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特集:New Leaders2024

立教大・田中祥都主将がめざす「結束」 コロナ禍だった仙台育英最後の夏に学んだこと

立教大野球部主将の田中祥都。仙台育英高でも主将を務めた(撮影・大宮慎次朗)

昨年秋、次年度の主将就任が決まっていた立教大学の田中祥都(4年、仙台育英)はスマホを手に取った。恩師の須江航監督に電話で報告すると、こう激励された。「また大変なときにキャプテンやるね。でも、絶対やれるよ」

立教大にとって今年は名実ともに復活を期す1年だ。昨年は東京六大学リーグで2季連続の5位に沈み、秋には部内の暴行事案などが発覚した。田中は新たな伝統を作ろうと意気込んでいる。

【新主将特集】New Leaders2024

スローガンに込めた思い

2月上旬の朝、埼玉県新座市のキャンパス周辺。軍手をつけた野球部員たちが10人ずつほどのグループを作り、近くの住宅街に散らばっていった。時折、道行く住民と会話しながら、空き缶やたばこの吸い殻を拾う。今年1月から、月1回ほど行っている地域清掃活動だ。

埼玉県新座市周辺の清掃活動に取り組む立教大野球部の部員たち(撮影・大宮慎次朗)

田中は狙いをこう語る。

「今年のスローガンは『結束』。チームが一つになるだけじゃなくて、神宮で応援してくださる方や地域の方とも一つになりたい。もともと地域の方との交流が少なかったと感じていたので、街に出ていこうと。オープンな立教大学野球部にしたい」

昨秋のリーグ戦期間中、上級生から下級生への暴行や10代の部員への喫煙強要などが週刊誌の報道で発覚した。一時は4年生の出場が自粛となり、第三者を含めた委員会での調査を経て、溝口智成・前監督の契約が12月に解除となった。

「野球以前にやることがある」と、責任を感じていた田中。1年時からリーグ戦に出場する中、こんな問題意識を抱いていた。「もともとミーティングが少なく、部員間のコミュニケーションが足りていなかった。その悪い部分が大きくなって、問題につながってしまったのだと思う」

1年秋の秋季リーグ戦「2番・サード」デビューを果たした田中(左奥、撮影・森田博志)

コロナで休校中も欠かさなかったオンラインミーティング

部員は例年、全学年を合わせると150人近くの大所帯だ。コミュニケーションを増やすために、様々な改革を試みた。

上級生の幹部だけで行っていたミーティングは、下級生も交えて意見を吸い上げる形式にした。寮の朝の掃除は、毎日全学年で行う。キャンパス周辺の清掃活動には、上級生と下級生でグループを作ることで交流を図る目的もある。

ミーティングを大事にし、チームとしての方針を徹底して共有する。「あのころ」もそうだった。

高校3年で主将だった2020年春、コロナ禍が猛威を振るい、緊急事態宣言の発出が繰り返されていた。出場予定だった3月の選抜高校野球大会は中止になり、4月から約2カ月は休校になって、部員は全国に散り散りになった。目標を見失いそうになるからこそ毎日のオンラインミーティングは欠かさず、夏の全国選手権大会中止も想定しながら練習を重ねた。

「誰にもどうにもできない状況だったし、前を向くしかなかった」

6月、中止になった夏の宮城大会の代わりに、宮城県高野連が主催する独自の県大会が開催されることに決まった。どんな目的を持って臨むか。やはり毎日、話し合った。出した答えが、「3年生全員が出場を果たし、育英の伝統を後輩に見せる」ことだった。

独自大会は期間中の選手の入れ替えを認めていたため、試合ごとにメンバーを替えて記録員を含む3年生40人全員がベンチ入りした。公式戦初出場を含む選手全員が出場し、頂点に立った。

「2年生をメンバーに入れた方が良いっていう意見もあったけど、みんなが本当に納得するまでずっと話した。だからチームとして強くなれたと思う。コミュニケーションの重要性を学んだし、それは今にも生きている」

宮城県の独自大会は3年生全員が出場し、頂点に立った(撮影・大宮慎次朗)

「普通の1年間にしたくない。新しい伝統を作ろう」

昨秋、主将に立候補した。「器用じゃないから」と、例年より副主将を1人多くした。最初のミーティングで、仲間にこう語ったという。

「立教は100年以上の歴史があるチームだけど、その『たったの1年だった』っていう風に終わりたくない。普通の1年間にしたくない。新しい伝統を作ろう」

リーグ戦の優勝は、2017年春を最後に遠ざかる。田中のめざす「結束」は、どんな形で結実するだろうか。

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