陸上・駅伝

特集:第100回箱根駅伝

東海大学・越陽汰と石原翔太郎が箱根駅伝で復帰? 両角速監督「やっと役者がそろう」

笑顔で東海大を表す「T」のポーズを取る主将の越(左)とエースの石原(撮影・小野哲史)

かつての強い東海大学を取り戻す。そんな決死の覚悟から、今年度は「復活の狼煙〜返り咲け東海〜」をスローガンに掲げた。持ち味のスピードを磨きつつ、年間を通して多くの者が自己記録を更新してきた。エントリーメンバー上位10人の10000mの平均タイムは28分32秒14。駒澤大学、青山学院大学、中央大学に続いて4番手につけている。12月13日に湘南キャンパスで公開練習と合同取材が行われ、両角速・駅伝監督とエントリーされた16人の選手たちが箱根に向けた意気込みを語った。

【特集】第100回箱根駅伝

復活望まれる「駅伝力が高い」エース

箱根駅伝予選会は10位通過。全日本大学駅伝は9位で2020年以来となるシード権獲得とはならなかった。駅伝シーズンの結果だけを見れば、東海大は大丈夫だろうか、と不安視する向きもあるかもしれない。

しかし、二つのレースに出場しなかったエースの石原翔太郎(4年、倉敷)と主将の越陽汰(3年、佐久長聖)がエントリーメンバーに名を連ね、チームにはポジティブな雰囲気が漂っている。両角監督の言葉からもその思いが見て取れる。

「彼らはチームのエースであり、キャプテンですから、(戻ってくると)存在感が全く違いますね。予選会と全日本は2人が欠けた中での戦いだったので、やっと箱根で役者がそろうなという感じはします」

指揮官が「駅伝力が高い」と評する石原は、全日本と箱根で見事な実績を残してきた。前回の箱根では、エース区間の2区で9人抜きの大活躍をみせ、昨年の全日本3区でも区間賞を獲得。その前年、2年生だったシーズンは故障で駅伝を走ることができなかったが、1年生の時の全日本は4区で区間賞(区間新)に輝き、箱根も3区区間賞の快走をみせた。

最終学年となった今年度は、5月の関東インカレ1部5000mで2位。8月のFISUワールドユニバーシティゲームズ5000mでも4位に入るなど、トラックシーズンから活躍した。夏合宿の終盤に足底を痛め、それが予選会や全日本欠場の要因となったが、現在は快方に向かっているという。

関東インカレ男子1部5000mで石原は順天堂大学の三浦龍司(右)に続く2位(撮影・藤井みさ)

「2カ月ぐらいで良くなりましたが、再発してまた痛みが出てしまいました。それが治って走り始めたのが12月1日。今は痛みもなく順調にできているので、残りの期間でしっかり復帰できるように頑張りたいです」

10000mで28分05秒91を持ち、駅伝で外さない信頼感がある石原がいるといないとでは、チームの戦略は大きく変わってくるはずだ。

越陽汰を突き動かした「このままじゃいけない」危機感

越は15位に終わった前回の箱根後、新チームが始動する際、新たな駅伝主将に立候補した。中学や高校時代にキャプテンの経験はないが、「本当にこのままじゃいけない」という危機感が、当時まだ2年生だった越を突き動かした。

「何かを変えないといけないと思いました。チームが変わるためには、上の学年でも下の学年から何か言われた時にしっかり聞いてくれる学年であってほしいなと。僕が東海大学に入ろうと思ったきっかけは、95回の箱根駅伝で優勝した姿を見たこと。本気でそこに戻したいという気持ちがあるので、2年かけて頑張っていくつもりです」

箱根で越は1年生の時に7区区間3位、2年生で4区区間9位と、安定した走りを見せてきた。3年生主将としてスタートした今年度は、「トラックでもロードでも活躍したい」と考えていたが、「キャプテン業や自分自身の持病で、思い通りにいかないことの方が多かった」と明かす。

前回の箱根駅伝では4区を任された越(左、撮影・北川直樹)

主将としては、「チームとして目指すものがある時は一つになってほしい」と呼びかけ、力強くまとめてきた。その一方で、めまいと吐き気が繰り返し起こるメニエール病には苦しまされた。昨年9月に発症した頃よりだいぶ良くなったものの、今年も単発で症状が出ることがあったという。

それでも両角監督は、「非常に責任感があって、『佐久長聖ではこうやったらトップになれる』というようなものはたたき込まれている。彼の中にそれが軸としてあって、『みんなもこうやっていこう』と自分の経験をきちんとフィードバックできる選手です」と、越のキャプテンシーを高く評価する。

予選会や全日本は応援しかできなかった自分に歯がゆさを感じながらも、「これまで苦しんだ部分は奮起する材料になっています。今年最後の箱根駅伝を走ることで、結果で見返してやろうと思っています」と越。箱根に懸ける思いをより一層強くしている。

花岡寿哉・兵藤ジュダ・鈴木天智、勢いある2年生

エースや主将の復帰ばかりがクローズアップされるが、今年度の東海大は春のトラックシーズンから好調だった。関東インカレの1部10000mでは花岡寿哉(2年、上田西)が日本人トップの2位、梶谷優斗(3年、滋賀学園)が7位入賞。6月の全日本大学駅伝の関東地区選考会は危なげないレース運びで3位通過を果たした。

今チームで最多の6人がエントリーされた2年生には特に勢いがあり、前回の箱根で3区を区間6位で快走した花岡は、この1年間、「主力選手の自覚を持ってトレーニングしてきた」と話す。「4月から良い流れに乗れていましたが、後半シーズンは納得いくレースがあまりできていません。でも、箱根では前半区間で勝負して区間賞を狙っていきたいです」

両角監督は夏以降に勢いがあった選手として、11月に10000mで28分14秒75をマークした兵藤ジュダ(2年、東海大静岡翔洋)、箱根予選会でチームトップだった鈴木天智(2年、一関学院)の名前を挙げた。「兵藤はここのところ、走るたびにワンランク上のパフォーマンスを見せてくれていますし、鈴木は思い切っていける気持ちを持っています」と、成長著しい2人に大きな期待を寄せる。

他にも、石原と同じ倉敷高出身のルーキー南坂柚汰は、「石原さんや一つ上の代の強い先輩たちが目指しているものに貢献していきたい」と初の箱根駅伝出場に向けて闘志を燃やす。

花岡(前列中央)を中心に2年生に勢いがある(撮影・小野哲史)

シード返り咲きは「石原の出来次第」

11年連続51回目に挑む今大会の目標は、シード校への返り咲きだ。両角監督は現時点で次のようなレースプランを描いている。

「石原の出来具合によるかなと。仕上がりが良ければ、前にいる者を追って抜くというのが彼の駅伝スタイルですので、それを実現できる区間を考えると、復路かどうかは別として、少し後ろの区間への配置になるという感じはしています。そこまでは若い力を投入し、勢いを持って襷(たすき)リレーをしたいですね」

下級生のポテンシャルは、95回大会で初優勝した時に「黄金世代」と呼ばれたメンバーに勝るとも劣らない。今大会でシード権をつかみ、来年度は優勝争いに加わり、2年生が最上級生となる102回大会で再び頂点へ――。東海大の逆襲のストーリーがくっきりと見えてきた。

2021年以来となるシード権獲得を狙う(撮影・小野哲史)

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