アメフトを始めたころは、まさか日大と対戦する日がくるなどとは思っていなかった。いろいろあって、戦えた。日大に敗れて4勝2敗。直後に桜美林大が1敗を守ったため、横国大のTOP8昇格の道は閉ざされた。それでも11月30日に最後の東海大戦がある。OLとして生きたこの2年のすべてを、そしてフットボールに取り組んだこの4年のすべてを出しきるチャンスは、残っている。

大切なのは挑み続けること。マスティフスの誇りを胸に、最後の最後まで全力でぶつかる。

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