陸上・駅伝

特集:第100回箱根駅伝

箱根駅伝で上位を狙う早稲田大学 カギは「1=1」、全日本のシード落ちから巻き返し

箱根駅伝で上位を狙う早稲田大学の「3本柱」。左から石塚、山口、伊藤(すべて撮影・浅野有美)

早稲田大学にとって、11月の全日本大学駅伝はまさかの結果だった。序盤は3位以内で好走するも、4区以降は順位を落として総合10位。5年ぶりにシード権を失った。チームは原点に立ち返り、ミーティングを重ねた。12月16日、所沢キャンパスで行われた公開練習と合同取材では、就任2年目の花田勝彦駅伝監督とエントリー選手16人が箱根駅伝に向けて奮起を誓った。

【特集】第100回箱根駅伝

全日本はまさかのシード落ち

「私自身もまさかシードを落とすと思っていなかった」

年始の目標で「学生3大駅伝3位以内」を掲げていた早稲田大学。11月の全日本で5年ぶりにシード権を失った花田監督のショックは大きかった。

1区の間瀬田純平(2年、鳥栖工)がスタートダッシュに成功し、2、3区を主力の山口智規(2年、学法石川)と石塚陽士(3年、早稲田実)がつないで、序盤は3位以内で好走した。だが4区で順位を8位に落とすと、その後はシード権争いに巻き込まれ、エース格の伊藤大志(3年、佐久長聖)を投入した7区でも浮上できず。アンカーの伊福陽太(3年、洛南)が脱水症状に見舞われ、総合10位でフィニッシュした。チームが本来持っている力を発揮できなかった。

「また原点に戻ろう」

失意のチームは学年ごとにミーティングを開き、反省材料を出し合った。花田監督も自分の考えを伝えるより、選手たちから意見を聞くことを優先した。箱根に向けてどうするべきか、選手たちは決意を報告した。

「4年生からは『僕たちがしっかりしないといけない』という意見が、下級生からは『それも大事だけど、早稲田の良さは個の強さ。一人ひとりがしっかりやることだ』という意見も出た。チームとしての目標、やるべきことが明確になってきた」と、花田監督はチームの変化を感じた。

就任して2回目となる箱根駅伝に臨む花田勝彦監督

石塚陽士、伊藤大志、山口智規の3本柱が往路候補

今シーズンのチームは2、3年生が主体で、石塚、伊藤、山口の「3本柱」が往路の主要区間候補だ。

石塚は、春のトラックシーズンに10000mで27分58秒53をマークし、学生トップランナーの仲間入りをした。一方、駅伝シーズンは出雲、全日本ともに3区区間7位で、「序盤に攻めた走りをして、どれだけ粘れるかという、今までと違った走りをした。その挑戦がうまくいかなかった」と悔やむ。

箱根に向けてはスピードや距離を意識して練習してきた。希望区間は前回と同じエースがそろう2区。「全日本でできなかったところをどれだけ改善できるかが大事になってくる」と話す。

伊藤は、11月の幹部交代式で来年度の駅伝主将に就任すると発表された。1年次から学生駅伝に出走しているものの、今年は出雲1区4位、全日本7区6位と、理想とする「インパクトのある走り」ができていない。前回の箱根3区を走ったエース・井川龍人(現・旭化成)が9人抜きで14位から5位に押し上げた例を挙げ、「ゲームチェンジャーのような走りができることが勝つ要素として必要。どの区間を任されてもチームの流れを変える走りをしたい」。

箱根は2年連続5区を経験している山登り候補。「(5区なら)区間賞というより安定して区間3番以内を目指したい。タフな区間なので打ち勝てる走りをしたい」と語った。

公開練習の撮影に笑顔で応じる石塚と伊藤(右)

山口は佐藤圭汰が希望する1区に興味

山口は、出雲で2区区間3位と好走。全日本は序盤、駒澤大学の佐藤圭汰(2年、洛南)に食らいつき、2区区間4位と健闘した。「攻めた走りは自信になった」と言う。11月の上尾シティハーフマラソンでは、日本人トップの1時間1分16秒をマークして全体2位に入り、2010年に大迫傑(現・ナイキ)がこの大会で出した早大記録も更新した。「エース格に突き抜けてくれた」と花田監督も評価する。

14日の駒澤大の会見で、佐藤が1区を希望し、区間新記録樹立を宣言したのを受け、「1区で勝負したい気持ちもある」と対抗心を燃やす。「出雲駅伝以降、練習、レースともにノリに乗っているので、箱根駅伝でもノリノリの走りができるように頑張ります」

山口と同学年の間瀬田もスターター候補だ。全日本の1区ではトップの駒澤大・赤津勇進(4年、日立工)と1秒差の2位で襷(たすき)を渡した。大会後、2年生間のミーティングでは「2年生全体で高め合っていけば、チーム全体も高まっていく」と士気を上げた。希望区間は1区。SNSで選手を応援するハッシュタグにちなみ、「『#間瀬ダッシュ』で区間賞とりたいです」と意気込んだ。

伊福は復路の終盤区間が濃厚。全日本では本来の走りができなかったが、12月初めの日体大記録会10000mでは先頭でレースを作った。自己新となる28分55秒78を出して組1着でゴールし、自信を取り戻した。「今、チームの中では非常にいい。ちゃんと準備をしてスタートラインに立てれば大丈夫」と、花田監督の信頼も厚い。

失意の全日本をへて、チームの意識が変わった

全日本後に意識変化、4年生が経験を生かす

4年生も負けていられない。

「全日本の失敗をへて、4年生の意識が大きく変わった」。駅伝主将の菖蒲敦司(4年、西京)は言い切る。

2、3年生が中心のチームでは、4年生の立ち振る舞いが難しい雰囲気があった。4年生が朝練の集団走に参加しないことも多く、花田監督はその“緩さ”を懸念していた。しかし、全日本後は最上級生としての自覚が芽生え、チームを引っ張る様子も見られるようになり、雰囲気も変わってきた。

箱根のメンバーは菖蒲に加え、2年連続出走している佐藤航希(4年、宮崎日大)や前回6区区間3位の北村光(4年、樹徳)らもエントリーされ、花田監督は最上級生の経験をレースに生かしてほしいと期待する。

菖蒲は「私個人、学生の間では総合5番以内を目指しています。ここまでいい練習が積めています。エース格3人に頼ることなく、チーム全員で戦っていきたい。4年生の意地を見せたいです」と力強く語った。

工藤慎作(1年、八千代松陰)、長屋匡起(1年、佐久長聖)、山﨑一吹(1年、学法石川)のルーキー3人の出走メンバー入りも注目だ。工藤は出雲、全日本を経験し、箱根では「チームの流れに乗った走りがしたい」。長屋も出雲でアンカーを担い区間6位と好走。全日本は直前に足を負傷してレースに間に合わなかったが、箱根に向けて調子を上げている。「自信を持ってスタートラインに立てるように頑張ります」と意欲的だ。

左から工藤、山﨑、長屋。期待のルーキー3人の出走に注目

世界を見据え、海外レースを通して成長

名門復活を託された花田監督にとって2年目のシーズン。昨シーズンは途中からチームに入り、故障者も多い中で立て直しを図った。「あっという間に箱根駅伝を迎えて終わった感じだった」と振り返る。

今シーズンは腰を据えて箱根に向けてチーム作りを進め、さらに「箱根から世界へ」をスローガンに掲げて、クラウドファンディングを実施。支援金を活用して、選手たちに海外レースを経験させ、「個」を強化してきた。「自分たちの立ち位置がわかり、チームの意識は高まった」と、選手たちの成長を実感している。

本来の力を出し切れば上位は十分狙える

前回の箱根は往路5位、復路7位、10時間55分21秒で総合6位に入った。「今のチームはそれを上回る力を持っている」と自信を持つ。「3区を終えて、3、4位争いはしていたいです。総合5位を目指すなら6区を終えた時点で5位争いに参加していないと厳しいかなと思いますし、後ろとの差もほしいです。昨年のように3位にいれば一番理想的です」と展望を語る。

「箱根駅伝では『1=1』。しっかり普段やっていることを本番で出せれば結果はついてくると思います」

チーム全体で本来の力を発揮できれば総合順位で上位に食い込める。全日本から奮起した姿を見せてほしい。

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