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特集:New Leaders2024

慶應義塾大・本間颯太朗に、めざす主将像はない「目標があると、そこを超えられない」

2季連続日本一をめざすチームの主将になった本間(撮影・井上翔太)

今春、2季連続の大学日本一がかかる慶應義塾大学で、主将番号の「10」を背負うのが本間颯太朗(4年、慶應)だ。昨年からのけがの影響で、新チーム結成後の実戦復帰は3月下旬と出遅れたが、部員一人ひとりに寄り添いながら、持ち前のキャプテンシーを発揮している。

【新主将特集】New Leaders2024

生まれ持ったリーダーとしての資質

リーダーとしての資質は生まれ持ったものなのだろう。本間は小学生の頃から、いつも輪の中心にいた。奈良・生駒ボーイズに所属していた中学時代は副主将、慶應高校では主将を務めた。ただ、苦い経験もある。自身初キャプテンとなった高校時代は、そのリーダーシップが空回りしてしまったという。

「声を出して、『氣』を前面に出すのが僕のスタイルなんですが、それを押しつけ過ぎてしまって……。チームがうまく機能していなかった原因にもなりました」

生駒ボーイズでは、同期の井上朋也(現・福岡ソフトバンクホークス)らとともに全国の舞台を経験した。地元・関西の強豪校からも声がかかっていたが、「東京六大学でプレーし、将来的にはプロに進みたい」と、奈良から500km以上離れた慶應高校に入学。野球に費やす時間が多かった中でも授業に集中するなど、勉強もおろそかにせず、難関校の合格を勝ち取った。

慶應高校では1年秋から三塁のレギュラーに。2年夏は東海大相模高校との一戦で、当時から1年先輩にあたるスラッガーの廣瀬隆太(現・福岡ソフトバンクホークス)が1番を打ち、本間は4番を任された。

覚悟を持って野球に打ち込み、結果も出していた。それだけに、他の選手を自分のレベルまで引き上げたい気持ちがあったようだ。だが、誰もが本間と同じようにはできない。野球への向き合い方も人それぞれだ。「高校時代は視野が狭かったですね。そういうことに気づけず、一人ひとりを尊重していませんでした」

東京六大学でプレーすることを夢見て、慶應にやってきた(撮影・井上翔太)

変えるのではなく、自立を促していく

大学に入ってから考えが変わっていった。慶應義塾大は例年、4学年を合わせると部員が200人近くに及ぶ。バックグラウンドは様々で、「頑張る形」も部員の数だけある。それを目の当たりにして、視野が広がったという。

加えて3年春までレギュラーになれなかったことで、謙虚にもなった。

「頑張ってもうまくいかない状況になって、その気持ちが分かりました。思えば高校のときは、頑張っている選手に、もっと頑張れと言ってましたね」

大学でも1年からレギュラーになっていたら、うまくいかない選手の気持ちが分からないままだったかもしれない。

大学ではこれまで3人の主将に接してきた。3学年上の福井章吾(現・トヨタ自動車)、2学年上の下山悠介(現・東芝)、そして前主将の廣瀬である。本間は「主将の姿がそのまま各代の特色になってました」と振り返るが、高校時代の経験も踏まえ、自分がチームや他の選手を変えられるとは思っていない。

「慶應は自立をモットーにしてますし、変えるのではなく、各自が自立して行動するのを促していければ、と」

ただし、自分まで取り繕うようなことはしないつもりだ。あくまでも自分らしく「もちろん『氣』を前面に出すスタイルもそのままでいきます」

「氣」を前面に出すプレースタイルを貫く(撮影・井上翔太)

バットとグラブへのこだわり

本間は167cm、73kgと大柄ではないが、高校通算で38本塁打を放ち、長打力を秘める。昨秋は立教大学2回戦での2発を含む、計3本塁打をマークした。体格に恵まれていなくても遠くに飛ばせる。その理由は、コンタクト能力の高さにあるようだ。

「バットの芯に当てることには自信があります。よく『練習と試合のスイングが変わらない』と言われるのですが、めいっぱいバットを振ってもコンタクトできるのが、自分の持ち味だと思ってます」

社会人経由でプロをめざしている本間は、決して体が大きくない分、技術を高める必要があると考えている。「技術に体の大きさは関係ないからです」

プロでは山川穂高(現・福岡ソフトバンクホークス、176cm)や、森友哉(オリックス・バファローズ、170cm)といった、上背が高くなくても出力が大きい選手の動画を参考にしているという。

「特にバットの出し方ですね。一番強いインパクトを迎えるために、どのようにバットのヘッドを加速させているか。そこを参考にしながら、自分に合う感覚を探っています」

最大の出力を発揮するために、バットにもこだわっている。重量は870gと平均的だが、重心が先端近くにあるトップバランスで、グリップが細い。バットのヘッドを走らせるためのハンドリングを重視しているためだという。

用具へのこだわりはグラブにもある。主将になってからすぐに新調した三塁手用のグラブは、指の部分が平均的なモデルより1cm長く、捕球面がかなり深い。「速い打球が飛んでくるサードでは、まずグラブにボールを収めることが大事なので」

本間の三塁手用グラブは捕球面が深いのが特徴だ(撮影・上原伸一)

チームを引っ張る上でプラスになった、けがの期間

レギュラー定着2シーズン目となった昨秋、本間は3本塁打に加え、リーグ5位の打率3割4分をマーク。神宮大会でも4試合で4本のヒットを放ち、存在感を見せた。飛躍の秋となったが、実は夏のオープン戦で左肩を脱臼してしまったという。

「スローイングはできるので、テーピングを巻いて出場してました」

その影響もあり、新チーム結成後にようやく実戦復帰できたのは、開幕まで3週間を切った3月24日。主将就任後は、グラウンドでチームを引っ張ることができなかった。それでもこの期間は、チームを引っ張る上でプラスに働いたようだ。

「自分がプレーできない分、チームを俯瞰(ふかん)で見られましたし、コミュニケーションの機会も増えました。それによって、『この選手はこういう考えでプレーしているのか』といった、いろいろな気付きもありました」

本間は主将になってから常に、チームが日本一になるにはどうすればいいかを考えている。もちろん1人の選手として貢献したい思いも強いが、主将として最優先すべきはチームであり、たとえ自分が開幕に間に合わなくても、日本一の確率を1%でも高める行動をしていくつもりだ。

左肩脱臼のけがも癒え、プレーと姿勢でチームを引っ張る(撮影・上原伸一)

社会人野球の監督としても様々なリーダーを見てきた堀井哲也監督は、本間を高く評価している。

「キャプテンシーを持ってます。それと理解力もある。私が言ったことも真意はどこにあるのか、すぐにつかめるんです。自己分析もできますし、大人だと思いますね」

本間にはめざしている主将像はない。「目標があると、そこを超えられないですからね」。秋春連続の日本一へ。KEIOの背番号「10」は自分らしくチームを牽引(けんいん)する。

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