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特集:第73回全日本大学野球選手権

八戸学院大・小林日出主将 激戦リーグ制すも全日本で大敗、痛感したメンタルの重要性

チャンスで打席に。手とアイコンタクトで走者と確認する(全て撮影・西田哲)

第73回全日本大学野球選手権大会3日目、5年ぶり9回目出場の八戸学院大学は天理大学との初戦に臨み、1-11で5回コールド負けを喫した。「全国で通用するかどうか確かめに来たんですけど、自分たちのよさを何一つ出せなかった。悔しさしかないです」。試合後、主将の小林日出(4年、能代)はそう言葉を絞り出した。

富士大の躍進を目にして感じた脅威と希望

昨年は北東北大学野球連盟のライバル校・富士大学が、春の全日本大学野球選手権、秋の明治神宮野球大会で続けて全国4強入りを果たした。秋の北東北大学野球リーグ戦は八戸学院大が優勝したが、明治神宮野球大会出場をかけた東北地区大学野球王座決定戦では、リーグ戦2位の富士大に勝ち抜きを許し、全国切符を譲ってしまっていた。

2年秋から打線の中軸を担い続けている小林は、「富士大は全国でも結果を残している。こんなにも高い壁があるのか」と脅威を感じていた。ただ、富士大の躍進は、逆に希望にもなった。「富士大が活躍することで、(北東北大学野球)リーグのレベルが低くないのだと実感し、自分たちも全国で通用するのではないかと思うようになりました」

力強いスイングが持ち味だ

今春のリーグ戦はドラフト候補を多数そろえる富士大が、好投手擁する青森中央学院大学、ノースアジア大学、岩手大学に土をつけられ2位。八戸学院大は最終節の富士大戦こそ連敗したものの、青森大学を含む4校相手には全勝し、2季連続で頂点に立った。

どこが優勝してもおかしくない、実力伯仲のリーグ。小林は「どのチームが相手でも手を抜けない。全10試合、全力で戦わないと落としてしまう。すごい打者もたくさんいて、刺激的です」と北東北のレベルの高さを語る。そんなリーグを代表して出場するからこそ、勝ちたかった。

控え選手が前向きに リーグ戦でチーム成長

昨秋、新チーム発足と同時に主将に就任。本人は「下級生の頃から(将来的な)キャプテンっぽく振る舞ってきたわけではない」と話すが、経験値の高さを買われ大役を任された。

本人いわく「強く言う」タイプの主将ではない。それでも要所でチームを引き締め、オフ期間は全体の細かい課題を減らすべく、「妥協しない」練習を先導した。大学での全国大会出場経験のない同期とは、「今年こそ注目されていい思いをしよう」を合言葉にして励まし合った。「全国で通用する」チームづくりは着実に進んだ。

攻守交代でベンチへ。負けている展開でもチーム全員から声が出ている

春先のオープン戦では、劣勢をはね返せずに敗れる試合が続いたものの、ノースアジア大とのリーグ開幕節で、いずれもタイブレークまでもつれる接戦を制して連勝すると波に乗った。小林は「リーグ戦を戦う中で力をつけ、成長できたと思います」と振り返る。

小林が特にチームの成長を感じたのは、控え選手の姿勢だ。「去年はスタメンの選手とベンチの選手に温度差があった。今年はベンチの選手も常に声を出して盛り上げて、『自分の出番がどこかで来る』と信じて準備していました」。開幕2戦目で代打の永田琉偉(4年、東海大菅生)がサヨナラ打を放ったように、実際にチャンスをものにできる選手も増えてきた。

投手陣も特定の投手に頼りきりにならない、緻密(ちみつ)な継投策で勝利を引き寄せた。チーム一丸となって戦えることが、八戸学院大の強みになった。

交代登板する西山に声を掛け励ます

「いつも通り」ができない 大舞台の難しさ

天理大戦は「4番・一塁」でスタメン出場し、2打数無安打。1点を追う四回は無死一、三塁で打席に立ち、三塁走者をかえし同点としたものの併殺打に倒れた。そしてその裏、投手陣が打ち込まれ8失点。五回にも2点を失い、チームと自身の強みを発揮しきれないまま、春の戦いはあっという間に幕を閉じた。

「自分たちのペースで試合を運べなかったのが一番の敗因。リーグ戦は前半守りで粘って、後半に得点して勝ち切る試合が多かったけど、今日は守りきれなかった。ピッチャーだけでなく、チーム全体で見直さないといけない」

走者を許した直後、内野陣に大声で呼びかける

小林は一塁の守備位置から仲間に向けて「いつも通り、いつも通り」と声をかけ続けたが、「いつも通り」の野球はできなかった。リーグ戦との雰囲気の違いを感じたのか「声は出ているけど、通らない」選手も多かったといい、普段は聞こえるベンチからの声もこの日は届きづらかった。大舞台で戦うことの難しさを痛感した。

「リベンジしに来ます」主将が見据える“次”

小林自身は今秋ドラフトでのNPB入りを目指している。身長185センチ、体重90キロの恵まれた体格を生かした長打力が最大の武器。NPBスカウトの注目度も高く、今春は本塁打こそなかったが全試合で4番に座り、打率3割1分4厘をマークしてベストナインに輝いた。地元である秋田県能代市の県立校・能代高時代を含め、全国大会出場は初めて。今大会は個人としての能力をアピールする絶好の機会でもあった。

試合終了後。結果が出なかった無念さか、ひときわ長く頭を下げる

新沼舘貴志監督は試合後の取材で「こういう舞台を経験した選手たちの、次の姿勢や行動を見たいと思います」と口にした。小林はその「次」を見据えて、力を込めた。「一からやり直すだけです。全国で堂々と戦えるメンタルを鍛えないといけない。去年、富士大がベスト4という結果を残した中で、自分たちは初戦で、大差で負けた。秋、もう一回、リベンジしに来ます」

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