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特集:New Leaders2024

明治大学・中村草太 主将でありエース、圧倒的な活躍で「明治発、世界へ」の実現へ

明治大の今季主将を務める中村草太(提供・関東大学サッカー連盟/飯嶋玲子)

強い風が吹く3月、明治大学の八幡山グラウンドに掲げられた「明治発、世界へ」の横断幕がはためいていた。昨年7月、当時4年生の佐藤恵允(けいん)が在学中にドイツの名門ブレーメンと契約を結び、大学のシーズン途中にヨーロッパへと羽ばたいたばかり。渡欧したエースから背番号10を受け継いだ中村草太(4年、前橋育英)は、練習場に目を向けてしみじみと言う。

「恵允さんは『明治発、世界へ』を実現しましたからね。一緒に練習するなかで、多くのことを吸収させてもらいました。お手本となるプレーを目の前で見せてくれたので」

鬼気迫る顔で貪欲(どんよく)にゴールへ向かい続け、仲間を鼓舞していた。ふと思い返すと、懐かしそうに顔をほころばせた。「対戦相手は嫌だったはずですよ。怖いプレーしていましたから。あの強い気持ち、メンタルも見習うべきところでした。正直、恵允さんがいたから、僕もここまで成長できたと思っています」

グラウンドに掲げられた「明治発、世界へ」の前で(撮影・杉園昌之)
【新主将特集】New Leaders2024

昨シーズン、得点王とアシスト王をダブル受賞

昨夏、サイドハーフからフォワードに持ち場を移した中村は、大学サッカー界の主役に躍り出た。2023年の関東大学1部リーグで16ゴール、12アシストをマークし、得点王とアシスト王をダブル受賞。冬のインカレでは優勝の立役者となり、MVPを獲得した。最終学年を迎える今季は主将に就任。自ら背負った大きな責任をひしひしと感じている。

「明治はプロの養成所ではなく、人間形成の場です。後輩たちのお手本となる存在にならないといけません。口で言うのは、誰でもできます。まず自らが行動で示すこと。ピッチの中でも外でも、立ち振る舞いは意識しています。背中で見せるキャプテンでありたい」

中学生時代の前橋FCでキャプテンを務めた経験はあるものの、大学ではまるで勝手が違う。ミーティングをはじめ、人前で話すことも多い。慣れないスピーチに戸惑い、まだ思うようにはいかないが、必死にもがく。苦労も含めて、すべて前向きにとらえている。

「大学最後の1年は、これまでの3年分以上の経験が積めるかもしれません。新たに成長する機会をもらったなと思います。自分から逃げず、自分に負けないかどうかに懸かっています」

3年目は自身にとって飛躍のシーズンとなった(提供・関東大学サッカー連盟/飯嶋玲子)

ヘディングからの得点力向上へ、同期からも学ぶ

エースストライカーの顔も持ち、ピッチ内で求められるものは大きい。多くのプロ関係者が目を光らせ、メディアを含めた周囲も騒がしい。対戦相手には警戒され、マークも一段と厳しくなる。注目度の高さはプレッシャーであり、モチベーションでもある。その背中にかかる期待は、誰よりも本人が自覚している。

「自分は前線の選手なので、より結果にこだわりたい。昨季のリーグ戦16ゴールは、出来すぎだったかもしれないですが、昨季以上の数字を目指さなければ、成長はありません。最初から超えられないと思うのか、超えていくぞという気持ちで臨むのか。前者と後者では全然違います。圧倒的な違いを見せてこそ、明治の10番だと思っています」

力強い言葉の一つひとつに覚悟がにじむ。目下、取り組んでいるのは、さらなる得点パターンの確立だ。代名詞のスピードを生かした裏への飛び出しに磨きをかけ、クロスからのシュート練習にも励んでいる。昨季の全ゴールを振り返れば、気づくことがあった。

「ヘディングでのゴールが1点もなかったんですよ。自分の記憶では公式戦で決めたのは、高校2年生のプリンスリーグが最後だと思います。確か東京ヴェルディユースとの試合でクロスから取ったゴールでした。逆に言えば、そこはまだ伸びしろかなと。ヘディングシュートを練習すれば、もっと点が取れるはずです」

さらなる得点パターンの確立をめざしている(撮影・杉園昌之)

身長は168cm。大学リーグでも小柄な部類に入るが、上背の低さを言い訳にするつもりはない。参考にしている点取り屋は、日本代表FWの古橋亨梧(セルティック=スコットランド)、上田綺世(フェイエノールト=オランダ)などプロの世界には数多くいる。ただ、いま中村が注意深く目で追うのは、最も身近な同期である。八幡山で切磋琢磨(せっさたくま)する166cmの熊取谷一星(4年、浜松開誠館)が、ヘディングからゴールを奪うシーンを何度も目撃しているという。

「身長は僕よりも低いのによく頭で点を取っている印象が強いんです。ゴール前での動き出し、クロスに入るタイミングなどを見て、参考にしています」

「もっと頑張らないと」と思わされた新井悠太の存在

盗めるものは盗む。ピッチ内でも仲間を牽引(けんいん)する主将は得点能力を向上させ、すべてのタイトル奪取をチーム目標に掲げる。昨季の関東大学リーグは3位でフィニッシュ。インカレこそ制覇したものの、夏には屈辱を味わった。総理大臣杯の本大会出場権を懸けたアミノバイタルカップ(関東予選)でまさかの初戦敗退。延長戦で逆転負けを喫した城西大学(当時3部)戦は、今も悔しさとともに心に留めている。

「日常に甘さが生じれば、試合の最後に出てしまう。日々の練習を120%で取り組まないといけない。あの敗戦を糧に、より神経をとがらせ、トレーニングに集中するようになりました。その成果がインカレ優勝につながったと思っています。先を見ずに1日の練習、目の前の試合に全力を注ぐことは、今季も意識していきたいです」

自身と仲間のゴールで今季もたくさん歓喜の輪を作りたい(提供・関東大学サッカー連盟/飯嶋玲子)

大学ラストイヤーに懸ける思いは強い。明治大の主将でエースでもあるが、一人のフットボーラーとしての感情も持っている。昨シーズン、中村が大学サッカー界で八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍を見せるなか、かつて前橋育英高でともにプレーした同学年の新井悠太(東洋大学)はプロのピッチで大きなインパクトを残した。東京ヴェルディの特別指定選手となり、Jリーグのデビュー戦で初ゴールを挙げると、国立競技場のJ2首位攻防戦でも1アシストをマーク。画面越しに眺めた旧友のプレーを思い返すと、複雑な表情になる。

「自分は自分と言いたいところですが、悔しかったですよ。悠太とは小学校時代から県のトレセンでともにプレーし、中学校(前橋FC)、高校もチームメート。育英時代は僕が試合に出ていて、悠太は出場機会が限られている立場でしたから。それなのに自分よりも早く大舞台であんなプレーを見せられて……。僕ももっと頑張らないといけないと思いました。めちゃめちゃ刺激になっていますね」

負けず嫌いな21歳の素直な思いである。胸の奥には、大きな野心がある。「明治発、世界へ」。継続は力なり。大学で圧倒的な活躍を続けることで、その先にJリーグ、そして海外への道も見えてくる。かみ締めるように、自らに言い聞かせた。

「この1年、この1日を大切にしていきたい」

控えめな言葉には力がこもっていた。2024年のリーグ幕開けとなる東海大学戦は4月7日。始まりは八幡山グラウンド。飛躍のシーズンが、まもなく始まる。

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