陸上・駅伝

特集:New Leaders2024

大東文化大・西代雄豪「一番下のスタート」から努力重ね主将に、目標はすべて5位以内

大東文化大の新主将に就任した西代(撮影・藤井みさ)

大東文化大学の西代雄豪(にしだい・ゆうご、3年、桶川)は、駅伝で無名の県立高校から箱根駅伝で総合優勝4度の名門大学に進んだ。高校時代は5000mで15分30秒を切れなかったランナーが努力を積み重ね、年始の第100回箱根駅伝でついに箱根デビュー。今年度は男子長距離チームの主将を務め、3大駅伝すべて5位以上を目指すチームの先頭に立つ。

【新主将特集】New Leaders2024

入学時5000mの自己ベストは15分38秒

大学入学時、西代の5000mの自己ベストは15分38秒だった。同期の名簿を見ると、仙台育英などの名門校がずらり並んでいた。「一番下からのスタートになるということは覚悟していました。チームで一番下というより、箱根駅伝を目指すすべての大学の選手の中で自分が一番下。そこからはい上がるだけだなと。入ってから夏合宿の前ぐらいまでは、一つも練習についていけないぐらい、置いてけぼり状態でした……」と当時を振り返り、苦笑いする。

「箱根をめざすすべての選手で一番下」という志で入部した(撮影・小川誠志)

それでも西代は懸命に食らいついていった。大学1年の11月には5000mで初めて15分を切った。2年の春には、仙台育英を2019年の全国高校駅伝で優勝に導いた真名子圭氏が新監督に就任。新体制となって最初のポイント練習で、いつものようにBチームで走ろうとしていた西代に対し、真名子監督はAチームの練習に入るよう告げた。

「真名子監督が『お前のこの1年間の成長はOBとして外から見てきた。もっと成長できる。Aチームで力をつけていこう』という話をしてくれたんです。それからAチームに入って練習をするようになって、かなり練習が積めました」

6月の全日本大学駅伝関東地区選考会で出走メンバーに抜擢(ばってき)されると、西代は10000mを29分50秒12(1組4着)で走り切り、5大会ぶりの伊勢路出場に貢献。10月の箱根駅伝予選会ではチーム内6位の1時間4分22秒でフィニッシュ。チームは1位通過で4年ぶりに箱根駅伝本戦出場権を獲得した。11月には全日本大学駅伝にも出走し最終8区で区間16位。翌年明け箱根駅伝は5区の候補選手だったが、12月のエントリー直前に足を痛め、16人のメンバーに入ることはできなかった。

着実に力をつけ、2年時は全日本大学選手権のアンカーに起用された(撮影・小玉重隆)

「次こそは絶対に箱根を走る」と強い気持ちで臨んだ大学3年時は、さらに充実のシーズンを送ることができた。5000m(14分9秒00)、10000m(29分14秒27)、ハーフマラソン(1時間3分10秒)でいずれも自己ベストを更新。箱根駅伝予選会ではチーム内9位の1時間4分01秒でフィニッシュし、チームは2年連続のトップ通過を決めた。全日本大学駅伝では5区を走り区間6位と好走。今年の第100回大会でついに箱根デビューを果たした。

コロナ禍でインターハイが中止になり「次は箱根駅伝を」

中学までは野球少年。右投げ右打ちの外野手として白球を追いかけていた。高校は「家から自転車で通えて、学力的にもちょうど自分に合っていた」という桶川高校(埼玉)へ進学。高校では野球とは違うスポーツをやりたいと考え、長距離走が得意だったことから陸上競技部に入部した。ただ部員が少なく、1、2年の埼玉県高校駅伝には連合チームで出場。3年になってようやく人数がそろい、単独チームとして出場することができた。トラックでは3000mSCを専門種目にし、2年秋の新人戦で9分23秒15を記録し、関東大会優勝を果たした。

このとき大東文化大学の男子長距離監督を務めていた馬場周太氏から勧誘されたが、当初、西代の心は動かなかったという。駅伝の名門校で競技を続けている自分をイメージすることができなかったのだ。3000mSCで高3夏のインターハイに出ることが西代にとって最大の目標だった。

ところが高3になると、気持ちが変わっていった。コロナ禍の影響で3月以降は、部活動も学校生活も大きく制限された。インターハイを目指して1人で練習を続けたが、そのインターハイも中止となった。

「自分にとって一番の目標だったインターハイがコロナ禍でなくなってしまった。やりきれない気持ちが強くて。大東大から声をかけてもらっていたので、やれるところがあるんだから、次は箱根駅伝を目指して頑張ってみようかと思いました」

箱根駅伝予選会を走る西代(右端)。チームのトップ通過に貢献した(撮影・藤井みさ)

真名子圭監督「西代のカラーを作ってほしい」

たどり着いた箱根駅伝の大舞台は4区を1時間3分39秒で走りきり、区間18位。順位を11位から14位に下げてしまうほろ苦いデビューとなった。「楽しめる気持ちは全然なかったです。緊張して、走っていてとてもキツかった。全日本では区間6位で走れて、箱根でも区間上位を期待されていたと思うし、自分でもそのぐらいの走りができると思っていた中で、全く戦えなかった」と西代は悔しそうな表情で振り返る。

初の箱根駅伝は緊張からか、本来の力を出し切れなかった(撮影・佐伯航平)

チームは総合10位でフィニッシュし、9年ぶりのシード権を獲得した。箱根駅伝を終えた1月3日夜、西代は自ら男子長距離の主将に立候補し、真名子監督の承認を受けた。2年目から学年代表を務めていたこともあり、同学年の間で「自分たちの代の主将は西代」という雰囲気があったという。

「不安はありますけれど、やるからには次の代にしっかりつなげられるように、やっていきたい。箱根2区の久保田徹さん(聖望学園)、5区の菊地駿介さん(仙台育英)、6区の佐竹勇樹さん(比叡山)、箱根で主要区間を担ってくれた4年生がチームを救う走りをしてくれました。次は自分が4年生として、キャプテンとしてチームを救えるような走りをしたい」と意気込みを語る。

真名子監督も「西代は真面目で発言力もありますし、チームをまとめられる人間です。想定通りの人選でした。5000m15分38秒で入ってきて、コツコツ地道に努力して伸びてきた。彼なら、今Bチームで頑張っている子たちの気持ちも分かるんじゃないかと思うんです。今までのやり方にとらわれることなく、西代のカラーを作っていってほしい」と大きな期待を寄せる。

3大駅伝すべて走って区間5位以内を

西代の成長と歩調を合わせるように、大東文化大学は昨シーズン、全日本大学駅伝で18年ぶり、箱根駅伝は9年ぶりにシード権を獲得した。今年度のチーム目標は「5・5・5」。学生3大駅伝すべてで5位以内を目指す。大東文化大学が出雲、全日本、箱根のすべてに出場するのは2015年度以来のことだ。

最後の駅伝シーズンは個人もチームもすべて「5位以内」を狙う(撮影・小川誠志)

西川千青(3年、九州国際大付)、ピーター・ワンジル(3年、仙台育英)ら、第100回箱根駅伝経験者が7人残る。昨年の全国高校駅伝で1区9位と好走した大濱逞真(仙台育英)をはじめ、ルーキーたちも有力選手が多数加入。メンバー争いはさらに熾烈(しれつ)になるだろう。

西代の一番の長所は粘り強さだ。アップダウンにも強く「山の大東」の5区候補でもある。競技力が上がるとともに目線も上がり「もっと上を」と欲が出てきた。「チームの目標を達成するために、主将である自分は3大駅伝すべてを走って区間5位以内を目標にしています」

力強い口調で目標を語る姿が示している通り、名門の主将を務める覚悟は、すでにできている。

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