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特集:第73回全日本大学野球選手権

天理大学・下林源太主将「全員で束になって戦う」時に厳しく、時に仲間と改善策を考え

7季連続優勝の天理大を引っ張る主将の下林(高校時代を除きすべて撮影・沢井史)

阪神大学野球春季リーグ戦の5節目。天理大学は関西国際大学に2-4で敗れた後、球場の外に選手たちを集めた主将の下林源太(4年、天理)が、輪の中心に立って語りかける場面があった。

「この春のリーグ戦はコールド勝ちや点差が離れた試合が多くて、劣勢に立たされた試合があまりなかったんです。リードされて、終盤で思うように点が取れなくなった時に、慌ててミスが出てしまう。そういう時こそ落ち着いて、自分たちがやるべきことを信じてやるべきだと思いました。ちょっとした隙があったのかもしれないですが、1球の重みをもう一度感じないといけない」

今年は飛び抜けた選手がいなくても

7季連続26回目のリーグ優勝を決めた直後の一戦だったこともあり、チーム内に多少の気の緩みがあったのかもしれない。今季2敗目となった一戦を終え、主将は時に語気を強めながらチームメートに必死に訴えていた。

2敗目を喫した後、チームメートの輪の中心で選手たちに言葉をかけた

天理大は、2014年から指揮を執ってきた藤原忠理(ただまさ)監督の天理高校野球部監督就任に伴い、昨季までヘッドコーチとしてチームを支えてきた三幣(みぬさ)寛志氏が今シーズンから監督に就任した。下林によると、監督が代わっても「大きな変化はなかった」という。これまで藤原監督が築き上げてきたものを引き継ぎながら、チームはスタートした。

ただ今年は、一昨年に上位打線を引っ張った友杉篤輝(現・千葉ロッテマリーンズ)、昨年は主に中軸を担った近藤遼一(現・Honda鈴鹿)のような絶対的な打者がいるわけではない。チーム状況を冷静に受け止めながら、下林は今季のチームの戦い方をこう明かした。

「飛び抜けた選手はいなくても、今年は足があるバッターが多いので、そういうバッターが塁に出ればノーアウトから積極的に仕掛けて点を取れていると思います。去年の近藤さんのような『一発が打てる選手』はいませんが、エンドランを仕掛けて進塁することを意識して、点を取れていたと思います」

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自身も開幕戦から「5番サード」で全8試合にスタメン出場。3割2分1厘の打率を残し、ベストナインにも選ばれた。ただ本人は「自分の調子は、ボチボチです」と控えめだ。「自分の前の3、4番の調子が良かったので、つながってきたチャンスを何とかモノにしようと打席に立ってきただけです」

3割超えの打率を残し、リーグのベストナイン(三塁手)にも選ばれた

練習から「質を上げてチームに貢献すること」を意識

下林は天理高校時代も主将を務めた。2年秋の近畿大会では1番を打ち、4試合で16打数11安打7打点と打ちまくり、優勝に貢献。翌春の選抜高校野球大会出場を決定的なものとした。

だが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により大会は中止に。当時はコロナ禍がいつ落ち着くか見通せない状況でも、常に顔を上げてチームを鼓舞する下林の姿があった。

身長170cmと決して体が大きい方ではない。だが、声が大きいため、その場に下林がいることは、すぐに分かる。太く、強く響き渡る声は、チームを引き締める一つの要因になっている。

「声は確かによく出す方だと思います。高校の時もそうですが、自分の周りにはいい選手が常にいて、その中で(刺激をもらいながら)やらせてもらっているのも大きいです。すごい選手がたくさんいる中で自分がやれることは、サードのポジションから声を出すこと。ピッチャーからも近い場所にいるので、常に先頭に立ってやろうという気持ちは、高校の時から変わっていません」

天理高校時代は、2020年夏の甲子園交流試合でプレーした

普段から「いかに練習の質を上げてチームにどう貢献できるか」を意識している。もちろん、それは下林だけでなく、選手一人ひとりに自覚を持ってもらい、チームの活性化にどうつなげるかを考えてもらっている。時に周囲へ厳しい要求をすることもあるが、決して押しつけるのではなく、現状を共有しながら一緒になって改善策を考える。

「高校から大学の野球に変わったばかりの頃は、バットが変わってピッチャーのレベルも一段と上がって、『考え方を変えなかったら絶対に打てない』と思いました。より『徹底力を持たないといけない』と思ってきました」

仲間の力も借りながら、チーム作りに生かす

今季は「全員で束になって戦うこと」を念頭に置き、リーグ戦を戦ってきた。「去年までは、ある程度スタメンが固定されていたけれど、今年は代打や代走を出してベンチ全員で勝ちにいくチームなんです。一人ひとりがそういった役割をしっかりできたから、リーグ優勝できたのかなと思います」と下林は言う。

その中で、主将としての立ち位置もうまく使いながら駆け抜けてきた。下林は〝ある手法〟も功を奏したことを明かす。

「高校でキャプテンだった時から、『この選手はどういう選手か、何が得意で何に詳しいか』とか、そういう特徴をよく見るようにしていたんです。たとえば、この選手はこういう要素をよく見ていそう、知っていそうと思ったら、その選手にその要素について意見を聞いてチーム作りに生かすとか。選手の意見をうまく利用できたことも良かったと思います」

リーダーシップを発揮するだけでなく、時に選手の意見にも耳を傾けながら、チーム作りに生かす

自分の考えを押し通すのではなく、仲間の力も借りながらチームの骨組みを1本ずつ固めてきた。もちろん、まだ道半ばだ。

今年の天理大は全員が主役。全日本大学野球選手権でも大きな声を響かせ、チームを後押しする下林が、チームに大きな活力をもたらすはずだ。

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