陸上・駅伝

特集:第99回箱根駅伝

東海大・石原翔太郎 がむしゃらさに加わった慎重 両角速監督「2区で勝負させたい」

シード権獲得をめざし集団で走る東海大学の選手たち(撮影・上原伸一)

「今年は石原(翔太郎、3年、倉敷)がいる」。両角速監督は強調した。昨年はけがに泣いた石原は今年の全日本大学駅伝で3区を任され33分48秒。区間賞で完全復活を印象づけた。「石原翔time」を演じるとともに「外さない男」であることを証明した。箱根ではエース区間の2区を石原が走り、1区起用が予定されているルーキー・花岡寿哉(ひさや、1年、上田西)とともに、往路でいい流れを呼び込む。

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高校1年で練習への意識が変わった

石原は「外さない男」だ。1年時は3大駅伝初出走になる全日本の4区で、区間新区間賞という鮮烈デビュー。続く箱根で3区を走り、2大会連続で区間賞を獲得した。出場すれば必ず結果を出す。圧巻のルーキーはチームの「5位内確保」に大きな貢献をした。

2年ぶりの箱根路となる石原翔太郎(撮影・浅野有美)

出場したレースは外したくない。その思いが強くなったのが高校1年の冬だ。

「それまではよく外していたんです。もう外したくないと、練習の質を高めるとともに、常に試合を想定した練習をするようにしました」

いくら追い込んでも、試合につながらなければ意味がない。石原は高校1年で気がつき、練習に対する意識を変えた。

両角監督いわく「辛抱強い性格」。心に決めたことを積み重ねていける力もあった。全国高校駅伝で2年時は6区で2位、3年時はエース区間1区で5位と健闘した。

順風満帆だった競技生活が一変したのが昨年。石原は恥骨結合炎と大腿(だいたい)骨の疲労骨折で長期離脱し、駅伝の出走もなかった。

だが今年、復活を遂げる。

本格的な復帰戦となった今年7月のホクレンDC千葉大会では、5000mで自己ベストを更新。

持ち前の外さないところを見せつけると、箱根予選では個人47位と不本意だったものの、全日本で3区区間賞。大舞台ではきっちりと結果を残した。 

その裏にはつらい日々があった。両角監督はこう振り返る。

「夢や希望しかなかったところから一気にどん底に突き落とされた。石原からすれば、そんな感じだったと思う。それも1カ月や2カ月でなく。1年間、我慢しなければいけなかったので。走れなかった日々の中では自信を失っていくところもあったかと。私ももちろんずっと気に掛けてはいましたが、『どうだ?』『まだか?』とは言わないようにしました。本人が一番治したいわけだから。治療院や病院に連れて行ったり、現状に適したトレーニング方法を教えたりはしたが、石原との距離感を上手く保つよう心がけていた」

 復帰に関しても、細心の注意を払ったという。

全日本で2区の梶谷優斗から襷を受け取る3区の石原翔太郎(右、撮影・浅野有美)

田澤廉や近藤幸太郎らと「勝負させたい」

全日本では復活を印象づけたが、両角監督は故障する前との変化を感じ取っている。

「とても慎重になっている。夏合宿の時も従来の、がむしゃらさがなかった。1年間のブランクがトレーニングの姿勢を変えたのだろう。全日本の入りもとても慎重だった。いつもなら一気にいくのだが、かなり抑えていた」

石原は1年間走れなかった中で、がむしゃらさだけでは戦っていけないと考えたのかもしれない。ただ、箱根が迫るにつれて、1年生の頃のがむしゃらさが顔をのぞかせるようになっているという。

自身2度目の箱根では、頭を使って上手に走るのか? それとも本来のスタイルで走るのか? 本人はまだ試行錯誤しているようだ。両角監督は前者を選択しても、積極的に攻める姿勢は大事にしてほしいと思っている。

両角監督の石原に対する期待は大きい。

そうそうたる面々が並ぶ東海大の10000mの10傑では、現時点で4番目(28分05秒91)だが、「卒業までにトップの村澤明伸(現・SGホールディングス)の記録(27分50秒59)は抜けるはず」と言う。

力量を買っているからこそ、箱根では3区か6区を希望している石原を2区で起用したいと考えている。 

「3区を走りたいのは1度走っていて、区間賞も取っているからでは。2区と言わないのは、あまり得意ではない上りがあるからだろう。でも私たちスタッフはやはり2区で勝負させたい。駒澤大学の田澤廉(4年、青森山田)や、青山学院大の近藤幸太郎(4年、豊川工)の出走が予想されるエース区間で、彼らと対決させたい。今度の箱根が最後のチャンス。もし同じタイミングで襷(たすき)をもらえたら、より価値のある対決になる。石原のこれからの競技人生においても、間違いなく貴重な経験になる」

「将来のエース候補」花岡寿哉(撮影・浅野有美)

 未知数のルーキーに監督「賭けてみたい」

箱根に向けた記者会見で多くの記者たちに囲まれていた石原。その様子をうらやましそうに見つめていたのが、1年生の花岡だ。両角監督が「将来のエース候補」と位置づける選手である。

 高校時代は全国的には無名だった、いや、全国で戦うチャンスをコロナに奪われたと言える。5000mでは同世代でナンバー3となるタイム(13分48秒29)を持つ。これは高校歴代でも16位。チームに合流してからはけがが長引いたが、9月の日本インカレ5000mで6位入賞。その走りが両角監督に認められ、全日本では1区に抜擢(ばってき)された。

 チーム唯一の1年生として伊勢路を走った花岡は区間7位。まずまずの走りを見せた。両角監督は花岡を、箱根でも1区で起用する構想を持っている。とはいえ、高校時代もコロナに泣かされて駅伝経験は少なく、走ったのは1区のみ。箱根の予選会も出場しておらず、ハーフマラソンも未経験だ。

どこまで長い距離に持ちこたえることができるか……。花岡の1区起用は一つの賭けになる。

それでも両角監督は彼に託したいという。「そういう選手、賭けてみたい選手なんです」

花岡には負けたくないライバルがいる。箱根で「大学駅伝三冠」達成を狙う駒澤大学の山川拓馬(1年、上伊那農)だ。駅伝デビューとなった全日本ではいきなり4区で区間賞。1年生ながら3連覇に貢献した。

 「山川は中、高と競ってきた選手です。彼だけには絶対、という思いは強い」

 憧れは先輩の石原。テレビで見た大学1年時の箱根での疾走は、今も脳裏に焼き付いている。

 「来年は僕も記者に囲まれる選手になります」。「なりたい」ではなく、「なります」。柔和なその目が輝いた。

 「外さない男」と「未知数のルーキー」。2区の石原と1区の花岡が往路にいい流れをもたらせば、チームは一気に勢いづくはずだ。

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