陸上・駅伝

特集:New Leaders2024

東海大・梶谷優斗 同期から引き継いだ主将の座「越はラスト、競技に集中してほしい」

同期の越陽汰から主将の座を引き継いだ梶谷優斗(撮影・佐伯航平)

東海大学は梶谷優斗(4年、滋賀学園)が駅伝主将となり、2024年度のシーズンをスタートさせた。昨年度、3年生ながら主将を務めた同期の越陽汰(4年、佐久長聖)からバトンを引き継ぐ形で就任。今年度のチーム目標は、箱根駅伝5位以上。「今のままでは難しいけれど、全員で同じ方向を向いていければ、必ず達成できる」と語る梶谷が、東海大を再び強い集団に押し上げる。

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箱根駅伝6区で力走も、シード権に一歩届かず

今年1月の箱根駅伝で、東海大は1区の兵藤ジュダ(3年、東海大静岡翔洋)が5位と上々のスタートを見せたが、5区で大きく順位を落とし、16位で往路を終えた。巻き返しを図った翌日の復路で意地の走りを見せたのが、当日変更で6区に入った梶谷だった。

16校による一斉スタートで実際の順位はわかりづらかったはずだが、梶谷は「自分のところでシードまで行きたい」と前だけを見据えて、箱根の山中を力強く駆け下りた。59分06秒の区間9位でチームは11位へ。その後、8区でシード圏内に入ったものの、最終10区で逆転を許し、総合11位でフィニッシュ。3年ぶりのシード権獲得には、あと一歩届かなかった。

今年の箱根は6区で順位を五つ押し上げたが、チームはシードを逃した(撮影・佐伯航平)

「順位を上げた点ではよかったですが、区間順位もタイムも目標には全然届かなかったので、まだまだ力不足でした。チームとしてもシード権を狙っていた以上、目標を逃してすごく悔しさが残る大会になりました」

そう振り返る梶谷は箱根駅伝後、「長い距離を1本やる」という考えで、2月の熊日30kmロードレースを目指した。しかし「疲労があったり、なかなか練習ができなかったりした」ことから途中棄権に終わり、「またリセットして距離を踏む」などの取り組みをしながら3月を過ごした。

滋賀学園で学んだ「キャプテンによってチームは変わる」

中学時代はクラブチームで野球をやっていた。3年生の時、駆り出されて出場した駅伝で「たまたま速く走れた」ことが楽しく、それが高校で陸上を始めるきっかけとなった。滋賀学園での3年間は「とにかくきつかった」思い出ばかりがよみがえる。

「練習もきついですし、顧問の大河亨先生は陸上に対する向き合い方がしっかりされていたので、本当に厳しく鍛え上げられました。楽しかったことももちろんありましたが、苦しかったことの方が圧倒的に多かったです」

日々鍛錬を積み重ね、梶谷は全国高校駅伝に2度の出走を果たした。3年生だった2020年にはエース区間の1区で6位と好走。入学時に掲げた「チームは都大路で8位入賞」という目標には届かなかったものの、「区間上位で走る」という個人目標はきっちりとクリアした。

「高校のトップ選手たちと積極的に競い合えたのは大きかったですし、大学に入るという点でもプラスに働いたと思います」

本格的に陸上を始めたのは高校から。滋賀学園では「本当に厳しく鍛え上げられた」(撮影・藤井みさ)

3年生のときはキャプテンも経験し、多くのことを学んだ。

「自分の発言や行動一つで、チームがいい方向にも悪い方向にも動く。その意味でキャプテンによってチームは変わると強く感じました。一番気をつけないといけないのは自覚と責任というのが、キャプテンをやって学べた部分です」

「練習についていけばいい」→「絶対に強くなる」

2021年、梶谷は東海大に進学した。19年の箱根駅伝で初優勝を飾り、20年にも2位に入った当時の東海大は、学生長距離界の中で最も勢いのあるチームと言ってよかった。

「スピードがあって、トップレベルの争いが当たり前の大学」という印象を持っていた梶谷は、当時について「入学した頃は練習もきつかったですし、初めての寮生活もなかなか慣れませんでした」と振り返る。「絶対に自分は通用しない」とさえ思っていた。

それでも次第に「東海大学でやっている以上、責任と自覚を持ってやらないといけない。絶対に箱根駅伝で活躍する」と意識が変わっていった。1年目の11月には10000mで28分27秒77をマークし、2年目の活躍へとつなげていく。

3大駅伝デビューの全日本は、ほろ苦い思い出となった(撮影・浅野有美)

全日本大学駅伝(2区18位)で学生3大駅伝デビューを果たし、箱根駅伝の舞台にも立った(1区19位)。しかし、好調だったトラックシーズンから一転「駅伝シーズンに入って、調子が上がらなかった。波があるので、まだまだだなと痛感した」。
両角速監督からはよく、「どういう練習をするかより、どういった気持ちで練習をするかが大事」と言われていた。それまでの梶谷は「練習についていけばいい」とメニューをこなすことばかり考えていたが、2年目が終わったあたりから、「絶対に強くなる」と、より意欲的に練習に取り組むようになった。

すると、3年目は5月の関東インカレ10000mで28分37秒32をマークし7位入賞。夏合宿で故障したことが響き、箱根駅伝予選会で思うように走れなかったこともあったが、箱根本戦では「出たくても出られない部員がたくさんいる。上級生として頑張ろう」と、芽生えた責任感が力走を後押しした。

人と同じことをやっていても、強くならない

2024年度のチームを始動させるにあたり、学年ミーティングで幹部に関する話し合いが行われた。「この1年、悔いが残ったから次も俺がやる」と言った越が2年連続でキャプテンを務めるのが自然な流れにも思えたが、梶谷の考えはそうではなかった。

「越はすごく考えてやってくれるヤツなので、昨年度はチームのことも自分のことも考えて大変だった。あいつは駅伝でも絶対に活躍しないといけない存在。ラスト1年は競技に集中してもらい、自分にキャプテンをやらせてほしいと伝えました」

両角監督や越、チームメートから了承を得た梶谷は、こうして主将に就任する。どのようにチームをまとめていくかの方向性はイメージできているという。

「高校の頃からの考えで、キャプテンによってチームは変わると思っています。話すことは苦手なので、背中でしっかりと見せて、ガンガン引っ張っていこうかなと。練習や試合ではもちろん、それ以外の行動でも自分が率先して動いていきたいです」

背中で見せるキャプテンを目指す(撮影・小野哲史)

ミーティングでは「トラックシーズンから駅伝のことを頭の片隅に置いて取り組んでいこう」と話した。

「人と同じことをやっていても強くならないですし、成長はありません。ジョグではしっかりとアップダウンの多いところを走る。トラックで10000mの自己ベストが出たら、駅伝でもそれくらいのタイムで10kmを通過する。一人ひとりがそういう意識づけをしてから夏合宿に入ろうと、みんなに伝えました」

梶谷個人としては、「トラックシーズンでは10000m27分台や5000m13分30秒台を目指しながら、関東インカレで優勝する。最終的には箱根の6区で区間賞を取りたいです。東海大は山が課題で、一度経験している自分が走って勢いづけたい」と考えている。

今の東海大に箱根駅伝でシード権獲得の喜びを知る者はいない。ただ選手の顔触れは強豪校に決して引けを取らない。梶谷のキャプテンシーはそうした選手たちを束ね、チームを上昇気流に乗せる可能性を秘めている。

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