野球

低反発バットで野球は変わる? 今春から導入、選抜出場校の対策は…

開会式で一斉行進する選手たち(撮影・長島一浩)

 今大会から反発性能を低く抑えた新基準のバットが使用される。打球はこれまでより飛ばなくなり、高校野球の戦い方が変わるかもしれない。

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 「昨年までなら、スタンドに入っていたと思うんですけど」。そう苦笑いしたのは、14日の甲子園練習で左翼フェンス際まで打球を飛ばした星稜(石川)の萩原獅士(れお)選手だ。

 13、14の両日に実施された甲子園練習では、柵越えの打球を放った選手はほとんどいなかった。

 強打で知られる大阪桐蔭の西谷浩一監督(54)は「芯でとらえないと飛ばない。今はまだ戸惑っています」。京都国際の小牧憲継監督(40)は「外野の守備位置が4、5メートル前になるのではないか」と話す。

 各校の大会前の練習試合でもなかなか連打や長打が出ず、ロースコアの試合が多かったという。

 バットの基準が見直された主な理由は、投手のけがなどの事故を防ぐためだ。

 高校野球に金属製バットが登場したのは1974年。折れると使えなくなる木製バットよりも金銭的な負担が減る、という理由からだった。

 メーカーの開発競争で、その性能はどんどん進化した。さらに近年は筋力トレーニングによる選手のパワーアップも加わり、打球の速度や飛距離は増す一方だった。2017年夏の第99回全国選手権大会では、史上最多の68本塁打が生まれた。

 「打高投低」の傾向が強まる中、19年の全国選手権では投手がほおに打球を受けて骨折。練習試合で投手に打球が当たって死亡した事故も、過去に報告されていた。

 日本高野連による実験では、新基準のバットは従来より打球の初速が約3・6%落ちたという。安全性の確保のほか、投手の球数減など負担軽減につなげる狙いもある。

 この冬、選手たちは対策に力を入れてきた。大会連覇を狙う山梨学院は鉄の棒でタイヤをたたく練習を導入した。剣道の「メン」の要領で振り下ろす。球をとらえる瞬間の形を体に覚え込ませるだけでなく、握力も鍛えるのが狙い。4番打者の梅村団選手は「ひじから先の使い方が良くなり、低反発バットでも打球が伸びるようになった」と手応えを口にする。

 耐久(和歌山)はバットより細い金属製の棒でバドミントンのシャトルを打つ練習に取り組んだ。芯で確実にとらえるためだ。赤山侑斗主将は、「最初は当てることも難しかった」というが、今では連続して前に飛ばせるように。大会での成果を楽しみにする。

 大量点が望みにくくなるため、バントが増えるなど、戦術面にも変化が出るのか。広陵(広島)の中井哲之監督(61)は「より1点が大事になる。ポテンヒットも増えるかもしれないから、全力疾走など、走塁が大事になる」と見る。

 一方、創志学園(岡山)の門馬敬治監督(54)は意に介さない。「つまようじみたいに細くなったり、重さが2キロになったりするわけじゃない。ちゃんとやれば飛距離も出る。必要ならバントもするけど、それはバットのせいじゃない。人間は慣れるもの。1年もたったら誰も言わなくなるよ」

=朝日新聞デジタル2024年03月18日掲載

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