関西大・藤原太郎 金丸夢斗を援護したいと思うときほど冷静に「1個ずつ塁を進める」
今年のプロ野球ドラフト会議の目玉・金丸夢斗(4年、神港橘)を擁し、今春の関西学生リーグ戦から注目を集めている関西大学。その先頭に立っているのが主将の藤原太郎(4年、佐久長聖)だ。小、中、高校でもキャプテンを務めた。高校時代は部員が3学年合わせて100人を超え、関大も4学年で120人以上。ただ高校と大学では、チームを引っ張るスタイルが異なる。
高校と大学で異なるキャプテンとしてのスタイル
「高校の時は甲子園という明確な目標があって、それに縛って統制すればいいんですけれど、大学はそうじゃない。色んな思いを持った選手がたくさんいます。リーグ戦で勝つことが第一ですが、違う目的を持っている選手もいる。試合で勝つという基盤も持ちつつ、それぞれの思いがあることも考えながらまとめていくようにしています」
高校時代は内野手だった。1年春からベンチ入りし、同年夏にはチームが甲子園に出場。2回戦の高岡商業戦では代打で打席にも立った。キャプテンとなった高校最後の年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で甲子園大会が中止に。大きな目標を失ったが、卒業後は少しでも長く野球を続けたいと、佐久長聖の先輩も在籍している関大を志した。
だが、大学では本職の内野手ではなく外野手としてノックを受けるようになった。
「関大では、ある程度通用すると自信を持ってきたつもりだったんですけれど、まったく通用しなかったんです。外野手をするのは初めてだったので、何もかも1からのスタートでした」
内野と外野では送球の感覚が全く異なる。これまでの当たり前を生かせないどころか、最初は捕球もままならず、外野に慣れることに必死だった。木製バットにも慣れるために、本来なら打撃練習に時間を割きたかったが、それどころではなかった。
「自分はもともとバッティングが課題だったんです。(当時は)守備に時間をかけていて、バッティングもなかなか向上しなかった。それでも毎日バットを振ったり、色んな方に教わったり、アドバイスを受けたりしながら何とかやってきました」
今ではプラスに捉えている試合に出られない経験
高校までは入学直後からベンチに入っていたのが一転、大学1年目はなかなか試合に出られなかった。それでも今は「メンバー入りできない選手の気持ちを味わったことがなかったので、良い経験になりました」とプラスに捉えている。
2年秋にリーグ戦デビューを果たし、3年春からスタメンに名を連ねるようになった。いつも目線の先にいたのは、当時のキャプテンだった有馬諒(現・ENEOS)だった。
有馬は滋賀・近江高校時代から、冷静沈着なキャプテンとして一目置かれる存在だった。大学でも同じようにチームをしっかりと見渡し、冷静に状況を判断をしながら、チームをうまくまとめていた。その有馬から昨秋、キャプテンのバトンを受けた。ただ、藤原は有馬と同じことをしようとは思わなかった。
「有馬さんは絶対的な存在でした。でも、自分も過去にキャプテンをやらせてもらっていたので、まず自分の好きなようにやって、ミーティングをしながら、チームメートや監督、コーチと話し合って、自分たちらしいチームを作っていこうと思いました。有馬さんから特別なアドバイスはもらわなかったですが、『言わないといけない時はちゃんと言うべき』とは言われました」
藤原にも、これまで経験を積んできた自負がある。高校時代はミーティングを重ねて選手たちのつながりを図り、大学ではそれに加えてそれぞれの思いをくみながら、自分が思ったことをはっきりと口にするようになった。チームを引き締めながら、それぞれの目指すものを確認し合う。キャプテンの仕事は何度やっても気苦労が絶えないが、少しずつチームが形になってきた実感はある。
1打席を大切に「打つ方でも頼りにされたい」
今季のリーグ戦は金丸の一挙手一投足に注目が注がれ、さらに神経を使う。藤原にとって金丸は、これまでの大学生活をともに歩んできた大事な仲間だ。
「金丸は誰が見てもすごい投手ですし、チームにいてくれるだけで存在が大きいです。金丸は同期だけでなく後輩ともよくコミュニケーションを取ってくれるんです。普段からすごく明るいですが、やるときはやってくれる。本当に頼もしいです」
そんな存在だからこそ、攻撃陣としては早く金丸を援護したいと思っている。気負いそうになるときこそ、冷静に。「試合になって焦っても仕方がないので、1個ずつ塁を進めていくしかない。やるべきことをしっかりやって点を取るだけだと思っています」。その思いをチームに浸透させていくことも、キャプテンの役割だ。
それだけに第1節で京都大学から勝ち点を落としたことは、悔やんでも悔やみきれなかった。「(負けた直後は)信じられない気持ちはありましたが、(京大戦の)2戦を終えて時間が経つたびに、前を見てやるしかないと思うようになりました」
熱い思いを内に秘め、次の試合に全神経を集中させることを心掛けてきた。第3節の立命館大学戦も接戦となったが、少ないチャンスをものにして勝ち点を奪い、チームに勢いが生まれる雰囲気も出てきた。
1年目に試合に出られない選手の思いを体感したからこそ、リーグ戦での1打席1打席を大事にしていきたいと考えている。「できれば3割くらいの数字を残して、打つ方でも頼りにされたいです」
リーグ戦は中盤を迎えた。今では俊敏な動きが板についてきたライトのポジションから、藤原は常にアンテナを張りながら、チームの士気を高めていく。