清原正吾は「清原ジュニア」から脱した 慶應義塾大・堀井哲也監督に聞く成長ぶり
選手を見る目の確かさに定評がある慶應義塾大学の堀井哲也監督。その目に今季「ブレークの予感」を感じさせているのが、清原正吾(4年、慶應)だ。プロ通算525本塁打の大打者・清原和博さんの長男としても注目されるスラッガーに期待する理由を聞いた。
Bチームから自力ではい上がってきた
昨秋までの監督在任8季で、2度の日本一と3度のリーグ優勝に導いている名将は、選手の変化に敏感だ。「バッターなら、ワンスイングで変化に気が付くことが多いですね」と話す。
そんな堀井監督が「大きく変わった」と見ているのが、清原である。「心技で180度くらい変わりましたね。成長しました。どうしても『清原ジュニア』という見方をされますが、そこから脱皮したように感じてます」
清原は昨春、法政大学との東京六大学リーグ開幕戦で初めてスタメンに名を連ね、3回戦で初ヒットをマークした。だが、2カード目となる明治大学戦は先発を外れ、同4回戦での代打出場を最後にBチームへ。秋もベンチから外れた。
「Bチームに落とした段階で、もしかしたらこのまま上がってこられないかなと、先行きを心配していたところもありました。正直、どうなるかはわからなかった。ですが、私の気がかりをよそに、清原はBチームの誰よりも練習し、ホームランを量産し、はい上がってきたのです」
昨年春の開幕前、堀井監督は清原について、こう指摘していた。
「飛ばす力はチームでも指折り。あとは投手と対峙(たいじ)したときに自分の〝間〟で打てるかなんですが、中学、高校の6年間、野球から離れてましたからね。試合で投手と対戦した経験が少ない。ですから、そこをいかに積み上げるかが課題だと思います」
清原はBチームで数多くの打席に立ち、6年間のブランクを埋めていったようだ。
今春のオープン戦ではAチームの「4番」を任された。けがでプレーできない期間もあったが、堀井監督は清原をAチームで同行させた。「そういう選手は主将の本間颯太朗(4年、慶應)ら、ごく限られた中心選手だけです」。清原がレギュラーとして認められた証しである。開幕2週間前に行われたセガサミーとの社会人対抗戦では、「7番・一塁手」で先発出場。1安打1打点だった。
「覚悟」の変化と使命感
守備ではしばらく外野を守っていたが、現在はファーストに戻った。「清原が送球をミットに収めてアウトを取ると、ベンチが盛り上がるんです。そういう選手は外野より内野のほうがいいと」
いまやバッティングのみならず、守備でもチームの雰囲気を変えられる存在だ。
堀井監督は清原の精神的な成長も感じ取っている。昨秋のリーグ戦や神宮大会で、清原はまるでベンチにいるかのように、スタンドからチームのために声援を送っていた。堀井監督はその姿を見逃さなかった。
「昨春の開幕戦ではスタメンだった選手ですからね。プライドもあったはず。面白くないと思っても不思議ではないです。でも、そうではなかった。(中継の録画で)慶大の応援席が映し出されたときの清原の表情を見て、真っ先にチームのことを考えられる選手になったなと。そう確信しました」
「覚悟」の質も変わったと感じている。
「去年の春くらいまでは『清原』の名前で野球をする覚悟だったと思います。それがどこかのタイミングで、『清原正吾として野球で勝負しよう』という覚悟に変わったのでしょう。それと使命感ですね。彼とはそういう話をじっくりしたことはないんですが、中学ではバレー、高校ではアメリカンフットボールをしていても、これだけ野球ができると、世の中に示したいのでは。社会的な使命感を背負ったときの人は強いですよ」
観察眼を支える記憶力と「堀井ノート」
堀井監督の鋭い観察眼を支えているのが、高い記憶力だ。例年、慶應義塾大は男子部員だけで170人を超える大所帯になるが、堀井監督の頭にはすべての選手のフォームが入っているという。
「映像で覚えているんです。入学したときはこうで、2年のときはこうだったな、と。フォームが変わるたびに、その選手の映像が増えていく。そんな感じですね」
頭に刻まれているのはプレーの映像だけではない。どこの出身で、高校時代の監督は誰で、どういう野球をしてきたかといった各選手の背景も、明確に記憶している。「そういうのが苦にならないというか、好きなんですよ(笑)」
選手の背景を知ることは、選手の根本を知ることにもつながる。堀井監督は「欠点が三つか四つあるとしたら、1回で直したい。選手に負担をかけたくないので。そのためには、根本から原因を考えていく必要があるんです」と言う。
記憶するとともに、気付いたことはすぐにメモを取る。慶應義塾大の監督になってからの「堀井ノート」は現在17冊目。「こちらは選手の特徴などを記した雑記帳ですね」。「堀井ノート」はもう一つあり、黒いカバーの手帳タイプのノートは9冊目。社会人の監督時代を合わせると、実に61冊目になる。この他にも「反省ノート」があり、「選手への言葉かけがうまくいかなかったときなどに、書くようにしています」。
これまでの「堀井ノート」は自宅の書棚にずらりと並んでおり、たまに見返すこともあるという。
「悩んだ時や、プレッシャーがかかったときですね。あのときはどんな心境だったのかな、と。あと、今と比較するために、選手の過去をノートで振り返ることもあります」
プロで戦えるレベルにある選手たち
堀井監督は就任から4年間、毎年ドラフト指名選手を輩出している。JR東日本の監督時代を合わせると、13年連続だ。今年の候補選手は誰か? 質問をぶつけると、こんな答えが返ってきた。
「最終的にはプロ側がどう判断するかですが、1人は水鳥遥貴(4年、慶應)でしょうか。(昨秋からショートのレギュラーになり)伸びしろの大きさを感じさせる選手です。守りと足はいいものがあるので、あとは打撃力ですね」
そして、もう一人が清原だという。
「私はプロで戦えるレベルにあると見てます。まだ持っているポテンシャルのうち、40か50%しか使えてませんが、そこをNPBのスカウトがどう判断するかだと思います」
自力ではい上がり、堀井監督の「目」にかなった清原。果たして大学ラストイヤーでの覚醒はなるか。昨年のレギュラー野手がごっそり抜けた中、2季連続日本一に向けたキーマンの一人になるのは間違いないだろう。