陸上・駅伝

特集:第56回全日本大学駅伝

新潟大学がわずか「1秒5」上回り、3大会連続伊勢路へ 激戦の北信越地区選考会詳報

3大会連続で北信越地区選考会を通過した新潟大学の選手たち(すべて撮影・吉田耕一郎)

第56回全日本大学駅伝対校選手権大会 北信越地区選考会

7月6日@長野市営陸上競技場(長野)
1位 新潟大学     4時間15分44秒92
—-------ここまで本戦出場----------
2位 信州大学     4時間15分46秒42
3位 金沢学院大学   4時間21分22秒27
4位 富山大学     4時間29分46秒42
5位 新潟医療福祉大学 4時間30分44秒47
6位 金沢大学     4時間44分15秒45

北信越学生陸上競技連盟が創立100周年を迎えた今年。全日本大学駅伝の出場1枠をかけた7月6日の地区選考会は、ドラマチックな展開が待っていた。選考会には6校が参加。1校あたり8~10選手が10000mを走り、各校上位8人の合計タイムで競った。経過を詳しく振り返る。

【特集】第56回全日本大学駅伝

1組終了時点で、タイム差はほぼなし

レースの流れを決める1組目。新潟大学は6月の北信越インカレ男子10000mで優勝した横山昇太郎(院2年、斐太)を起用し、前年同様に貯金をつくって逃げ切る戦略だった。横山はもくろみ通りにスタート直後から先頭を引き、2000m付近で後続を引き離し始める。ただ、3大会ぶりの出場を目指す信州大学も黙っていない。北信越インカレ男子5000mで4位に入った実力者、三林明弥(院1年、桃山)が一度は離されかけた横山の背中にピッタリと食らいつき、周回を刻んでいく。そして、7500m付近で三林が仕掛け、組1着でゴール。31分39秒65の好タイムだった。

三林はレース後に、プランを明かした。「最初に(横山が)出たんですけど、ラストに上げられるような余力を残しつつついていこうと思っていました。6000mまで余力を残し、7000mぐらいから出ようと思っていて、(周回遅れの)同じ信州大のメンバーが見えたので、声かけをしつつ上げていきました」

1組目トップでゴールした信州大の三林

信州大は上級生が多い編成。「2年連続で負けているメンバーが多い中、雪辱したいと思ってきた。1組でリードを奪って、2、3組目はその流れでいこうと話していたので、その通りの良いレースができた」と充実感をにじませつつ、汗をぬぐった。一方「勝ちきらないといけなかった。クレバーなレースをされてしまった」とは約13秒差の2着だった横山。ただ、「2組目、3組目も強い選手がいるので大丈夫!」とさわやかに言い、すぐに後続の選手への声かけに向かった。

1組終了時点で、3人ずつが走った信州大と新潟大の合計タイム差はほぼなかった。

最終組を前に、信州大学が約21秒リード

2組目は、1~3年生の若いメンバーで臨んでいる金沢学院大学の3選手が、前方で積極的にレースを進めた。ただ、同組に出走した信州大と新潟大の各3選手もついていき、先頭集団はこの3大学の9選手で形成された。お互いに牽制(けんせい)し合い、5000mの通過は17分05秒とスローペースに。このまま進むと、2組目の選手の記録は、上位8人のチーム合計タイムには、ほぼ影響を及ぼさないことになる。一気にペースアップしたのは、信州大・田中悠貴(3年、北須磨)と新潟大・金子敦哉(3年、桐生)の2人。ただ、田中の方が表情に余裕があった。6000m手前で金子を引き離して独走状態に。32分40秒77の組1着でフィニッシュした。

2組目は、金沢学院大の選手たちが積極的に前でレースを進めた

田中は「スローペースは予想していたけど、予想以上だった。頭を使いながらのレースになったかなぁ」と振り返った。「チーム的には三林さんが1組目トップでつないでくれたので、自分が出て最後にとらえられるよりも、余裕のあるところから勝負しようと思っていた」と、チームの良い流れに乗った格好だ。後半の5000mは15分35秒前後のペースで押しきり、この組の新潟大1番手の選手に、約21秒差をつけた。2組を終え、田中が作った21秒の貯金が、両校のおおよその差になった。

2着に入ったのは、粘った金沢学院大の永山涼太(2年、富山商)。高校の1学年後輩にあたる川端大翔を序盤から引っ張り、積極的なレースぶりが光った。「去年は3組目で走って、5000m以降に遅れてからリカバリーができなかった。今年はそれができたので、個人的には満足いくレースができました」と笑顔を見せた。

新潟大学エース・中戸元貴が大会記録更新の走り

最終3組で最大の焦点は、10000mの北信越学生記録(29分08秒73)を持つ新潟大の中戸元貴(3年、黒沢尻北)に信州大の選手がどれだけ食らいつけるか、だった。中戸にタイムを稼がれなければ、信州大が2組目までの〝貯金〟を生かして伊勢路への切符をつかむ。

最初の2000mは7分14秒。中戸の持ちタイムにしては静かな入りになり、「集団のペースでは自分に合わないので、自分で引っ張り、我慢して絞り出しの勝負に持っていこうと思った」。ここから一気にペースを上げて、後続をふるい落としにかかった。ただ、信州大勢がこの動きに反応。北信越インカレ5000mで優勝した信州大のエース松林直亮(院1年、西宮)や1年生の片岡晴哉(韮山)が中戸の背中を追った。

片岡は北信越の学生長距離界を引っ張ってきた2人から徐々に引き離され始めたものの、大きな遅れを取ることなく3位で粘る。こうなれば、あとは松林が中戸にどれだけついていけるか。松林は9000m付近まで数秒差で食らいついていた。ただ、そこから中戸がさらにギアチェンジ。30分03秒75と、昨年自身が樹立した大会記録を13秒以上更新する好タイムで、2位の松林に約28秒の差をつけた。

「正確かは分からないけど、だいたい(信州大と)20秒の差と聞いていたので、何秒でもいいからタイムを稼ごうと思っていた」と中戸。ラスト1000mの絞り出しについては、「北信越記録保持者のプライドでした」と胸を張った。

最終組は、北信越記録保持者のプライドで中戸が組1着を勝ち取った

ただ、この組の3着は信州大の片岡。信州大、新潟大ともに大きく遅れる選手はおらず、本戦出場をかけた戦いは大接戦になった。

閉会式。新潟大の優勝が発表されると、中戸は涙をこぼして喜んだ。「ブロック長として半年間やってきて、目標が全日本の北信越の枠を(本大会で上位に入って)増やすことだったので。まずは出られてよかった」と安堵(あんど)の気持ちから泣いた。上位8人の合計タイムは4時間15分44秒92。「少しの差で勝ったか、負けたかと事前に聞いていた」と中戸が言う通り、2位信州大との差はわずかに1秒5だった。1人あたりで換算すると、0秒2にも満たない紙一重での決着だった。

ただ、あくまでも本大会出場はスタートライン。「まだまだ、力が足りない。練習を積んで、(本大会は)2区で10番以内をめざしたい」と殊勲の走りをした北信越のエースは、先を見据えた。

執念でつかんだ伊勢路への切符。本戦では上位を目指す

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