陸上・駅伝

特集:第100回箱根駅伝

帝京大学は箱根駅伝でシード権奪還へ 西脇翔太主将「頼れる仲間がたくさんいる」

帝京大学は西脇翔太主将(中央)を中心にシード権奪還を誓う(すべて撮影・浅野有美)

帝京大学は今シーズン、出場する駅伝の大会が何も決まっていない「ゼロ」からのスタートだった。ここ数年経験がない状況の中で、西脇翔太主将(4年、名経大高蔵)を中心にチームを立て直した。9月下旬に新型コロナウイルスによる集団感染に見舞われるも箱根駅伝予選会を3位で通過。全日本大学駅伝はアクシデントがある中で12位に入り、チームの底力を見せた。箱根駅伝ではシード奪還を狙う。

第100回箱根駅伝

中野孝行監督「バージョンアップしている」と自信

帝京大の今シーズンは「ゼロ」から始まった。

「今年は出雲がなく、全日本も箱根も予選に出なければならなかった。選手にとっては初めての経験だった」

そう語った中野孝行監督は、チームを一度仕切り直して再スタートを切った。同様のシーズンを送った時代の資料を引っ張り出し、現状に合わせてスケジュールや練習メニューを組んだ。「夏合宿は詰めた練習をして質も高くした。“厳しい”練習に彼らは耐えてくれた」と、選手たちが力をつけている実感があった。

夏合宿は順調に消化。9月下旬に新型コロナウイルスの集団感染に見舞われたが、箱根駅伝予選会は集団走を軸にレースを進め、9人が1時間4分を切る安定感を見せて全体3位で通過した。

全日本大学駅伝は総合12位だったが、序盤は福田翔(3年、世羅)、山中博生(3年、草津東)、柴戸遼太(2年、大分東明)がつなぎ、3区終了時点で5位につけていた。4区で西脇が脱水症状になるアクシデントがあり12位に順位を落としたが、5区末次海斗(4年、鳥栖工)と6区島田晃希(2年、高田)が盛り返す場面もあり、チームの一体感が見えた。

中野監督は、「全日本は12位だったが、まだまだ戦える。全日本からアップデート、バージョンアップしている」と、箱根に向けて自信をのぞかせる。

会見ではエントリー選手16人が意気込みを語った

成功体験を積み重ね、チームが成長

この1年間チームを引っ張ってきたのが西脇主将だ。中野監督いわく「気配りがすごい」リーダーである。西脇は一人ひとりへの声かけを大事にし、「ダサくても自分の熱量を100%伝えること」を意識してきた。

昨シーズンは全日本に出られず、箱根は13位でシードを落とし、「惨敗してきた」と西脇主将は言う。敗因の一つに挙がったのが「成功体験の少なさ」だった。課題を克服するために、2カ月に1回チームとして中間目標、小目標を3つ立てた。その目標を達成することで成功体験を積み重ね、チームは成長した。夏合宿ではレースを想定した厳しい練習にも耐えた。「設定ペースを上げたり、走る距離を増やしたり。より勝ちに近づく練習をしてきた」と、レベルアップした。

西脇自身が脱水症状に見舞われた全日本も、8人中5人が区間順位1桁で走り切るなどチーム力を評価し、「総合12位という結果以上に手応えを間違いなくつかめた」と前向きに捉えた。大会後は精神的にも肉体的にもダメージが残っていたが、「西脇さんが失敗しても責める人はいません」などチームメートの言葉が支えになった。箱根が近づくにつれてチーム内がピリピリする中でも笑顔で話しかけ、明るい雰囲気を作るようにした。

前回の箱根で花の2区を走った西脇。「今年は頼れる仲間たちがたくさんいます。『西脇をここに置いたら勝てる』と任された区間が希望区間です。箱根駅伝では堂々とした走りをし、主将としての最後の大仕事を全うしたいです」と語った。

西脇主将は仲間への気配りを大事にしてきた

次期エース候補の山中博生「全日本は自信になった」

「今回の箱根は僕が120%出さなくて、100%で走ればチームの目標は達成できる」と、西脇が自負するように、今のチームには頼れる仲間がいる。来シーズン以降、チームを引っ張る2、3年生の力が上がっている。

10000mチームトップのタイムを持つ3年の山中は次期エース候補だ。前回の箱根8区は区間6位と健闘。中野監督も、「もともとポテンシャルはあった。1年のときは(体の線が)細くて頼りなかったが2年夏からブレークし、本当に強くなってきた。学生の中でもトップランナーになると思う」と期待を寄せる。

全日本はエース級が集まる2区で区間6位と結果を残した。「周りを見たらテレビに映っている強い選手ばっかりで緊張もありましたけど、練習自体はしっかりとできていたので勝負できると思っていました。あのメンバーで6位だったので自信になりまし、今の練習をしっかりやれば箱根でも通用するな、と思いました」と頼もしい。エース区間の2区を意識し、走れる準備はできている。

次期エースとして期待される山中

同学年では、ハーフマラソンの帝京大タイ記録を持つ福田に加え、前回3区の小林大晟(3年、鎮西学院)も、「第100回大会にふさわしい走りでチーム目標に貢献できるように頑張ります 」と当日メンバー入りをアピールする。

前回ルーキーながら4区区間12位と力走した柴戸も往路候補だ。4区は細かいアップダウンが続き、終盤には上りが待ち受ける難易度が高いコース。エース級を配置するチームが多い中、中野監督は柴戸を起用した。

最上級生になったら自分がチームを引っ張ると決意している柴戸は、「1年目から箱根を走ったからにはどの大会でもメンバー外にはなれない」と、自身を鼓舞して練習に励んできた。全日本は3区区間6位と好走した。「前をしっかり追う走りが強みだと思うので、箱根では1つでも順位上げられるような走りをしたいです」

柴戸はルーキーイヤーの箱根で4区を任された

1年生は大西柊太朗(仙台育英)と廣田陸(北海道栄)の2人がエントリーされた。箱根路の戦力は未知数ではあるが出走となればチームとしても貴重な経験を積めるだろう。

小野隆一朗ら4年生が集大成の走り

西脇とともに主軸を担ってきた小野隆一朗(4年、北海道栄)は、コロナウイルス感染後に体力が戻らず、予選会と全日本を欠場したが、11月の10000m記録挑戦競技会で復帰。恒例の伊豆大島合宿に参加せず、12月2日の日体大記録会に出場すると、10000m28分36秒68の自己ベストを更新し、今回メンバー入りを果たした。

箱根は2年連続で1区を任されている。「この4年間で積み上げてきたことを発揮し、最後は自分自身で100点満点と言えるような走りをできるように、精一杯やっていきたい」と意気込む。

小野は予選会、全日本は欠場したが箱根に向けて復調している

他の4年生も集大成のレースとなる。日本インカレの3000m障害で2022年優勝、23年準優勝の大吉優亮(4年、市立船橋)も自身初の出走をうかがう。前回9区の末次は「自分たちの走るこの大会が『強い帝京』を取り戻す足掛かりになるように、必ずシード権を奪還して走り切っていきたい」。前回アンカーだった日高拓夢(4年、鶴崎工)も「最後は有終の美を飾れるような走りをしっかりしたい」と力強く語った。

頼れる仲間がそろった今シーズンの帝京大。「駅伝競走部」の名にふさわしく、チームが一体となってシード権奪還に挑む。

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