陸上・駅伝

特集:第56回全日本大学駅伝

鹿児島大学が2年連続の伊勢路本戦切符 主力が卒業したピンチ、選手層の底上げで克服

伊勢路への切符を祝い、全員で鹿児島大の「K」ポーズ(すべて撮影・西田哲)

第56回全日本大学駅伝対校選手権大会 九州地区選考会

6月2日@福岡大学陸上競技場
1位 鹿児島大学  4時間12分08秒19
----------ここまで本戦出場------------
2位 第一工科大学 4時間15分20秒84
3位 日本文理大学 4時間17分14秒85
4位 長崎国際大学 4時間17分33秒21
5位 志學館大学  4時間17分43秒51
6位 福岡大学   4時間24分26秒18
7位 熊本大学   4時間24分36秒85
8位 九州大学   4時間26分55秒98

第56回全日本大学駅伝の九州地区選考会が6月2日、福岡大学陸上競技場で開かれ、鹿児島大学が1位となって2年連続の本戦出場を決めた。昨年の選考会でチームを39大会ぶりの出場に導いた主力2人が卒業し、戦力ダウンを不安視していた時期もあったというが、逆に総合タイムを昨年より3分半も縮めてみせた。取り組んできた選手層の底上げが実を結んだ。

1組目の3年生トリオが「魂の走り」

レースは3組に分かれて行われた。事前に発表されたエントリーリストを見た鹿児島大のメンバーは、少し驚いたという。最大のライバルとみていた第一工科大学が、日本人の主力を第1組に入れてきたためだ。そして最終第3組には、抜けた実力を持つチェボティビン・サイラス・キプラガト(2年、福岡第一)を配しており、梅橋拓也主将(3年、鳳凰)は「第一工科さんは1組目で差を付けて先行し、それを3組目のキプラガトまで守り切る作戦」と読んだ。

1組目。梅橋主将は先頭集団の好位置につけ、出水田(右から2人目)、水口も食らいついた

それに対して鹿児島大の第1組メンバーは、主将の梅橋がいるものの、水口渉(3年、岩国)と出水田怜緒(3年、鹿屋)は10000mのトラック競技が初出場。両校の3組までの選手配置を見て展開を予想した梅橋は、「1組目の自分たち3年生トリオがカギ。3人の合計タイムで勝てないとしても、僅差(きんさ)でついていって、2組目以降へ流れを作ろう」と、全員に言い聞かせて、当日を迎えた。

1組目は、梅橋と第一工科大3人を含む5~6人の先頭集団が終盤までレースを引っ張った。水口と出水田は集団からは少し離されながらも必死に食らいついた。梅橋は必死の形相でスパートをかけ、第一工科大の3人を上回る組2位でゴール。そしてゴール付近にとどまり、後続の水口、出水田を大声で必死に呼び込み、迎え入れた。水口が組6位、出水田も8位という結果に、藤本悠太郎(3年、宮崎西)は「魂の走りを見せてもらった」と、うなった。3年生トリオは第一工科大との差を約52秒にとどめ、狙い通りに流れを作った。

2組目・3組目も作戦ズバリ 歓喜爆発

2組目は、平野皓大(4年、筑前)と清藤悠里(2年、鹿児島南)が3位集団をキープし続ける展開。脇園大貴(4年、川内)も含めたトータルでも第一工科大に対して終始優位にレースを進め、この組終了時の6人合計のタイム差を約10秒にまで縮めた。

2組目は平野(右から2人目)、清藤(左)らが力を発揮し、ライバルとの差を詰めた

3組目で走る第一工科大のキプラガトは、昨年の選考会で2位を1分20秒以上離してトップだった。キプラガトに負ける分を、日本人同士の勝負で稼ぎ出さなければいけない。ただ、鹿児島大チームは九州インカレの結果を踏まえた戦力分析を行い、「3組目に走る日本人選手同士なら、キプラガト選手のタイムを考えても十分貯金が作れる」と判断していた。

3組目を走る藤本は、「スローペースになってタイムを稼げない展開だけは避けなければ」と鶴田寛武(4年、鹿児島中央)と相談。2人で3位集団の先頭に立ち、時折「引っ張れる? 引っ張れない?」と声を掛け合い、苦しいときは先頭を交代しながら、自己ベストペースで周回。2人は先行するキプラガトとの差を半周程度に抑え、組3位、4位でゴール。別府明稔(4年、川棚)、弓削佑太(修士2年、鹿児島南)も、他の第一工科大の選手を抑えてゴールした。

3組目のレース後、まだ立ち上がれない選手を部員らが取り囲み、涙。藤本が「本戦みんなで行くぞ!」と叫んだ

藤本は直後、鶴田やスタンドのチームメートに勝利を確認すると、地面で倒れたままガッツポーズ。駆け寄ってきたチームメートと「本戦みんなで行くぞ!」と抱き合って喜び、まだ立ち上がれない別府、弓削にも勝利を伝えて抱擁した。1組で流れを作った梅橋主将には「1組目ががんばってくれたんで、アドレナリンが出た」と感謝を伝えた。

2位との差は、昨年の選考会の約50秒から、今年は約3分10秒にまで広げる完勝だった。鶴田は「前評判は去年より劣ると言われていましたが、今日は(いい走りが)できました」と胸を張った。

強化策が成功「間違ってなかった」

練習やミーティングの後、たびたびそろって温泉に行くなど、学年を問わず仲がよいという鹿児島大チーム。レース後の胴上げや記念撮影でも、全員に笑顔がはじけていた。

ただ、主力だった茅野智裕(鹿児島工業)・田代敬之(日向学院)が今春卒業して、チームには大きな不安があったという。梅橋主将ら新チームの幹部たちは、「昨年のチームは主力組とそれ以外の力の差が大きかった」と分析し、今年の強化方針を検討。主力に合わせた練習よりも、全体の底上げをする練習メニューを選び、実施してきた。また、梅橋は「最後に絞り出すために」毎回練習の最後に全員に400m全力ダッシュを課してきたという。

「前、落ちてきてるよ!」「弓削さん、あなたに懸かってる」。スタンドから分析と声援が選手に送られた

本番では、経験の浅かった水口・出水田が1組目で好走して流れを作り、出場10人のうち30分台が2人、31分台が5人、32分台が3人と、藤本らの主力組から大きく遅れる選手もいなかった。新チームがめざしてきた「底上げ」が実った形だ。全員がラスト1周でギアチェンジして「絞り出す」姿も印象的だった。藤本はこの結果に、「(代が替わってから)やってきたことは間違ってなかったと思えた」と、少しホッとした表情を見せた。

また、昨年の全日本出場が功を奏して、今年は長距離部門に新入部員が9人入ってきたという。「全日本効果」で、来年以降に向けての視界も良好だ。

「国立大で1位」「九州の増枠」目標

全日本について梅橋は、「昨年は(全員が選手として)初出場だったこともあって、雰囲気にのまれたり、あたふたしたりした部分があった。今年は2年連続の伊勢路ということで、自分たち『チーム鹿大』に自信を持って、伸び伸びと臨みたいです。目標は、『国立1位』と、大阪など他地区の大学を上回って、九州の枠を2に増やすことです」と宣言。残り約半年でもう一段の強化を図る。

表彰式後、最初に胴上げされた梅橋主将

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