ラクロス

明治大学・木村直樹主将 苦難の末の白星 「逃げずに続ければ必ず結果はついてくる」

1年間チームを率いた木村主将(右、すべて撮影・明大スポーツ新聞部)

昨年度、初出場した全日本大学選手権で準優勝の快挙を成し遂げた明治大学男子ラクロス部HUSKIES(ハスキーズ)。当時の主力メンバーだった4年生が抜け、残った選手の多くはAチーム出場経験が少なかった。「どこよりも困難に立ち向かった」2023年のハスキーズを、木村直樹主将(4年、桜美林)の言葉と共に振り返る。

慶應大に雪辱も六大戦は負け越し

新チームが始動して迎えた春の東京六大学対抗戦(六大戦)。3戦目で、昨年度の関東学生リーグ戦と全日本大学選手権を制した慶應義塾大学に相対した。入部して以来、2度も目の前で優勝を献上してしまう屈辱を味わった因縁の相手だ。第3クオーター(Q)終了時点で3-5と、格の違いを見せつけられた。

だが、今年のハスキーズは一味違う。最終Qで4得点を挙げ、7-5と逆転勝利した。「全員が諦めずに体力を振り絞り、全員が主体的に練習に取り組んでくれた結果」と木村が言うように、下級生も巻き込み、一枚岩になって戦う理想的な試合運びを見せた。

しかし、その後は敗戦を重ね、六大戦は1勝1分け3敗と負け越した。優勝したのは、強豪の慶應義塾大でも早稲田大学でもなく、法政大学。2部からはい上がったチームが全勝で首位に立つ波乱の結果となった。

4月に行われた中央大学戦は惜しくも5-6で敗戦した

試練のシーズン「8.4事件」で深い傷

7月、関東学生リーグ戦が始まった。全試合を8月末までに終える過密スケジュールかつ真夏に行われる厳しいシーズンだ。

初戦の相手は六大戦王者の法政大。カウンター攻撃に苦しめられながらディフェンス陣は3失点で持ちこたえたものの、1得点にとどまり敗戦。痛い黒星スタートとなった。夏合宿の2日前に行われた2戦目の東大戦では、相手の猛攻に対応しきれず10失点。2部降格が眼前に迫った。4月の中央大学戦(明中戦)後に口にしていた「負け癖」が抜けきらず、チームはどんよりとしたムードに包まれていた。

だが、本当の地獄はここからだった。もう負けられない、生まれ変わらなければならない、と全員が目の色を変えて挑んだ夏合宿では、基礎技術からたたき直し、戦術を詰め、実践的な試合形式の練習を重ねた。「幹部だけでなく全員でチームを作るという意識」を掲げ、チームの再建を急いだ。

合宿終了2日前、2部リーグに所属する格下の青山学院大学との練習試合に敗北。「あれだけみんな頑張ったのに、それでも負けた」。あり得ない、絶望の一日。自分たちの弱さをまざまざと突きつけられ、どん底に落ちた瞬間だった。チームは、後に「8.4事件」と呼ばれる深い傷を負った。

どん底から再起し早稲田を返り討ち

合宿後、背水の陣で挑んだ3戦目の武蔵大学戦。負けたら2部との入れ替え戦に進みかねない重要な一戦だった。「(青学大戦の敗戦を受けて)もう一段階レベルアップしてみんなで取り組めたと思う、そこからチーム全体の意識が変わってプレーも向上した」。AT(アタック)佐藤颯士(3年、徳島市立)をはじめとするオフェンス陣の勢いが止まらず、試合を通して一度もリードを許さない圧巻の試合展開でリーグ戦初勝利を手にし、ハスキーズは息を吹き返した。

8月26日、最終戦の相手は8年連続でFINAL4(駒沢オリンピック公園総合運動場で開催される1部リーグ準決勝)に進出している強豪・早稲田大学。昨年度、ハスキーズはFINAL4で早稲田大と対戦し、残り90秒で逆転勝利を収めた。早稲田大からしたら因縁の相手だろう。試合前、木村主将と各ポジションのリーダーたちは、チーム全体で気持ちを「一つ」にするため、長時間のミーティングを行った。「勝ち切るだけ。焦らないようにやることをやる、ということを徹底した」と、全員が目の色を変えて試合に臨んだ。

午前10時、江戸川区臨海球技場の上空には真っ黒な雲が漂っていた。雷雨など天候不良で1時間延期して試合開始。ゲリラ豪雨、酷暑に見舞われコンディションは最悪の状態。それでもハスキーズの魂は燃え盛った。守備の隙を突かれて早稲田大に先制点を決められたが、すぐに切り替え、同点となるショットを木村主将が決めた。ここからオフェンス陣が奮起し、エースの佐藤らが3得点をあげ、第1Qを3-1で終えた。後半も早稲田大の猛攻を1失点に抑え、最終Q終了間際に佐藤がダメ押しの4点目を決めた。

リーグ最終戦で早稲田大に勝利し、喜ぶ選手たち

青空の下、ハスキーズは勝利の咆哮(ほうこう)をあげた。激戦の後、木村主将は「少ない人数の上級生が引っ張っていくのはすごく大変だったが、後輩も試合を自分事化してくれた。4年生のために勝たせようという後輩の協力がなければ、早稲田大には勝てなかった」と同期と後輩への感謝を笑顔で語った。

困難を乗り越えて手にした白星に喜び

明治大、早稲田大、東京大が勝ち点で並んだ結果、当該チーム同士の試合の得失点差により、ハスキーズは4位で今シーズンを終えた。4年連続のFINAL4進出はならなかった。

六大戦の不振で始まった今シーズンは、リーグ戦開幕2連敗からの連勝、そして早稲田大に白星を飾って終えた。困難を乗り越えて手にした白星は価値が大きく、喜びに満ちたものだった。「どんなに苦しくても逃げずにやり続ければ、必ず結果はついてくることを肌で感じた」と木村主将は4年間を振り返った。

来季の主将を務めるエースの佐藤颯士

来年度の主将は佐藤、スローガンは「ONE」に決まった。10月1日、佐藤はチームのブログに「日本一になるために全員が本気で日本一を信じ、チーム一丸となって目標に向かって進んでいく」と思いをつづった。常勝軍団に生まれ変わり、2年越しに駒沢で歓喜の雄たけびを。ハスキーズは力強く走り始めた。

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