バレー

特集:全日本バレー大学選手権2023

東海大学・宮部愛芽世 自他共に認める「目立ちたがり」、最上級生となり変化した心境

エースとして、主将としてチームを引っ張る宮部(すべて撮影・井上翔太)

たった1年で、これほど大きく変わるのか。

エースの責任、東海大学で「1」をつける重み。主将として迎える全日本インカレ、宮部愛芽世(あめぜ、4年、金蘭会)は焦っていた。

「今までは『やっと全カレだ、楽しみ!』としか思っていなかったんです。でも今は『負けられない』と守りに入っているし、自分のプライドもめっちゃ前に出てしまっていて。4年って、こんなに重いんだ、って実感しています」

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苦しい時にトスが上がるポジションだけど

全日本インカレ初戦は九州学連の日本経済大学と対戦した。開始早々に長友真由(4年、延岡学園)のサーブや光広のぞみ(2年、安田女子)のスパイクで東海大が先行。相手のサーブでレシーブが乱された状況で宮部にトスが上がり、打ちきるには十分な状況ではなかったが、日本経済大の攻撃に対して宮部が完璧なブロックを決めると、そこから一気に8連続得点を挙げ、ストレートの快勝で初戦を飾った。

ブロックのシーンに話を向けると「決まって良かった」と笑いながら、その前に苦しい状況で打ち切れないながらも返した1本に触れると、深く、何度もうなずきながら言った。

「苦しい時に上がってくるポジションだから何とかしたい。でも『もっと打ちたい』っていう思いもある。まさに今、そこが自分の中で考えすぎていたところなんです」

高校時代に全国制覇を経験し、昨年、一昨年と全日本インカレを連覇した。自他共に認める「目立ちたがり」で、大舞台になればなるほど燃えるし、力を発揮する。だからこそ、例年は多少の不安があったとしても「楽しみ」とワクワクする気持ちが大きかった。

エースとしてチームを勝たせたい。優勝の喜びを後輩たちにも味わわせてあげたい。その思いは変わらないが、自分だけでなく周りに気を配ろうとすればするほど、別の悩みも増える。

全カレ初戦は控えのメンバーと喜び合う場面も多く見られた

「まだまだチームのための力が足りなかった」

全日本インカレの開幕を2週間後に控えた時期にも「実はこんなことがあった」と切り出した。

ゲーム形式の練習の合間のこと。セッターの佐村美怜(1年、東九州龍谷)が宮部に言った。「愛芽世さんに、もっといい状況で打ってほしいのに、自分がしんどい時にばっかり上げてしまって、自分が情けないです」

アタッカーで、しかもエース。宮部だけでなくとも、ここぞ、という場面で自分にトスが欲しいと思うのは当然だ。実際、佐村からも要所ではトスを託されてきた。

だが、セッターにもゲームプランがあり、フィニッシュを決めるために前半から布石を打つ。相手のサーブがよければ思い通りの攻撃ができないシーンも増え、宮部に決定力があるとわかっているからこそ、自チームが苦しい時に「何とかしてほしい」と祈るような思いでトスを上げることも当然ある。

特に下級生のセッターならばなおさらだ。確かに「ここは自分に上げてほしい」と思う場面もあったが、「苦しい時に頼ってくれたってかまわない」。そう言いながら、宮部は自分のアプローチが足りなかったと反省した、と明かす。

「今このチームのセッターはすごく大変だし、苦しいと思うんです。私に決めさせるために『ちゃんとトスを上げないと』というプレッシャーもあるし、中川つかさ(現・NEC)の後で東海大のセッターを務めるという責任もある。つーちゃんはキャリアが違うから、そこと比べることは全然なくて、そのままでいいし、気にしなくていいんだよ、と伝えたんですけど。でも、情けないと思わせているということは、私がちゃんと果たせていないから。自分が決めるだけじゃなく、まだまだチームのための力が足りなかった、と実感しました」

プレーの合間に1年生セッターの佐村(16番)とタッチを交わす

インカレ直前まで「焦り」、諭してくれた仲間と恩師

東海大の練習メニューは基本的に4年生たちが決める。試合前や鍛錬期、その時々で必要と思うメニューを多く組み込んでいく。本来ならば全日本インカレまで2週間を切れば、強化よりも最終確認とコンディショニングを重視したメニューが組まれるのだが、それで足りるのか。不安を消すことができず、宮部は「もっとラリーのメニュー入れたほうがよくない?」と提案した。

やればやるほど、チームとしての形ができる。そうなればきっと、後輩たちも自分も安心できると考えたのだが、周囲の反応は違った。

「『この時期にラリーを入れるのは多いんじゃない?』って。無意識に、焦りが出ていたことにみんな気づいていました」

同期だけでなく、藤井壮浩監督も同じだった。全日本インカレの開幕まで1週間に迫った頃、まさに同じことを指摘された、と宮部が言う。

「『顔が焦っているよ、もっと優雅にやりなさい』って言われました。負けられない、やらなきゃ、とプライドが前面に出てしまっていて、切羽詰まっていたんです。見かねた藤井さんから『あなたは焦る立場じゃないでしょ。プレーも、チームの中での立ち位置も、もっと余裕を持ちなさい』と言われて、その通りだな、と」

「何とかしなきゃ、と思っているうちは不安ばかり見えて、どうしよう、どうしよう、と焦る。『今年は絶対大丈夫』と揺らがずに臨めた全カレは、去年だけなんです。(優勝した)2年前だって、今思えば不安もあった。むしろ不安があることはマイナスじゃないんだ、と思えるようになりました」

藤井監督(左)と試合を見つめる宮部

昨シーズンは勝ち続ける中でさまざまな課題が生まれ、解決するたびにまた強くなる実感があった。最終学年の今季はなかなかタイトルに手が届かず、同じように課題を克服しながら強くなれていないのではないか、と焦りを抱いていたが、そこを見逃さずに指摘してくれる仲間も師もいる。何より、これまでは「自分が決めて勝つ」喜びを味わってきたが、違う楽しさも見えてきた。

「自分が決めるのはもちろんうれしいし『ここは自分で決めたい』と思う時もあるけれど、でもそれ以上に周りの選手が決めた時に、うれしい! と思えることが増えた。下級生だった自分が、周りにどれだけおいしいところを味わわせてもらっていたのかも、よくわかりました(笑)」

学年も立場も変わった。だが、チームを勝利に導くためにすべての力を出し切ることは変わらない。最後まで全力で。頂点を目指し、戦い続ける。

ここぞ、という場面では「私が決める」と心に誓って。

精度の高いサーブも宮部の強みだ

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